連載
» 2004年06月10日 12時00分 公開

バランスト・スコアカード経営管理のススメ──環境変化への適合力はセンサーの出来が決め手情報活用経営とビジネスインテリジェンス(2)(1/2 ページ)

情報活用経営の手法の1つとして、バランスト・スコアカードが注目されている。しかしバランスト・スコアカードの本質や意義を正しく理解している人は少ない。そこで今回はバランスト・スコアカード経営管理の本質を解説する。

[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

偽物のITはもう要らない

 これまで、新しいマネジメントの概念が安易に消費され、消えていった。「ERPサプライチェーン・マネジメントも聞き飽きた」という方も多いだろう。

 それでは「バランスト・スコアカードはどうか」と聞くと、「経営計画の立案で使っている」という。しかし、バランスト・スコアカードを実現させるためにはERPなしでは難しいし、バランスト・スコアカードが成果として実現していないERPは、単なる統合業務パッケージにすぎない可能性がある。またサプライチェーン・マネジメントについても、ERPやバランスト・スコアカードなしでは実現できると思えない。なぜならサプライチェーン・マネジメントは内外需要の変化を予測して供給活動を最適化するものであり、ERPやバランスト・スコアカードは自社能力に関する詳細な情報を収集・体系化するものであるからだ。自社能力を見極められない企業は、必然的に内外需要の変化に対応できない。

 ERP、サプライチェーン・マネジメント、バランスト・スコアカードなどの手法は、ITによる経営革新を成功させた企業をベンチマーキングすれば共通して出てくる成功要因である。それは、第1回の「『経営計画』はレビューに始まる」で説明したSee-Plan-Doの考え方から容易に推測できる。経営環境のリスクと、チャンスにつながる小さな変化を他社よりも早く察知すること、それが情報時代の競争戦略である。

 それなのに、いまだに現行業務をなぞるようにコンピュータ化するだけの情報システム化を「情報戦略」とか「IT経営」と呼んだりしている状況をどう考えればよいのだろうか。賢明な読者(経営者にしろエンジニアにしろ)は偽物のITに対する不買運動を起こしてほしい。われわれに必要なものは、いまも昔も本物のITだけである。

合計に意味があるとは限らない

 さて、See-Plan-Doの考え方は、新しい方法論や技術を導入する場合にも当てはまる。そこで今回は、バランスト・スコアカードに着目してみたい。バランスト・スコアカードはよく知られた経営管理の手法だが、知名度の割には正しく理解されているとはいいにくい。その理由として、会計の基礎の基礎である「複式簿記」に対する理解不足があると考えられる。これについては後述するとして、まずSee-Plan-Doについてもう1度おさらいしたい。

 前回、See-Plan-Doつまり「レビューしてからプラニングすること」が大切であると述べた。See-Plan-Doのサイクルにより、因果関係を理解できるようになるからだ。

 バランスト・スコアカードについてすでによく知る読者は、バランスト・スコアカードがさまざまな指標を使って経営実績を定量化する手法だと理解されているだろう。実はこれは、伝統的な財務会計モデルでも同じなのだ。

 財務会計モデルでは、部門や勘定科目ごとに金額情報が集計されている。用語の定義や締めの概念が不明確なデータウェアハウスよりは、オーソドックスな管理会計システムの方がよほど価値ある経営情報を提供してくれる。リアルタイムな情報が提供されようが、高度な解析機能が提供されようが、使えないデータは判断を誤らせるだけである。

 よく見かける大きな過ちは、表計算ソフトやデータベースソフトを使った集計だ。表計算ソフトであればΣ関数などで簡単に合計を得ることができる。データウェアハウスになれば、なおさらだ(実は本稿で書いている過ちを、OLAPベンダ自体が犯していることがなんと多いことか!)。

 数を足せば合計が出る。これは当たり前だ。問題は、「その合計が何を意味するか」である。例えば男性1人と女性1人の人数を足せば、2人となる。しかしそれは人間が2人という意味であって、男性が2人いるという意味ではない。しかし、現実にはこういう過ちに大勢の人が陥っている。注文数の合計、顧客数の合計、売上金額の合計など。読者の方は、日々の実績の集計や事業所ごとの実績集計、商品別、担当者別の実績集計のたぐいを目の前に置いてないだろうか。

 何かを合計する場合は、その合計する対象データが集合体としてどのような共通特性を持つのかを把握していることが前提となる。また合計するならば、平均や分散、最大/最小値も取るべきだ(できれば散布図を見てほしい)。ペーパードライバーを含めた無事故率にどんな意味があるか分からないように、稼働していない商品や顧客を含めた回転率や維持率を取ることが、経営上どのような意味があるか、よく考えるべきである。

 見栄えだけは良い資料を乱発して、肝心な変化を示す情報を交ぜ合わせてしまうだけのマネジメントはやめた方がましである。「同じものと違うものを区別して分類する」??これがマネジメントの鉄則である。

 複式簿記では、決して異なる勘定科目を一緒にしない。だからこそ、管理会計として価値ある情報を得ることができるのだ。バランスト・スコアカードにもその精神はしっかりと受け継がれているから、企業はいろいろなことをそこから知ることができるのである。

因果関係を深く知る企業が勝つ

 多くの企業では貸借対照表よりも損益計算書を重視している。特に部門マネージャにおいてはこの傾向が極めて強い。しかし、本来複式簿記のだいご味は貸借対照表にこそある。“複式”という仕掛けのすごみもそこにある。

 複式簿記とは、取引における財産の「増」と「減」を同時に記録・集計する方法である。これにより、資本/負債(元手資金)を投下してどのような資産(商品や生産財)を手に入れ、それがどのような収益(売上)となったかを追いかけることができる。つまり「原因」と「結果」を同時に把握できるようになるわけだ。

 損益計算書しか見ない部門マネージャは、ビジネス活動を表面的にしか見ようとしない。「営業と売上」「購買と費用」のように、直接的な因果関係によるビジネス理解である。しかし、現実の世界はそうではない。貸借対照表に示されている商品が、損益計算書上の売上や売上原価と結び付いている。結果には原因がある。要求には理由がある。この因果関係を知ることが、競争に勝つ条件だ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ