バイク趣味における醍醐味の一つが、景色の良い道路を利用しての「ツーリング」でしょう。他の交通手段で何度も訪れた場所であっても、自らバイクを操縦し、暑さ寒さをダイレクトに感じながらたどり着くと、風景の見え方も全く変わってきます。
今回は、関東近郊の行ってよかった「定番のツーリングスポット」と、その魅力について紹介しましょう。
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
関東近郊には、定番と呼ばれるツーリングスポットがいくつもあり、そのラインアップについては、筆者がバイクの免許を取得した30年以上前から全くと言って良いほど変わっていません。
長いバイク人生の中でそれらほぼ全てに訪れており、それぞれに定番と呼ばれるだけの魅力があると感じています。近年は“映え”を意識した奇抜なモニュメントや石碑が建てられる一方で、昔ながらの定食屋や土産物屋が閉店してしまうなど、長年通っているからこそ分かる時代の流れもしばしばあります。
今回紹介するのは、都心に住むライダーが日帰り、もしくは1泊で行けるぐらいの距離にあるスポットです。一般的に片道で100km〜150kmぐらいが日帰りツーリングにちょうど良い目安などと言われますが、そのうち高速道路が何%を占めるのか、移動する時間帯の混雑具合、ライダーの熟練度、バイクの種類、気象状況などによってこの目安距離は大きく変化します。
パンクなどの予期せぬトラブルが発生する可能性もゼロではありません。時間に余裕を持って計画・行動することが大切です。なお、最近はツーリングプランを練るのに便利なアプリがあるので、ビギナーの方はそれを利用してみるのも手でしょう。
神奈川県有数の観光スポットである箱根エリア。奈良時代に開湯したという湯本温泉をはじめ温泉街が点在し、さらに有名ホテルや伝統的な旅館、各種美術館が集まっているなど、関東の中でも特に有名な観光地の一つです。箱根駅伝でその名を知ったという人も多いことでしょう。
こうした温泉旅館や美術館に訪れるのも楽しいのですが、ライダーにとってもっとうれしいのは、走りごたえのある絶景のワインディングロードがたくさんあることです。
アネスト岩田ターンパイク箱根、芦ノ湖スカイライン、箱根スカイラインの3つが特に眺望の良い三大有料道路で、ほかにも漫画「頭文字D」に登場した椿ラインや長尾峠もこのエリアにあります。
また、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する第3新東京市は箱根町がモデルになっているので、聖地巡礼ついでに訪れるのもおすすめです。
1997年に東京湾アクアラインが開通したことで、東京や神奈川からのアクセスが格段に向上した千葉県の房総エリア。県内の最高峰が標高408mの愛宕山(あたごやま)であることからも分かるように、先に紹介した箱根エリアのような眺望の良いワインディングロードは残念ながらありません。
しかし、海岸線沿いに景色の良いルートがあるのと、新鮮な魚介類を売りにした名物食堂があちこちにあるので、1年を通じて美味しいものを求めるライダーが訪れています。
そんな海岸ルートや海鮮系の食事が人気の房総エリアですが、いつのころからか素掘りのトンネルが注目されるようになりました。素掘りトンネルとは、工作機を使わず人力で掘られたトンネルのことで、その数は全国でもトップクラスと言われています。
上の写真は君津市の清水渓流公園にある亀岩の洞窟で、田んぼに水を引き込むために掘られたトンネルとのこと。ハート型の光が差し込むことから映えスポットとして人気が急上昇しました。
ほかにも、大多喜町にある向山トンネル(二段トンネル)や、富津市の燈籠坂(とうろうざか)大師にある切通しトンネルも一見の価値ありです。
静岡県の伊豆半島は、ワインディングロードあり、海の幸ありという、まるで箱根と房総の良いところ取りと言えるエリアです。
ライダーに人気が高いのは、伊豆半島の山稜沿いを走る総延約40kmの伊豆スカイラインで、天気がよければ遠くに富士山や駿河湾、伊豆七島を望みながらの快走が楽しめます。ほかにも、西伊豆スカイラインや西天城高原道路なども眺望が良く、走りごたえありです。
伊豆半島は海岸線が切り立っているところが多いため、海沿いのルートはトンネルが多かったり、山間部を通ったりと、同じ半島ながらも房総エリアとは雰囲気が全く異なります。また迂回(うかい)できるルートがほぼないので、特に海水浴シーズンは混雑しやすいのもネックでしょう。
それでも、近年は東名高速道路の沼津ICに接続する伊豆縦貫自動車道の工事が急ピッチで進められており、南伊豆へのアクセスが格段に改善されています。海の幸が美味しい旅館や民宿が多いので、ツーリングするなら1泊2日で訪れることをおすすめします。
日本最高峰である富士山。静岡県と山梨県にまたがるため、一口に富士山エリアといっても非常に広く、だからこそさまざまなツーリングスポットが存在します。観光地としては富士五湖や忍野八海(おしのはっかい)などが有名で、もちろん温泉もたくさんあります。
富士山には登山口へ向かうルートとして、富士宮口にアクセスする富士山スカイライン(表富士周遊道路)、須走口に向かうふじあざみライン、そして山梨県側にある有料道路の富士スバルラインという3つがあります。
富士山スカイラインにある五合目の標高はおよそ2380mで、自家用車で行ける日本最高地点として知られています。なお、この3つのルートとも、登山客の多い時期にマイカー規制を実施しているので、訪れる際には公式サイトをチェックするようにしてください。
富士山エリアにはキャンプ場が数多くあり、キャンプツーリングのデビューにも最適です。周辺の大型スーパーでは少なからずキャンプ用品も陳列していて、食材の買い出しだけでなく、忘れ物をしたときにも重宝します。
近くに民家がほとんどないので、天気が良ければ満天の星空と富士山の美しいシルエットが見られることでしょう。
最後に紹介するのは、群馬県の草津エリアです。箱根に並ぶ有名な温泉地で、観光やスキーなどで行かれた方も多いことでしょう。
ノルディック複合で活躍した荻原健司氏・次晴氏兄弟の出身地であり、また近年では映画「テルマエ・ロマエ2」やアニメ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」のシーズン2にも登場するなど、聖地巡礼要素もたっぷりあります。
ライダーとして最も魅力的なのは、すぐ近くに日本国道最高地点碑(標高2172m)があることです。国道292号線をひたすら上っていくと、硫黄の匂いが立ちこめる殺生河原が現れますが、その景観はとても日本とは思えないほど。草津温泉街の中心にある湯畑から日本国道最高地点碑まではおよそ20km。30分ほどで到着しますが、景色の変貌ぶりに誰もが驚くことでしょう。
そして、すぐ先には長野と群馬の県境にある宿として知られる渋峠ホテルがあり、ここで日本国道最高地点到達証明書(1枚100円・税込)を購入することができます。
ここから再び草津温泉へ戻るもよし、万座ハイウェーとつまごいパノラマラインをつないで草津白根山をぐるりと回るもよしといった具合に、さまざまなワインディングロードを選べるのが草津エリアの魅力です。
標高が高いので天候が変化しやすく、またガソリンスタンドが極端に少ないなど、先に紹介したエリアよりも注意すべき点は増えますが、ツーリングに慣れてきたらぜひ足を運んでみてください。
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