ここで一度、製造業の競争力の源泉をつかさどる「仕様情報」の連携について整理したい。
製造業が必ず管理しなければいけない情報としての仕様情報の伝達には、時間軸・組織間という2つの側面がある。SCMの概念図と似ているが、SCMが「量」を管理するのに対し、PLMでは「スペック」を管理する。簡単にいえば、SCMでは製品や部品の量しか管理できないが、PLMは製品から製品仕様、部品へとブレイクダウンし、その部品の寸法や重量、コストといったスペックまで管理・参照できるようになるのである。製品ごとに、仕様情報の全体を見られるようにしておくだけでは、効果的な打ち手は出てこない。各製品の仕様について横串を通すようなイメージで、例えば物流コストの削減は図れないか、調達でコスト削減は可能かなど、用途に合わせて閲覧する情報を切り替えられる仕組みが必要だ。
製造業はこれまで、設計・調達・製造・品質保証・物流・メンテナンスなど、業務タテ割り型の効率化を極めてきた。これは量産効果を期待できるインフレ経済環境下であれば問題なかったが、今日では以下のような弊害が生じている。
かくして、日本の製造業から“クロスファンクショナル”という意識が失われ、自然にバケツリレー連携型のシステムが作られていった。しかしこのやり方でシステムを構築すると、業務が変化した時点でP/Nまですべてが変わってしまう。PLMを実現するためのあるべきシステム像とは、個別のデータベースと個別のアプリケーションをバケツリレーのようにつなぐものではない(図3参照)。
では、どうやって、複数業務や複数部門にわたって仕様管理を行っていくのか?
仕様は前述したように、本来はP/N(Parts Number)とP/S(Parts Structure)で表現される。P/S(製品構成=BOM)は、業務の目的別=意思決定単位によってモデリングされるものだ。一方、P/Nはデータ整備/クレンジングが支える。
ネクステックが考えるPLMは、実体としてのマスタ(P/S)は1つで、それを複数の構成とアプリケーションで見ているという総合的な仕組みだ。その概念図を図4に示す。
図4の下から2番目にセグメントされているP/Sは、部品やユニットの構成をBOMの形で表現する製品そのものだ。ここでさまざまな製品視点での戦略を打つことが可能になる(参照:第1回「“製造業のIT”がうまくいかない理由」2ページ目)。
一方で、図4の一番下にセグメントされているP/Nは部材やユニットの品番であり、情報が蓄積されて永久に安定するシステム資産なのでしっかりとした運用方針策定と標準化が必要になる。システムの定着は1〜2年かかるため、図4の上から3番目にセグメントされているViewは、業務の安定のためにあまり変更を加えない方がよい。また、図4の上から2番目にセグメントされるアプリケーションは、Excelや簡単なWebアプリケーションなどで十分だ。
アプリケーションは、本来、業務プロセス効率化のために人間に代わる役割を果たすものであり、人間は判断業務に集中するべきである。日本はしばらくデフレ型経済環境にあるだろう。業務と業務アプリケーションは、戦略と同様に市場の変化に応じて変化させていきたいものだ。前回解説したとおり、業務は可変性が高いことが競争力強化につながる。まだこういった方針を取っている会社は少ないが、これがネクステックが提唱するあるべきPLMモデルである。システム資産はP/Nであると意識して、コード体系や運用方針を十分検討し、信頼性が高く、かつ戦略的なP/N構築がPLMの基本といえよう。
安村 亜紀(やすむら あき)
ネクステック株式会社 マーケティング部 マネージャ。
某大手テレビ番組制作プロダクション、米国ソフトウェアベンダのマーケティング部門を経て現職に。現在、製造業を専門に業務改革支援コンサルティング、データモデリング、システム開発導入をワンストップで手掛けるプロフェッショナルファーム・ネクステックにてマーケティング活動全般を担当する。ワインマニアでもありワインのアドバイザリー活動や寄稿も行う。
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