クラウドは万能か――富士ソフトの苦悩と解:わが社のコスト削減(4/4 ページ)
クラウドの台頭に伴い、情報システムを「利用」する動きが広がりつつある。Google Appsの本格運用を4月に開始した富士ソフトもその潮流に乗った1社だ。だがクラウドは万能ではない。同社が運用までに体験した経緯、そして導きだした最適解を追う。
SLAに対して過度に反応しない
クラウド型サービスでないがしろにできないのはサービスレベル契約(SLA)だ。これに対して富士ソフトはどう考えているのか。
―― クラウド型サービスではシステム障害が起こり、一定時間サービスが使えなくなることが多発しています。SLAの数値を万全と見ていますか。
田中 Google Apps Premier Editionでは、99.9%の稼働保証があります。ですがこれを下回るかどうかについてはあまり固執していません。
SLAで99.9%の保証があるということは、99.9%は止まらないということを意味するものではありません。それ以上止まる可能性があることを見越して、99.9%という基準を定め、それに対してギャランティーを発生させているもの。「もしもの場合」に対する「契約」がSLAです。
1日に数時間システムが止まったとすれば、それは大きな打撃です。ですが、数千万円を投入してその時間を埋めるシステムを作るのが最善の策でしょうか。富士ソフトでは、サービス障害はあらかじめ起こりうると想定して、障害が起こった場合の代替案を用意するよう努めています。
山本 ネットワークやハードウェアの障害、人的ミスなど、富士ソフトではこれまでにもシステムが止まることがありました。100%稼働し続けるシステムは基本的にないと言えるのではないでしょうか。
SLAで保証される稼働の割合を、「その時間はシステムが動く」ととらえてみてはいかがでしょうか。「情報システムを24時間動かす」ことを当たり前と考えるのではなく、従業員の勤務時間中には100%の稼働率を追求し、それ以外はSLAの数値が落ちてもかまわないと考えてみることが重要かもしれません。情報系システムは金融系などのミッションクリティカルなシステムと違うため、100%動かす必要もないからです。
富士ソフトでは社内システムを使える時間を限定して、個別のシステムごとに稼働率を保証するといった取り組みを、来年度以降に進めていく計画です。
富士ソフトの山本淳氏(写真左)は「MicrosoftやIBMなどのメジャープレイヤーが参入する中、われわれもレガシーシステムとの連携やシングルサインオンなど、各企業のクラウドに対応したサービスに力を入れる」と述べ、販売代理店としてクラウドに期待を込める。田中尚氏(写真右)はクラウドコンピューティングの潮流を「クラウドサービスは水や電気のように安定的に供給されるようになればいい。すなわち断水がない、停電がないというインフラレベルにクラウドサービスを引き上げることで、一般的なものになる」と語った。
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