ファッションやインテリア雑貨など女性向け通販業を営むベルーナ(本社埼玉県上尾市)は2002年10月、同社が運営するインターネットショッピングモール「ハッピーマーケット」上に、テナント向けeCRMシステムを構築した。売れ筋商品や動向、顧客ごとの売り上げ状況などを分析し、テナントの「売れるサイト作り」を支援するものだ。
このシステムのベースとなったのは、ベイテックシステムズが提供するeCRMパッケージ「BayMarketing」。インターネット事業部の早川丈晴マネージャーは、「BayMarketing導入前は、RedBrickを使った分析システムを使っていましたが、定型分析しかできないというデメリットがありました。そこで、テナントごとに自由に売り上げ状況を分析することで独自の戦略立案を支援し、サイト全体を活性化するためにeCRMシステムの刷新に乗り出したのです」と語る。
創業35年のベルーナは、40〜60代の主婦層向けカタログ通販事業で業績を伸ばし、現在通販業界第3位の売上高を誇る。2003年の連結売上高は1051億円以上。多くの通販業者が20〜30代の女性を主要ターゲットとする中、同社は比較的年齢層が上の世代に焦点を絞ることで着々とシェアを広げてきた。もちろん「中核ビジネスは年配主婦層向けカタログ通販業ですが、その部分にだけ特化するつもりはありません。ビジネスを伸ばすためには、あらゆる顧客層にアピールできる魅力ある商品をそろえる必要があります」(早川マネージャー)という考えの下、主婦層向けファッション品だけでなく、生活家電や化粧品、ガーデニング、健康食品など幅広い分野の商品を取り扱っている。そのコンセプトは、「ライフステージに合わせ、あらゆる商品を提供する」というものだ。ただし組織の肥大化を防ぐために、必要とあらばブランドを切り出して別会社化することで、柔軟な組織体制を組んでいる。例えば化粧品の製造・販売なら「オージオ化粧品」、家電や生活用品なら「ライフマーケット」、若い女性向けファッション・インテリア商品なら「Ryu Ryu」という別会社のブランドとして切り出すといった具合だ。
そんな同社がインターネットショッピングモール「ハッピーマーケット」に乗り出したのは、2000年6月のこと。「インターネットショッピングモールを立ち上げる事により、eビジネスのノウハウを蓄積し、Eコマースの本格的な自社展開に備えるというねらいがありました」(早川マネージャー)。
ハッピーマーケットでは、サイト内のテナントのほかに、カタログに掲載されている商品の中からベルーナがいくつかピックアップし、「直営店」として商品を販売することもある。これは直営店を運営することで得られたノウハウをテナントに還元し、またこの蓄積が将来的には大きな財産になると考えているからだという。
インターネット事業部では少数精鋭のメンバーでハッピーマーケットの運営にあたっている。これはいたずらに規模感を求めるより、このスタッフでテナント・顧客双方をケアすることがサイトの価値を向上させるという考えたからだ。具体的には、テナントに対しては売れるサイト作りを共同で立案する、顧客に対しては万全のアフターフォローを提供することで、リピーターをつかむというわけだ。
現在、ハッピーマーケットに出店しているテナント数は130店舗、商品点数は2万点だという。商品だけでも474万点を持つ楽天と比べると、ハッピーマーケットの規模は決して大きいとはいえない。この点に関して早川マネージャーは、「もう少し出店数は増やしたいが、規模が大きくなり過ぎると、われわれスタッフの目が行き届きにくくなったり、お客さまにとっても商品を選びにくくなるといった問題が出てきます。つまり、スケールメリットがデメリットにもなり得るのです」との見解を示している。
サイトの機能面ではオークションや共同購入、商品検索、メールマガジン発行、バーゲンの開催、ネットバンクとの提携によるスムーズな決済サービスなど、多くの機能を搭載。またWebサイトの構築講習会やビジネスコンサルティングも提供するなど、バックアップ体制も整えた。
中でも、バックエンドの仕組みとして注目すべきは、アクセスログをベースにした分析システムの導入だ。売れ筋商品の傾向や売り上げ推移、顧客セグメントごとの行動特性などを分析し、次のビジネス戦略立案の参考にする。ベルーナは2000年当時、分析用データウェアハウスとして評価が高かった「RedBrick」をベースに分析システムを構築し、これをテナントにも開放していた。
ただしこの分析システムは、使い勝手の点で若干問題があったという。
まず、非定型分析に弱かった点が挙げられる。システム側にあらかじめ用意されていた定型画面でしか分析できなかったため、例えば期間別の売り上げ推移は分析できても、デイリーごとの細かい動向は把握できなかった。また、個別商品の売り上げ推移についても、最初に全商品を表示し、そこからドリルダウンしてたどっていかなければ表示できないという問題もあった。
さらに、データをテナント側に渡せなかった点も挙げられる。テナント側にしてみれば、ハッピーマーケットは数ある「販売拠点」の1つ。全販売拠点を束ね、トータルなビジネス状況を把握したいのに、ハッピーマーケットでの売り上げデータはベルーナ側で管理されていた。これはセキュリティ上のリスクヘッジでもあったが、システム的にダウンロード機能が搭載されていなかったことが理由だった。テナント側はデータを画面からコピーまたは手入力しなければならなかったのだ。こうしたことから、システム刷新への動きが加速した。
このほか、ハッピーマーケットとしても、技術的に根本から見直さなければならない課題が出てきたのだ。最大の問題は、画面表示に時間がかかることだった。当初、マイクロソフトのActiveServerPages(ASP)を使ってサイトを構築していたため、画面が全表示されるまで通常10秒以上かかっており、回線との兼ね合いで最長20〜30秒となることもあった。
さらに、「ASPは動的にページを生成するので、検索エンジンにヒットしにくいという課題もありました」(インターネット事業部 小菅健治チーフ)という。新規顧客開拓の有効手段の1つに、検索エンジンでのヒット率を上げて誘導する策がある。ところがハッピーマーケットの場合、検索エンジンに引っ掛かりにくいため、新規顧客の集客率が極端に低かった。こうした点から、サイトそのものの技術を見直し、さらにCRMの仕組みも刷新することで、「顧客獲得」と「テナント支援」の両戦略を強化しようと考えたわけだ。
以上の課題を基に、2002年初頭よりサイトリニューアルに向けたプロジェクトがスタートした。「11〜12月の年末商戦までにリニューアルを終わらせる」ことを目的に、開発期間を10カ月に想定した。通常、どの通販サイトも12月は売り上げが倍増する。このタイミングでリニューアルを印象付け、売り上げを増大させることがビジネス上の課題とされた。すでにこの段階でシステム上の課題や開発要件は固まっていたため、すぐ実作業に入ることができたという。
まずはハッピーマーケットのリニューアルから着手。実際の開発を手掛ける協力SI企業の下、Webページの再構築に乗り出した。同時に、検索エンジンのヒット率を上げるために「SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)」を実施。SEOとは、Googleなどのロボット型検索エンジンの検索結果で、上位に表示されるように自社サイトを改善する取り組みのことだ。サイトの属するカテゴリや、ページ内で使われているキーワードを解析し、ヒット率を上げて上位に表示させるよう、工夫を凝らした。これにより、テナント側はハッピーマーケットに出店するだけで、検索エンジンからの誘導率が高まるようになった。「出店を勧めるに際して、大きなアピールポイントになりました」(早川マネージャー)と語る。
分析システムの再構築の際のポイントは、(1)RedBrickで実現していた分析機能をそのまま踏襲する、(2)非定型分析機能を充実させ、使い勝手を向上させるという2点に絞られた。
この要件を基に、CRMパッケージの選定に入った。コストパフォーマンスやカスタマイズのしやすさなど、いくつかの項目を評価した結果、最終的に同社が選んだのがベイテックシステムズのeCRMパッケージ「BayMarketing
StandardEdition Ver1.61」だった。「BayMarketingを使えば、従来の5分の1程度の価格で同じような分析機能を提供でき、しかもカスタマイズにも柔軟に対応してくれるというのが魅力でした」(小菅チーフ)。
BayMarketingは、リンクやバナーなどのクリックデータ、売り上げデータなどからマーケティング分析を行うパッケージ。単に分析機能を提供するだけでなく、顧客やテナントの管理機能も提供している。これをベースに、蓄積データをCSV形式でダウンロードできる機能や画面周りを作り込むなど、全般的に使い勝手を改善した。再構築により、「いくつかの主要な画面については、データをカスタマイズし活用してもらうことを目的として、ダウンロードの機能を追加しました」(早川マネージャー)とのことだ。
パッケージ導入以外に、データ構造そのものの見直しも行われた。以前のシステムでは生データをいったんSQL Serverに蓄積した後、必要なサマリデータを分析用のOracle
DBに抽出していたが、「データ構造に問題があったためパフォーマンスの低下を招き、実運用ではデータを活用しきれない状態でした」(小菅チーフ)という。また、運用コストの問題もあった。
こうした点から、BayMarketingの導入に合わせアーキテクチャも刷新。データ構造をシンプルなものに変更し、生データの蓄積も分析用データベースにもすべてSQL
Serverを使うことで、TCOや運用負荷の軽減を図った。今回の開発に当たって最も苦労したのは「データ構造の変更と、旧システムからのデータ移行でした」(早川マネージャー)という。こうして2002年10月、ハッピーマーケットのリニューアルが完了した。
ハッピーマーケット全体のサーバ構成は、図のとおり。まずハッピーマーケット用には、Webサーバ、コンテンツ配信用のパブリッシングサーバ、コンテンツサーバ、バックアップサーバ、ドメインコントローラなど計9台のサーバを用意している。マーケティング分析システムとしては、Webサーバ、FTP用のメールサーバ、生データを蓄積するDBサーバと、分析用サーバの4台を設置。各テナントは、ファイアウォール越しに分析エンジンの「BayMarketinganl」サーバに接続し、分析する仕組みだ。
サーバ名 | 用途 |
---|---|
Commerceweb1 | Webサーバ1 |
Commerceweb2 | Webサーバ2 |
Commercepf1 | コンテンツ配信サーバ |
Commercesql1 | コンテンツサーバ |
Commercesql2 | コンテンツバックアップサーバ |
Commerceqls1 | コンテンツステージングサーバ |
Commercemdb1 | DBサーバ1 |
Commercemdb2 | DBサーバ2 |
Commercedc1 | ドメインコントローラ |
BayMarketingweb | Webサーバ |
Baymarketingmdb | DBサーバ |
Baymarketinganl | 分析サーバ |
Baymarketingmail | メールサーバ |
表 各サーバの用途 |
現在ユーザー数は、130テナントの担当者と、直営店22店舗の担当者、それにベルーナ内部のモール管理者など、150名以上が利用している。各テナントの担当者はWebブラウザ経由でページへのアクセス状況や商品ごとのアクセスログ、参照元、売り上げ推移などを閲覧できるうえに、CSVデータのダウンロードにより、自由分析が可能になった点が好評を博している。さらにベルーナ側では、Excelによる集計・分析方法についてのノウハウの提供も実施、テナントと共同でサイトを盛り上げる体制を整備中だ。
カットオーバーして8カ月が過ぎ、少しずつ効果も出始めている。まず、サイト内の流通金額が、リニューアル前に比べて倍増した。また検索エンジンからの誘導率が向上したため、アクセス数もうなぎ上りで、現在月間数百万ページビューを記録しているという。もっとも、「BayMarketingでは、コンテンツがすべて表示されないとアクセス数をカウントしないので、次々にクリックを繰り返していくユーザーの場合、計上されていない可能性があります。このため、実際のアクセス数はもっと多いのではないでしょうか」(早川マネージャー)と語る。
もちろん、こうした効果だけで満足しているわけではない。現在検討しているのが、検索用語のログ解析だ。「せっかく検索サイトからのヒット率が上がったのだから、ここをもっと分析に活用しようということで、検索キーワードを取得できるようにしたいと考えています」(小菅チーフ)とのことだ。
株式会社ベルーナ
本社所在地:埼玉県上尾市宮本町4-2
創業:1968年9月
資本金:67億7300万円
取締役社長:安野清
事業内容:カタログ通販事業、ファイナンス事業、封入サービス事業、 インターネットショッピングモールの運営
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