企業のAI活用に向けて注目されるFDE。そのあるべき姿とは何か。例えば、FDEは成果報酬であるべきではないだろうか。日本オラクルの「オラクル版FDE」を紹介しつつ、FDEのあるべき姿と、これからFDEを使おうとする企業が押さえるべきポイントを考察する。
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企業の業務にAIを活用する動きが活発化する中で、「FDE」(Forward Deployed Engineer)と呼ばれる新たなエンジニア職種が注目を集めている。ベンダー視点でいうと「顧客企業に常駐してAI導入を支援する」というのが最も短い説明だが、その定義や捉え方は企業および個人によって異なるところがある。
このほど日本オラクルが「オラクル版FDE」について説明したので、そのポイントを紹介するとともに、この機会にこれからFDEを使おうと考えている企業に筆者が3つ提案したい。
Gartnerによると、FDEとは「ソフトウェア製品を提供するベンダーのエンジニアが顧客企業の現場に入り込み、顧客固有の課題に合わせてAIによるサービスやソフトウェアを共同開発するソフトウェアエンジニア、あるいは開発モデル」のことだ。先に述べたように定義や捉え方には幅があるが、本稿ではこのGartnerの定義を前提とする。
FDEについては、機会があれば本連載で取り上げたいと思っていた。そうした中、日本オラクルが2026年10月6日に都内で開催した自社イベント「Oracle AI Forum」と、それに伴うメディア・アナリスト向けの会見で、オラクル版FDEとして顧客企業のAI実装を支援する新組織「Applied Engineering」について説明があった。まずはその内容を紹介し、その場で得た情報を踏まえてFDEについて考察したい。
筆者はこのイベントで、「FDEは成果報酬にすべきではないか」「FDEはユーザー企業自身が育てるべきではないか」という2つの疑問を、同社の経営トップとユーザー2社の責任者に直接ぶつけた。その答えは後半で紹介する。まずは、オラクル版FDEとは何かから見ていこう。
日本オラクルは2026年6月(同社における2027年度のスタート)からApplied Engineeringとしての取り組みを始めた。その内容については、同イベントに伴って「AI時代のデータ基盤戦略」をテーマに開いた会見で、同社の吉川顕太郎氏(執行役員 クラウド事業統括 AIプラットフォーム統括)と井上憲氏(理事 クラウド事業統括 AI事業戦略統括)が説明した。
両者の説明によると、「Applied Customer Engineering(ACE)」が正式名称で、Applied Engineeringは略称とのこと。この組織を率いる井上氏は「業務理解、技術実装、本社接続の3つを1つのチームとして併せ持つのが特徴」だと言う。業務理解は「業務コンテキストの理解」、技術実装は「Oracle技術に精通したプロトタイプ開発部隊」、本社接続は「(米国)本社との連携による製品への反映」を指す(図1)。
さらにAIの活用に向けては、「お客さまが保有してきた業務資産をAI Readyな資産に昇華させるために、AI Readyなアプリケーション、データ基盤、組織を維持し発展させる仕組み作りを支援する」(井上氏)としている(図2)。
同社はApplied Engineeringを新組織として打ち出したが、井上氏によると、そのルーツは6年前に発足した「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進室」で、顧客企業のDXを支援する開発チームとして活動を始めた。その後、DXの中でAIを活用するようになり、今回オラクル版FDEとしての役割を担う新組織となった。こうした経緯はユーザー企業も同様ではないか。AIもFDEもDX推進の流れの中で捉えればよいだろう。
ただ、井上氏は「ACEはPoC(概念実証)で終わることなく実際にプロトタイプが動くところまで伴走する。また、米国本社の開発陣とのフィードバックループによって一層品質を高めた製品を提供する。さらに、特にお客さまが注力する新規事業を積極的に支援する。そうしたACEならではの活動を追求したい」とも述べた。オラクル版FDEというよりACEとしてのプライドを感じさせるコメントである。
一方、同イベントの基調講演でスピーチした日本オラクルの三澤智光氏(取締役 執行役 社長)をはじめ、OracleのAIソリューションを利用するユーザー企業として登壇した矢崎総業の丹下博氏(執行役員 AI・デジタル室長 情報システム統括室長)および楽天グループの小林悠輔氏(常務執行役員 コマース&マーケティングカンパニーCIO《最高情報責任者》&CAIDO《最高AI・データ責任者》 コマース&マーケティングテクノロジー統括部ヴァイスディレクター)が、基調講演後、会見を開いたので、日本オラクルもApplied Engineeringとして活動を進めているFDEのあり方について各氏に聞いてみた。
筆者はまず三澤氏に、「FDEが注目を集めているが、ユーザーにとってはAIの利用も含めてどれくらいのコストがかかるか見通せず、FDEを使うことに躊躇(ちゅうちょ)しているケースが多い。また、“なんちゃってFDE”が来られても困る。そうした課題を払拭するため、FDEは“成果報酬”にすべきだと考えるが、いかがか」と質問した。オラクル版FDEの活動を始めた日本オラクルの経営トップの立場もさることながら、IT業界で長年の経験を持つ同氏が、FDEについてどのように見ているかを聞きたかった。これに対し、同氏は次のように答えた。
「当社のApplied Engineeringは開発部隊としてお客さまにOracleの製品を十分に活用していただけるように、現場に伴走して支援するのが役割だ。また、お客さまの製品に対するさまざまな要望を米国本社の開発にフィードバックしてさらに役に立つ製品を提供していけるようにするのも大きな役目だ。従って、Applied Engineeringの活動だけでお客さまからお金をいただこうとは今のところ考えていない。ただ、世の中で言うFDEという観点では、これから果たす役割が大きくなるのであれば、成果報酬も含めてお客さまと相談しながら仕組みを作る必要があるだろう」
また、ユーザーの立場である丹下氏と小林氏には「それぞれの企業の業務に精通していることが望ましいFDEは、むしろユーザー企業自身が育成すべきだとの見方があるが、いかがか」と質問した。これに対し、両氏は次のように答えた。
「FDEは一般的に『業務に精通しAIも熟知しているエンジニア』といわれているが、私は大きな要素が欠けていると見ている。その要素とは、業務にAIを活用するために不可欠なデータの整備だ。さまざまな業務にAIを有効に活用できるようにするためには、まずその作業が欠かせない。FDEの当初の作業の多くは“データを使えるようにする”ことだ。FDEがどうこうというより、企業のAI活用に向けてはまずその作業が大前提としてあることを認識する必要がある。そう考えると、データ整備も担うFDEは社内でどんどん育成すべきだろう。ただ、社内だけでは人材が足りなくなる。さらにはベンダーにも足りなくなる可能性がある。これは大変憂慮すべき問題だと認識している」(丹下氏)
「楽天グループではFDEの内製化を積極的に進めている。FDEはコンサルティングのように受け取られるところもあるが、基本的には“AI時代の開発者のあり方をどう変えるか”という問題だと考えている。当社としてもそこを追求したい。ただ、現状において例えば新規事業に向けて対応できるFDEは限られており、日本オラクルのApplied Engineeringにも伴走していただいている。今後、AI活用がますます進み、FDEの需要が高まれば、人材不足になるのは目に見えているので、早急の対処が求められるだろう」(小林氏)
以上、大変貴重な会見でのやりとりだった。お三方に感謝したい。
こうした取材を踏まえて、最後にこれからFDEを使おうと考えている企業に対し、筆者から3つの提案を申し上げたい。
1つ目は、成果報酬のFDEを使うことだ。理由は、三澤氏との会見でのやりとりで述べた通りだ。
2つ目は、AI活用に向けてまずはデータを整備することだ。理由は、上記で丹下氏との会見でのやりとりで述べた通りだ。
3つ目は、自らもFDEを育成することだ。理由は、上記で丹下氏および小林氏との会見のやりとりで述べた通りだ。
この3つについては、筆者も引き続き取材し、新たな動きがあればお伝えしたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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