大企業を対象とした「AI時代の課題と今後の対応」について、サイボウズが「kintone」の実績や顧客動向を踏まえて見解を示した。AIを活用したい全ての企業にとっても参考になりそうだ。
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AI活用に向けた取り組みで重要なポイントは何か。どの企業も注視するこの点について、サイボウズが主力サービスのノーコード開発ツール「kintone」の実績や顧客動向を踏まえて、特に大企業を対象とした「AI時代の課題と今後の対応」について見解を示した。その内容が興味深かったのでエッセンスを紹介し、考察したい。
サイボウズは2026年8月20日、「AI時代の大企業DX(デジタルトランスフォーメーション)に求められる“攻め”と“守り”〜サイボウズのこれまでの取り組みで見えてきた実践知と今後の戦略〜」と題して記者説明会を開いた。その中で「大企業の課題とこれから」について説明した内容が、AIを活用したい企業にとって参考になると感じたので紹介したい。
説明に立ったサイボウズの池田陽介氏(エンタープライズ事業本部 副本部長 kintoneプロダクトマーケティングマネージャー)によると、kintoneの国内での契約者数は約4万社で、東証プライム企業の約46%が導入している状況だ。また、ユーザー企業の業種別割合は図1右の円グラフのように偏りなく幅広い。「日本の産業構造の実態とほぼ同じ」(池田氏)だという。こうした実績から、大企業の課題とこれからの話についても説得力があると感じたので、本稿で取り上げることにした。
サイボウズでは企業規模について従業員数で区分しており、1000人以上が大企業、100〜999人が中堅企業、99人以下が中小企業としている。総務省の統計(注1)によると、国内企業のうち大企業は1%にも満たないが、従業員数では約4割を占めている。従って、kintoneにおいても大企業向けビジネスは重要な取り組みとなっている。
池田氏はサイボウズが大企業向けに注力する理由について、図2に示した点を挙げた。
こうした同社の取り組みやkintoneの実績および顧客動向を踏まえ、池田氏は大企業の課題について、次のように述べた。
「AIの登場でシステムの内製化志向が今後ますます高まるだろう。また、IT人材の不足も懸念されている。そうした中で、IT部門がシステム開発に携わるのは今後も変わらないだろうが、一方で、市民開発も欠かせない取り組みになるだろう。とはいえ、市民開発においてAIをフル活用していくとなると、セキュリティやガバナンスにおいて大きな不安がつきまとう。従って、AIをどこでどのように活用するのか、そのデータ基盤はどうするのか。直近では、AIエージェントが安全に動くための組織や仕組み、ルールの策定、さらにはそのための企業の文化や風土づくりが課題となってくる」
その上で、同氏は課題のキーワードとして「データ」「業務」「カルチャー」の3つを挙げた。
池田氏はここで「少し前」の振り返りとして、大企業がAI活用に向けてこれまで進めてきた2つの取り組みを挙げた。
この時は「一般的なAIをとにかく触らせる」ということで、「従業員のAIアレルギーをなくしてAIリテラシーを掴む」ことを目的としていた(図3)。
もう一つは、1から進んで「AIの性能がデータの質と量で決まる」ことが分かってきたことから、データをAIが読み込める形に取り組むようになった(図4)。
こうした取り組みを経て、「データプラットフォームの重要性が認識されるようになってきた」と、池田氏は言う。同氏はデータプラットフォームについて、「社内に散在するあらゆるデータを一元的に集約・連携し、誰もが適切な権限の下で安全に活用できるようにする企業のデータ基盤」と説明し、「AIやノーコード開発ツールの価値を最大化させるのに必要不可欠」とも述べた。これが、先述の課題のキーワードで挙げた「データ」への対応だ。
さらに同氏は、「kintoneは今、ノーコード開発ツールであることを前面に打ち出している。しかし、kintoneはもともとアプリケーションの開発や連携に幅広く適用でき、AI活用も積極的に進めていることから、データプラットフォームとしても十分に役目を果たせるものになっている」と強調した(図5)。
次に、先述の課題のキーワードで挙げた「業務」については、「“AIと働く”ことを前提に、組織と業務を再設計する必要がある」(池田氏)と強調した。「AIと働く」とは、さまざまな業務を自律的にこなすAIエージェントの導入・運用が本格化することを想定した場合のことだ。
なぜ、再設計する必要があるのか。池田氏は「組織構造および業務の内容や範囲が曖昧だと、AIエージェントの活用が限定的になってしまう。また、組織や業務がAPIのように連携できる必要があるからだ」と説明した。
こうした取り組みとして、このところよく使われる言葉が「AI-Ready」だ。同氏はこの言葉の意味についても、「単にAIツールを導入したとかAIを使っているということではなく、企業としてAIを効果的に活用できる状態を指す」と説明した。
では、AI-Readyの企業になるためにはどうすればよいのか。同氏は「テクノロジーだけでなく、組織としての準備も必須だ。テクノロジーの導入とそれを組織が使いこなせるかは全く別の話で、これらは両輪で進める必要がある」と述べた。図6は、組織およびテクノロジーにおける「役割」「担い手」「問い」を明示したものだ。その上で同氏は「どちらかが欠けると、テクノロジー(AI)は“使えない”か“使われない”で止まってしまう」とも述べた。
そして、先述の課題のキーワードで挙げた「カルチャー」については、図7に示した要点を挙げた上で、「人がAIを使いこなし、前向きに挑戦し続ける組織文化、新しい道具(AI)を使いこなす風土という土壌を築くことが重要だ」との見解を示した。
ちなみに、kintoneはこれまで述べてきた大企業の課題に対応し、「AI時代の市民開発とガバナンスの基盤を実現する」(池田氏)とのことだ。同社は今回の会見のテーマで「攻めと守り」と表現しており、市民開発が「攻め」、ガバナンスが「守り」との捉え方のようだ(図8)。
以上が、サイボウズによる大企業の課題とこれからの話だ。
改めて、筆者が最も印象深かったのは、「“AIと働く”ための組織と業務の再設計」の必要性を強く訴えていたことだ。どう再設計すればよいのか。図7で示された見解がその方向性とも見て取れるが、この点では筆者の見解も以下に述べておきたい。
それは、この再設計こそが、企業にとってどのような経営を目指すのか、人をどう生かすのか、AIをどう生かすのかといった新たな挑戦ということだ。前例も先行事例もない。あったところであくまで参考に留め、企業競争力に直結するだろうこの挑戦を自らのアイデアと取り組みで突き進む。とりわけ、経営者にとってこれほどやりがいのある仕事はそうないだろう。それこそ再設計を一大経営改革として、全社を挙げて取り組めばどうか。この再設計はAIの知恵や労力を借りるとしても、人が前面に出て推進すべき取り組みだ。そんな企業がどんどん出てくることを期待したい。
(注1)企業規模別の企業数・従業者数は総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」を参照
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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