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» 2004年01月14日 12時00分 公開

強いIT部門になるためのコンピテンシー(2):優秀なシステムエンジニアはどこが違うのか?

企業の情報システム部のスタッフに求められる能力とは何か、資質特性と行動特性(コンピテンシー)という観点で考えてみよう

[永井 隆雄,@IT]

システム部門要員の人材像

 古典的といえるシステムエンジニアのイメージがある。まず無表情で、いずれかというと暗く、話しても何を言っているか、どうも要領を得ない。ただ、システムには精通していてそれなりに動くものを作ってしまう。だから付き合いにくいのだけども、システムのことはその人に相談して依頼するしかない──というものだ。

 実際、AGP行動科学分析研究所にあるデータを見ても、SEを希望する人は、営業などのほかの職務に応募する人と比べると、かなり対人スキルが低く、意欲面でも低めの人材が多い。それだけを見れば、一般的な意味合いで、あまり企業が好まない人材がSEを希望し、その中から企業も採用選考をしているということになる。

 もちろん、古典的な意味合いでのSEが実際に活躍するわけではないし、そのような人は企業も好まない。私が実際に知っている優秀なSEはこういうイメージとはおよそかけ離れた人物である。

 経営トップ層との直接の折衝を行っていく気概や、戦略的な構想力と全社的な視野があり、相手にイメージを湧かせる非常に優れたコミュニケーション能力、さらに社内外のスタッフをたくみにマネジメントするリーダーシップなど多くの点で、その会社の看板社員たるにふさわしいスマートな人が多い。もちろんこのようなハイパフォーマーが簡単に育成できるわけではなく、その人は社内で育った人ではなく、どこかのシステム専門の会社にいた人やもともとシステム系のコンサルタントだった人が多いようだ。

選考段階の適性診断

 ところで、現在確立されているパーソナリティ心理学に基づく適職選定試験はそれなりの信頼度になっており、各社が提供している試験はそれなりの職業適性をはじき出す。その背景となっている理論は気になるかもしれないが、大きな差はない。気質分類、興味・関心、意欲的側面、態度的側面、情緒の安定性などがあるが、主要なテストは似たようなところに照準を合わせている。ただ、違いはその信頼度である。応募者の自分をよく見せたいという心理傾向を超越してどれだけその人の適性をプロファイルするかにツールの命運がかかっている。

 心理テストの話になったが、私の所属するAGPはコンピテンシーに関して次のような見解を持っている。人間には個人特性があり、職業適性を予測するものが「資質特性(aptitude)」である。ちなみにAGPのAはaptitudeである。

 資質特性は、何らかの教育機会や経験が与えられて職務遂行に必要な知識や技能を習得させようとした場合、その習得がどれほど円滑に行えるかの習得能力と考えられている。要するに、同じ研修や上司の指導をあっても、然るべきことを習得できる人もいればできない人もいるということを示すものだ。

分類 資質項目名 定義
気質的側面 思索型:内閉性 社交意識が低く、内向的で、対人的接触を好まない
思索型:客観性 相手と距離を置き、冷静で客観的な物の見方や態度を取る
活動型:身体性 軽快で、体を動かしてテキパキと活発に行動する
活動型:気分性 気分に浮き沈みがあり、また時に高揚し、そのときの気分で行動する
努力型:持続性 几帳面で、コツコツと粘り強く物事を進めていく
努力型:規則性 発想が定型的で、決まりやルールなどを重んじた行動を取る
積極型:競争性 勝ち気で負けず嫌い、競争となると躍起になる
積極型:自尊心 気位が高く、甘えん坊なところがある
自制型:慎重性 見通しをつけ、いざという時に備え、注意深く行動する
自制型:弱気さ 覇気がなく、情緒的に不安定で、物怖じしてしまう
興味・関心の対象領域 日常周辺事型 雑多な一般的生活知識が豊富で、物事の表面的現象を見ようとする
客観・科学型 物事を分析的に考え、またはあるがままの事実を捉えようとする
社会・経済型 政治や経済など社会的動向に関心を示す
心理・情緒型 人間の心理的動向や情緒的な出来事に関心を示す
審美・芸術型 芸術的関心が高く、外界を美的観点で捉えようとする
態度的側面 積極性 自らの意見や提案を出し、率先して実行に移そうとする
協調性 仲間と一緒に考え、協力して目標に向かうことができる
責任感 自分の発言や引き受けたことに対し、責任を持とうとする
自己信頼性 自分の意思や行動に自信があり、周囲からも信頼されている
指導性 周囲から頼りにされ、意見や行動をまとめていこうとする
共感性 同じ環境に置かれた仲間と同じ目線に立ち、物事を考えようとする
感情安定性 多少の事では動揺したりせず、気持ちにムラがなく安定している
従順性 反抗的なところは少なく、人の意見や指導に素直である
自主性 自分で決断することができ、自発的に物事を実行していく
モラトリアム傾向 現在の自分の考えや生き方について確信がつかめず悩んでいる
基本的動機と欲求傾向 達成欲求 困難な目標にも努力し、常に自分を向上させようとする
親和欲求 仲間と競い合っていくより、穏やかな環境の中にいようとする
求知欲求 知的な好奇心が旺盛で、新しいことや珍しいことを追い求める
顕示欲求 自分が輪の中心となり、人を楽しませリ興奮させようとする
秩序欲求 自分の範囲内の物事や環境はきちんと整理しておこうとする
物質的欲望 モノを獲得し保持したい、または失いたくないという物欲がある
危機耐性 逆境に耐え、苦しいときも我慢強く遣り抜こうとする
自律欲求 他人に依存したり頼りきったりせず、自力でやっていこうとする
支配欲求 人の上に立ち、他人を動かすような力関係を形成しようとする
勤労意欲 仕事への意欲があり、生きがいの部分として考えている
表1 CUBICの項目名とその定義

 そこで、採用や登用の時点で適性診断のツールで評定するのである。もちろんツール以外の方法があって、面接や投影法、作業法などもある。投影法には文章完成法やTAT(統合絵画テスト)などがあり、作業法の代表はクレペリンである。面接にはそれなりのやり方もあるが、あまり信頼度が高くない。そこで、質問紙票を使った個人特性の診断が最も普及しているのである。

仕事ぶりを左右する行動特性

 これに対して、その人が実際に職場に配属されてさまざまな能力を習得していくと、知識や技能を習得するのと並行して業績や成果をより出しやすくすると考えられる特性を体得するようになる。この特性を資質特性と区別するために「行動特性」と呼んでいるが、これがコンピテンシーであるとAGPでは解釈している。コンピテンシーは実際に習得され実践的にその人に体現されている能力や行動パターンであるということになる。

 例えば、内閉性や身体性、感情安定性は資質特性の項目のうちでも重要なものである。しかし、これは行動特性ではない。

 これに対して、要点把握力や問題分析力、計画組織力は仕事を進めていく上で重要な能力である。ある人の職務行動を見て、問題があるとき、どの部分が不足しているか、逆にある人の仕事ぶりが優れているとき、どこがどう優れているかを認識するには、行動特性によることになる。

系統 項目
個人特性系 イニシアティブ
対人インパクト
能動性/持続力
ストレス耐性
自律性/一貫性
意思決定系 要点把握力
問題分析力
問題解決力
決断力
業務管理系 計画組織力
管理統制力
対人影響系 リーダーシップ
説得・対話力
柔軟性/適応力
対人感受性
コミュニケーション
※AGPの提供するAWAKEのベーシック・コンピテンシーの項目
表2 行動特性(コンピテンシー)


 システムエンジニアに関して、私のコンサルティング経験で構築したツールで推奨モデルを作っている(表3)。どのような人材が必要なのか、育成していこうとしているかを明示することで、採用や登用、普段の人事評価に役立ることができる。SEに関して次のようなコンピテンシーが必要と推奨しているが、同じSEといっても仕事のスタイルなどがかなり異なるので、多少企業ごとに変更することが必要となるだろう。

リーダーシップ系 メタコンピテンシー ビジネス戦略系 対人スキル系 業務遂行系
エリア・コンピテンシーの一覧 有言実行
ビジョン共有
チーム・リーダーシップ
率先垂範
行動強制力
権限委譲
(一部省略)
多様性受容
セルフ・コントロール
自尊感情への配慮
自省性/自己観察力
向上心/学習性
公私のバランス
マーケット志向
戦略的思考
実利志向性
人間理解
パラダイム・シフト
信頼性維持
顧客志向性
傾聴反応力
関係構築力
アカウンタビリティ
人事評価力
人材活用
人材育成
エンパワーメント
利害調整力
ナレッジマネジメント
成果志向性
現実的対応
クオリティ追求
確認徹底力
SE推奨モデル 向上心/学習性 アカウンタビリティ ナレッジマネジメント
クオリティ追求
確認徹底力
表3 SEのコンピテンシー・モデル例

 向上心/学習性は、絶えざる技術革新に対応するために必須だろうし、アカウンタビリティは責務感を示し、通常の職務以上に強く求められそうだ。ナレッジマネジメントとは、情報の共有化を意味するが、SEがチーム的に作業すること、作業内容がほかのスタッフにも見えやすくするためには必須となる。また成果物の品質を重視するという意味でクオリティ追求、内容をしっかりと確認しながら仕事を進めていくという意味で確認徹底力が必要と考えられる。

著者紹介

▼著者名 永井 隆雄≫(ながい たかお)

AGP行動科学分析研究所 所長

日本総合研究所、朝日監査法人などを経て、現在は組織人事コンサルタントとして活躍、また大学講師、職業適性試験の研究開発などにも従事。「コンピテンシー活用便覧」「人事コンサルタントが書いた転職心理作戦」「優秀な部下が辞表を持ってきた時」「同僚と10倍差がつく職場の心理学」「最強の営業チームづくり」など著書多数AGP行動科学分析研究所


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