4月23日、@IT情報マネジメント「企業情報マネージャのためのオープンソース導入セミナー」が開催される。本セミナーは、企業システムにおけるオープンソースの活用術、移行シナリオ、構築事例などを紹介するもの。開催に先立って講師のお2方にオープンソース導入の真のメリットを聞いた。
企業のシステム構築にオープンソース・ソフトウェア(OSS)が利用されるようになってきた。特にWebサーバやメールサーバなどでは高いシェアを持っている。
しかし、その一方でオープンソース導入に対するリスクを見極められていないユーザー企業も多い。オープンソースを使った企業システム構築のメリットとリスクはどのように考えればよいのだろうか。
ユーザー企業がオープンソースに注目する理由──まず第一に挙げられるのが「システム開発コストの削減」だ。これはオープンソースであればソフトウェア・ライセンス料が無償でその分、システムのイニシャルコストが抑えられると考えられているからだ。
しかし、株式会社テンアートニの喜多伸夫社長は、「オープンソースというと、フリー=無償ととらえられ、コスト削減の切り札と思われているが、必ずしもそうではありません」と主張する。
例えばLinuxとWindowsを比較した場合、単純計算ではLinuxの方がライセンスコストが低いように思える。傾向としてはそういえるが、実際にはシステム構成などによって必ずコスト安になるとはいい切れないという。ビジネスユースのLinuxディストリビューションは有償だし、システムはOSだけで動かすものではないからだ。
一方、TCOやシステム運用コストに関しては、“将来コスト”を考慮して比較・検討する必要があると喜多社長は指摘する。商用ソフトウェアを導入した場合、バージョンアップやシステム・メンテナンスに掛かるコストは、ユーザー側でコントロールすることが難しくなる。特にセキュリティ上、パフォーマンス上のメンテナンスであれば、ユーザーの自助努力はほとんど不可能となる。
株式会社アークシステムのテクニカルディレクタで、ソリューション開発部の清水徹部長は、「コスト削減だけを導入のトリガーにしてしまうと、サポートは受けられるのか、バージョンアップの頻度は多くならないか、技術者のキャッチアップはどうなのかというようなデメリットに目が行ってしまって、踏ん切りがつかないということになってしまう」と語る。
むしろ、“安く上げる”以上のメリットを見出せるかどうか、そこにカギがありそうだ。
この点、テンアートニの喜多社長は、オープンソース導入のメリットを「選択肢が得られること」と明確に言い切る。例えば前述のメンテナンス面では、ユーザーが自らやる、パートナーにゆだねる、そのパートナーも比較検討できるといった、選択肢を持つというファクタが非常に重要なのだという主張だ。
プロプライエタリな製品・テクノロジをシステム基盤として導入してしまうと、投資の面でも技術の面でもある特定の企業の動きに左右されることになる。自社のシステム計画とは無関係なバージョンアップ、ライセンスや保守料の値上げといったような外部要因リスクに脆弱な情報システム体制になってしまうわけだ。
ここで「オープンソースを選択する」というのは、すべてをオープンソースでそろえるという意味でなく、必要や予算に応じてオープンソースか、商用ソフトを適材適所で選択するというある意味、当たり前のことをいうのだ。
そのためにテンアートニでは、企業がオープンソースを導入する際のガイドラインを用意しているという。「セミナーでは詳しく、具体的にお話しますが、オープンソース採用にもやはり適不適があります。いろいろな要求と条件を検証し、最適な製品選択をすることが重要です」(喜多社長)。
アークシステムの清水部長も、「OSSにも限界はあると思っています。商用ソフトの方が適した要件というのもあるのは確かです。しかし、70点ぐらいの要件のところに100点の商用製品を入れればシステムコストは高くなります。オープンソースによるコストダウンというのは、無料で使えるからというよりも、使い分けをしたときに得られるものでしょう」と述べる。
また清水部長は、OSS利用のもう1つのスタイルを提唱する。それは、「システム開発ですでに存在するノウハウを利用すること」だという。例えば、自社内で一定の開発・メンテナンスを行っている会社であれば、Strutsなどのフレームワークを使ったり、J2EEでもPHPでもRubyでも、ライブラリやTipsがたくさん公開されているので勉強の面でも部品流用の面でもメリットは大きいというのだ。それは開発の短期化・省力化のほかに、「社内でプロトタイプを開発し、それに基づいて外部のシステムインテグレータに発注するという使い方があると思っています。何より中味を知って発注するのと、知らずに発注するのでは大きな差があります」(清水部長)。
こうした使い分けやノウハウ活用のためには、「選択」「見極め」「検証」が重要になる。喜多社長は、「選択肢が増えるということは、選択する責任も出てくるということ」だと強調する。
必要機能が実装されているか、大規模システムで稼動するのか、商用製品とベンチマークしてパフォーマンスはどれほどの差があるかなどを確認・検証することが欠かせない。むろんOSSでなく商用製品であってもきちんとした選択を行わなければならないが、OSSの採用は完全に“自己責任”となる。
「OSSはソフトウェア間、バージョン間の組み合わせが爆発的に増えていますし、ハードウェア的にもマルチプロセッサ、並列システム、SANなどの大規模スケーラブルなシステムにおける稼動検証といった課題も多いですが、OSDLや自治体による推進団体の設立、エンタープライズLinuxの登場など環境は整いつつあるといえます」(喜多社長)。
そのためにはユーザー企業の内部で、あるいは信頼できるパートナー企業の内部に、OSSをきちんと使いこなすスキルとマインドを持つエンジニアを養成・確保することも求められる。
すなわち、ユーザー企業に“オープンソースを導入・活用していく”という中長期的なビジョンがあり、サポート体制を確立することで、「コスト削減」「セキュリティの向上」といった複数のメリットを享受することが可能となる。自助努力すればそのメリットは大きいのだ。
オープンソースの導入にはリスクはあるが、プロプライエタリ・システムにも異なる大きなリスクがある。そしてオープンソース導入のリスクは、ユーザーサイドでコントロール可能なリスクなのである。そこには、自社ITのイニシアティブは自社で握るという決意が必要なのだといえよう。
▼著者名 鈴木崇
アットマーク・アイティ編集局
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