「世界一遭難者を多く出した山」としてギネス世界記録に認定されている山が、日本にあるのをご存知ですか? その場所は、群馬県と新潟県の間にそびえる「谷川岳」。
しかし、谷川岳の標高は1977mと、ネパールなどにある8000m級の山はおろか、日本アルプスの山々と比較してもそこまで高くなく、初心者でも登れる山としても人気があります。では、どうして遭難者が多いといわれているのでしょうか?
今回は、谷川岳が世界一遭難者が多い山といわれる理由と、それでもなお多くの人をひきつける魅力に迫ります。
フリーランスライター兼アウトドアショップスタッフ。富士登山をきっかけにアウトドアにはまり、登山やキャンプ、トレイルランニングなど幅広いアクティビティを一年中楽しんでいます。勤務するアウトドアショップのお客さまから寄せられるお悩みや自身の山体験を生かし、リアルで深い内容を発信! リモートワーカーのため、仕事や日常を快適かつ生産的に行うためのガジェット選びも得意です。
日本百名山の一つでもある「谷川岳」は、標高1977mの山。猫の耳のような2つのピークを持つ双耳峰であるのが特徴です。谷川岳は、ロープウェイやリフトを使えば2時間半ほどで登頂できるため、初心者にも人気があり、1年を通して多くの人でにぎわいます。
しかし、谷川岳の別名は“魔の山”。世界一遭難者を多く出している山としてギネス世界記録にも認定されています。これまで谷川岳で遭難して亡くなった人は800人を超えており、日本アルプスなどの3000m級の山や、エベレストなどの8000m級の山での遭難死者数よりも多いのです。
谷川岳で遭難する人が多い大きな理由は「一ノ倉沢」という断崖絶壁の難所があるため。切り立った岩肌が迫力満点なこのスポットは、ロッククライミングの聖地としても人気があります。実は谷川岳での遭難事故の多くは、この一ノ倉沢で発生しています。
日本三大岩場の一つでもある一ノ倉沢は、鋭く尖った岩がむき出しになったダイナミックな雰囲気の中を登れるとあって、ロッククライマーたちにとっては難しくも憧れの場所。都心からアクセスしやすいこともあり、昔から多くの人が訪れていました。
しかし谷川岳付近は、日本海側と太平洋側の異なる気象がぶつかるため天候が変わりやすく、急な雨や風、雪などによって滑落や行動不能などになり、命を落とす事故が多発してしまったようです。
特に昭和30〜40年代の登山ブーム時などは、現在のように登山ギアやウェアが発達する前であるためトラブルに対応しづらく、痛ましい事故が起きやすかったと考えられます。
谷川岳で遭難が多い理由として、雪山登山の人気スポットであることも挙げられます。厳冬期は一面深い雪に覆われる谷川岳は、ロープウェイを使ってアプローチできるため、比較的登りやすい雪山としても知られています。
一方で滑落しやすい急斜面や、ルートを見失いやすい箇所、そして雪庇(せっぴ・雪が塊のようにせり出している場所)などもあり、注意すべきことは多数。また天候が変化しやすく、強風やホワイトアウトなども起こりやすいため、過去には、仲間とはぐれてしまったり、雪崩に巻き込まれたりした事故も。そういった背景から、危険な山というイメージがついてしまったのだと考えられます。
ここまで谷川岳の危険な一面や過去の事故について紹介しましたが、それらはあくまでバリエーションルート(一般ルートとは異なる上級者向けのルート)や雪が降る時期に深く関係すること。
そのため、積雪のない時期の一般登山道を利用するのであれば、過度な心配は不要といえます(※登山靴や雨具など、しっかりとした登山装備は必要です)。
初心者でも挑戦しやすい天神尾根ルートは、道に迷う心配も少なく、ゆるやかな箇所が多いため景色を楽しみながら歩けます。また、鎖場などがあり、急な登り坂が連発することで知られる西黒尾根ルートも、体力や技術力はやや必要ではあるものの経験者と一緒にゆっくりと登れば、クライミングロープなどを使わずに登頂できます。
実際に筆者が谷川岳を訪れた日も、山頂付近の道が大混雑するほど、多くの登山客でにぎわっていました。稜線を挟んで、一方は群馬県の山々が、もう一方は新潟県の山々が見渡せ、ダイナミックなパノラマ絶景が楽しめますよ!
谷川岳では、カラフルな高山植物が見られるのも魅力。環境が厳しいため、一般的に2500m付近にある森林限界が谷川岳では1500m付近にあります。
そのため、それ以上の標高では高い木が生息しにくく、代わりにハイマツやクマザサが茂り、シラネアオイやハクサンイチゲなどのお花も見ることができます。3000級の山に登らないと見られない高山植物が、標高1977mの谷川岳で楽しめるのは大きなポイントの一つです。
さらに谷川岳は、紅葉の名所としても知られています。例年9月下旬〜10月にかけて山肌が赤やオレンジ、黄に染まり、華やかな景色が広がります。魔の山と呼ばれる所以にもなった難所である一ノ倉沢の付近でも、この時期はきらびやかな秋景色が見られます。この景色を目にすれば、自然の厳しさと美しさを知ることができるはずですよ!
景色の良いところでコーヒーを飲んだりカップラーメンを食べたりするのは格別! お湯を沸かせるグッズを携帯しましょう。
傾斜が急なところは、トレッキングポールを使うと安全かつ体に負担をかけすぎずに登れます。
行動時間が比較的短いとはいえ、万が一に備えて遭難対策は徹底するのが◎
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