NECが「AI自律型組織」を新設 「従業員はいらなくなる?」の問いに、CAXOはどう答えたかWeekly Memo

NECが「AIネイティブカンパニー」を目指して「AI自律型組織」を新設した。AIを「企業OS」として組織に組み込むというのは、果たして、どのような取り組みなのか。AIが自律的に進化する組織に変わる中で、従業員はどうなるのか。企業のAXについて考察する。

» 2026年09月24日 11時45分 公開
[松岡 功ITmedia]

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 企業は活動全体の変革に向けて、「AIネイティブカンパニー」を目指せ――。こうした考え方の下、NECがその具体的な取り組みとして「AI自律型組織」を新設した。AIネイティブカンパニーとは何か。AI自律型組織とはどのようなものか。今回はNECの新たな取り組みに注目し、企業のAX(AIトランスフォーメーション)について考察したい。

NECはなぜ「AI自律型組織」を新設したのか?

 「NECはAI自律型組織を2026年8月1日に新設した。今日はその背景にある考え方や想いとともに、この取り組みについてお話ししたい」

 NECの小玉浩氏(執行役 Corporate EVP 兼 CAXO=最高AX責任者)は、同社が2026年9月9日に開いた「NECが目指すAIネイティブカンパニーとAI自律型組織」と題した記者説明会で、こう切り出した。

NECの小玉浩氏(執行役 Corporate EVP 兼 CAXO)(筆者撮影)

 同社が新設したAI自律型組織とは何か。

 NECはAI自律型組織について、「人とAIの共創の実践に向けて部門長から従業員まで全ての役割をAIが担い、自律的に業務を遂行する社内組織」である「コーポレートAI・Workforce部門」だと説明する。同組織ではAIが業務遂行を担い、最終的な評価・意思決定、品質・ガバナンスの統制は人が担うとしている。

 同社はこの取り組みを、人とAIの関わり方を検証する「組織としてのAIキャピタル活用の実証」と位置付けている。グループ約10万人の従業員を擁する自社をゼロ番目のクライアントとする「クライアントゼロ」として、ガバナンスの確立、コミュニケーションの可視化とトレーサビリティーの確保、アウトプット品質の担保、個人ではなく組織全体にAIの知見・IQ(知的能力)が蓄積される仕組みの構築を進めている。人がこのIQを活用することで、人の能力そのものを高めていく。これにより、「労働人口が減少する中、AIを人の代替ではなく、人の能力を拡張する“増力”として活用し、人がより高度で創造的な業務に集中できる新しい企業運営モデルの確立を目指す」(小玉氏)としている。

 図1に示したのが、クライアントゼロとしてNECがDX(デジタルトランスフォーメーション)およびAXに取り組んだ成果だ。同社のこの取り組みのベースには「企業OS」という考え方がある(図1)。

図1 クライアントゼロの成果(出典:NECの説明資料)

 同社が企業OSの基本的な考え方として重視しているのは、「人的資本とAI資本の最適配分」だ。企業活動全体の変革の“創造”を担う「人的資本」と、変革の“加速”を担う「AI資本」の最適な配分を見据えるとしている。人が主導するという前提はそのままに、既存業務に部分的にAIを組み込む従来のアプローチから、AIを前提とした企業OS、経営オペレーティングモデルへと進化させ、AIネイティブ時代の企業経営変革を推進すると説明する。これがすなわち「AIネイティブカンパニーへの挑戦」だ(図2)。

図2 人的資本とAI資本の最適配分(出典:NECの説明資料)

 図3は、AIネイティブな企業OSの構成要素を示したものだ。下から「組織とカルチャー」「AIアーキテクチャ」「ディレクション」の3層構造となっており、それぞれの層には図に記された要素がある。ポイントは、「OS」と言いながらアーキテクチャの話だけではないということだ。

図3 AIネイティブな企業OSの構成要素(出典:NECの説明資料)

 NECがこのたび新設したAI自律型組織は、こうした経緯があって誕生した。小玉氏は新組織が生まれた背景と考え方について、図4のように整理して説明した。

 この中で、筆者が特に印象深かったのは「AIに使われる/置き換わる会社でなく、AIを組織として使いこなし価値を創出」との表現だ。同社が目指しているAIネイティブカンパニーは、あくまでも「人が中心」というのが基本的な考え方だ。その前提があってこその表現だと感じた。

図4 AI自律型組織が生まれた背景と考え方(出典:NECの説明資料)

AIとのタッグで「人はより高度で創造的な業務に」

 では、新組織であるコーポレートAI・Workforce部門の概要と特徴を紹介しよう。

 同部門はAI部門長、AIボード(CxO機能)、AIマネージャー、AI社員の4階層で構成される。職務定義から実行・自己進化までをAI自律型で担い、人がその品質とガバナンスを統制する組織で、2026年7月からの1カ月間の社内実証を経て正式に発足した(図5)。

図5 コーポレートAI・Workforce部門の概要(出典:NECの説明資料)

 それぞれの役割については、AI部門長が組織全体の稼働状況を把握・管理し、AIボードがAI組織の状況を経営視点から評価、AIマネージャーが業務を品質・コストなどの観点から横断的に管理し、AI社員が各タスクを遂行するといった具合だ。

 AI社員は、社内からの業務ニーズに応じてAIマネージャーが都度生成し、役割を任命する。生成されたAI社員には同社のパーパス、行動規範、社内規定などを、業務遂行の前提となる知識や判断基準として組み込むオンボーディングを実施し、AI社員はこの枠組みの中で業務を遂行する。また各AIは不足スキルを自ら学習し、継続的にアップデートする。

 さらに、AIボードとAIマネージャーがAIエージェントの生成・稼働・改善を一元的に管理し、その活動の透明性・品質を含む最終的な評価・統制は人が担うガバナンスを確立している。業務を本部門へ集約・移管することで、個別部門や利用者ごとにAIエージェントが分散的に構築・運用されることを抑制し、安全かつ統制されたAI活用を推進するとしている。

 社内実証では、役員会議で示す経営分析・シミュレーション・リスク予兆検知をAIが一貫して遂行することで、この業務にかかる時間を約7分の1とし、人は他のより高度な業務に時間を割くことができるようになったという。なお、全てのAIの活動はデジタルツイン上に構築した「AI統合マネジメントコックピット」でリアルタイムに可視化される(図6)。

図6 AI統合マネジメントコックピット(出典:NECの説明資料)

 また、同部門では週次のサーベイを通じて全AI社員から業務上の課題や改善提案を収集し、AIボードで審議・決議する。AIは自らのパフォーマンスを最大限に発揮するため、AI組織内で自律的に解決できる課題と、人の対応が必要な課題を切り分けて提案する。AI組織内で対応可能なものは人の手を介さず自ら改善する一方、データ・権限・ナレッジ・コンテキストなど整備が必要なものは、人にリクエストとして提示される。これにより、人の役割はAIが働きやすい環境の整備と、意思決定や変革の実行などAIには担えない領域へとシフトし、人とAIが協働する業務の精度とスピードを継続的に高めるとしている。

 なお、NECは今後、新組織運営で培った仕組み・方法論・基盤・運用ノウハウをDX/AX支援ソリューション「BluStellar」として提供する予定だ。

 小玉氏は会見での説明の最後に、AIネイティブ時代の企業経営に求められる要素について図7に示し、「AIを前提とした企業OSによって人や組織の可能性を解き放ち、圧倒的な企業価値を実現したい」と力を込めた。

図7 AIネイティブ時代の企業経営に求められる要素(出典:NECの説明資料)

 とはいえ、AIエージェントがどんどん自律的に仕事をこなすようになると、NECの思惑とは裏腹に人のやることはどんどん減っていくのではないか。「人はより高度で創造的な業務に」と言うが、そうなれる人は限られるのではないか。小玉氏の説明でそう感じたので、質疑応答で単刀直入に聞いてみた。すると同氏は次のように答えた。

 「私はそう思わない。なぜかといえば、それぞれの業務の専門知識をAIによって補えるようになれば、むしろそれぞれの分野で新しい仕事がどんどん生まれると考えているからだ。そうなれば、人はこれまでやったことのない業務でも、AIを使いこなせば、より高度で創造的な仕事ができるようになる。企業もそうしたAI活用による人材シフトの仕組みを構築することが非常に重要になるだろう」

 人はそこまでAIを使いこなせるだろうかとも思うが、小玉氏の見方には多くの人が賛同するのではないか。それもさることながら、筆者が強く印象に残ったのは、最後に語った企業としての対応だ。今後は、AIを活用して新しい仕事を生み出す仕組みを構築することが企業のマネジメントとして非常に重要な課題となり、それこそが企業競争力に直結するようになるのではないか。この点もNECのチャレンジの核心なのだろう。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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