第3回目は「UMLで新聞記事を読む」というテーマで、UMLで新聞記事の内容をどこまで表現できるかにチャレンジしました。また、題材として電池という「物」をキーワードに2つ取り上げました。引き続き今回は取引という「事象」を題材としてオークション・応札の2例を取り上げます。
物の値段はどのように決まるのでしょう。売り手側の基本原理は「価格=コスト+利潤」です。しかし買い手側はあくまで自分にとっての「価値」が基準です。「価値>価格」ならば購入するわけです。いくら高性能・高品質でも価格に見合う買い手の価値基準をクリアしていなければ取引は成立しません。
前回『モデルは論理の結晶』を引用させていただいた小室直樹氏の著作から、今回は「資本主義原論」[注1]を引用します。
問 『何なるかこれ経済の第一義』
答『市場。経済を理解するとは、市場を理解することである。経済学の要諦は市場分析にある。』
次にこの市場を理解する第一歩は『市場には法則がある』ことを知ることです。これは人為を超えたところにあって、製品を製造する企業、あるいはたとえ政府が法律で物の値段を決めようとしても、いったん市場に出たものはこの法則に従って価格形成されます。
自然現象の法則は人間にはどうすることもできず、それを研究して見つけ出すのが自然科学です。市場の法則も同じで、人為的に曲げることはできず、その法則を研究して見つけ出す、それが経済学、社会科学です。
今回取り上げるオークション・応札はこの法則に従った価格形成がなされるシンプルな市場モデルの例です。
[例題1] ピカソ落札
ピカソのオークションに関する写真入りの次の記事を考えて見ましょう(日本経済新聞2004年5月6日 夕刊社会面、記事からの引用を『』で示します)。
メインタイトル(縦書2行、Font大)『ピカソ、113億円』
サブタイトル(縦書1行、Font小)『市場最高額落札』
まずこれらのタイトルと絵画の写真から頭の中で文章を構築しましょう。
「ピカソの絵画が113億円で落札された。それは市場最高額である」
まず「ピカソの絵画が113億円で落札された」ですが、この文には主語がありません。主語を追加して単純な3つの文に分割します。
(1)(2)はSVOパターンでUMLでは二項関連です(第2回「自然言語をUMLで表現してみる」、第3回「UMLで新聞記事を読む」参照)。(3)の金額は絵画というオブジェクトの属性と考えるよりは、落札者と絵画の間の落札するという関連の属性として考えるのが自然です。UMLでは関連クラス「落札」を作ってその属性として「価格」を追加します。関連クラスと関連の間は点線で結びます。図1にオブジェクト図を示します。タイトルが目立つようにしました。
次にサブタイトルです。この記事がニュースである理由は「落札価格が市場最高額」だからです。これをUMLで表現するのは難しく、取りあえずUMLのノートでコメントとして逃げます。
次に記事内容に入って行きます。
『ピカソが24歳の時に描いたとされる初期の傑作「パイプを持つ少年」が5日、ニューヨークのサザビーズで競売にかけられ、手数料込み1億416万8000ドル(約113億円)で落札された。』
タイトルに追加される情報として、
これらの情報を追加すると図2の上の部分になります。この「:国」は取りあえず無視してください。落札日や落札金額は絵画の属性ではなく、関連クラス「落札」の属性として表すことができます。「サザビーズ」は「:落札」とリンクさせます。
記事の続き『1990年に手数料込みで8250万ドルで日本人に落札されたゴッホの代表作の一つ「医師ガシェの肖像」を上回り、絵画の価格としては史上最高額。落札者の身元や国籍については関係者は明らかにしなかった。』は同じパターンで図2の下のようになります。下は落札者が日本人ですが、上は不明なので名前のない「:国」オブジェクトとしました。
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