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» 2004年04月27日 12時00分 公開

改革現場発!製造業のためのIT戦略論(1):“製造業のIT”がうまくいかない理由 (1/3)

90年代後半から、SCM、ERP、TOC、BTO……などなど、製造業に向けたさまざまな3文字ワードソリューションが流行しては消えていった。これらのソリューションがその効果を製造業に与えられなかったからだ。その理由とは何だろうか?

[安村亜紀 (ネクステック),@IT]

編集局より

本連載は、製造業専門のコンサルティング会社「ネクステック」のコンサルタント、プロジェクトマネージャの取材を基に、受注生産型産業、半受注生産型産業、部品点数が多い量産産業(自動車、自動車部品)など、組み立て製造業特有の経営課題やIT導入に関する問題解決を考えていきます。それぞれのテーマに合わせ、登場人物が変わります。取材・執筆はネクステックのマーケティング担当・安村亜紀氏です。


はじめに

 あなたは国内の労働者のうち、製造業に携わる就業者数の割合をご存じだろうか。比率はたった14%だ。その半面、国内貿易収支に占める製造業の輸出額の割合は、80%以上に及ぶ。

製造業就業者比率

基礎データ

  • 日本の就労者人口 6,330万人(平成14年厚生労働省データより)
  • 日本の製造業の就業者数 886,6万人(平成13年度経済産業省より)

GDPに対する製造業の売上比率

貿易収支中の輸出額に対する製造業の売上比率

基礎データ


表1 国内製造業における就労者数と国内貿易収支に占める輸出額の割合

 金融業や流通業といったサービス業のたぐいは、製造業が生み出した富とモノを動かす機能にとどまる。こうしたことから、日本の富を支えているのは、製造業だといえる。本連載は、製造業専門のコンサルティングファーム「ネクステック」が、製造業の改革プロジェクトを通じて、製造業の課題の実態と、ITを伴う業務改革のあるべき姿を提起する。本連載上に表現されるプロジェクト現場の息吹から、製造業のIT戦略成功のポイントをライブに感じ取っていただきたい。

 さて、連載第1回は製造業が抱える課題を整理していきたい。今回は、製造業のコンサルタントであり、PLM(Product Lifecycle Management)の第一人者としても著名なわが社ネクステックの代表取締役社長山田太郎に話を聞く。

今回の取材先

ネクステック 代表取締役社長 山田太郎氏

ネクステック 代表取締役社長 山田太郎氏慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン コンサルティング(現・アクセンチュア)、バーン社(現SSA グローバル)、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現・IBM BCS)、米PTC社の副社長(日本支部マーケティング担当)を経て、ネクステック株式会社を起業、代表取締役社長に就任。現在、ネクステックが抱える十数件の製造業の業務改革プロジェクトアドバイザリーや新規プロジェクトの立ち上げに自ら参画。本業と同時に、東京大学大学院工学系研究科の非常勤講師を務めたり、早稲田大学大学院、博士課程にてMOT(Management of Technology)博士号を取得。組み立て製造業IT戦略、特にPLM分野における論客として名高い。


「IT」は脅し文句か?

 これまで日本の製造業においては、企業間の激しい競争の中、日本人特有の“モノ作り”へのこだわりが品質向上に寄与してきた。そのこだわりの中でたびたびのコストダウンもやり遂げ、高度な生産技術や自動化技術が続々と開発された。その結果、生産財である工作機械、ロボット、金型、成形機、自動車向け材料といった関連分野で日本の技術が世界のトップに躍り出た。

 さらに技術開発競争の中で、自動車の機能技術でも、省資源・高性能エンジン・公害対策技術・カーエレクトロニクス技術など、他国にない先進技術の開発を次々にやり遂げた。特に自動車のように信頼性を要求する量産品では、先進機能技術といえども、量産のための生産技術が合わさって初めて市場に投入されるものだ。こうした面でも日本の得意とする高いモノづくり技術は大いに生かされた。

 これらの技術開発は、多用な要素技術が相互に複雑に絡み合っており、いざ実行となると高い総合力がなければ実効は得られない。そこには日本人特有の緻密な人間的連携力が活躍している。いわゆる“ア、ウン”の世界である。

 このように“ア、ウン”の人間的連携力が活躍してきた日本の製造業においてもITの2文字は、日本の製造業の経営者に対する脅し文句である。「効果があまり出ないし、今後も期待できないので、今後当社はIT活用をやめます!」などと勇気ある発言をする経営者は、まずいない。そんなことをいった日には、「遅れた企業」「改革拒否」とのレッテルを張られ、株価は下落、若手も将来を失望して退職が相次ぎ、会社はとんでもないことになるのかもしれない。こういった状況下、経営者は「IT導入をしないと世の中から乗り遅れる」「競争力を失う」といった根拠の薄い不安感を持ち、次々とIT投資を行っていった。

3文字ワードに踊らされていないか?

 SCMERPTOC(Theory Of Constraints:制約条件の理論)、BTO(Built To Order:注文を受けてから製造する方法)……、謎の3文字ワードに表されるソリューションが発表されていっては、言葉やコンセプトだけが先行しているきらいがある。正しいと信じていた戦略や理論が、実は自社にとってそれほど効果がなかったり、もしくは、自社には効果が期待できないことに気付いたというユーザーの不安の声を多数受ける。山田自身これまでERPパッケージやSCMパッケージのたぐいを導入、販売推進してきたうちの1人であるが、読者の方に、あえて次のように問い掛けてみる。

 「すべてのプロジェクトが、自社にとっての、SCMやERPの本質的な意味と効果を十分議論したうえで、進められてきたのであろうか?

 ゴール意識が気薄で効果が不明瞭なまま、「この3文字ワードの理論に効果があるようだ。導入しましょう!」といい出してプロジェクトを始めてみたものの、遅々として進まない、プロジェクトメンバー自身が不信感を持っている、といった不幸な状況が散発している。読者のプロジェクトではどうだろうか?

 ある大手電機メーカーの技術経営を指揮する方が、次のようにおっしゃっていた。

 「経営者予備軍として多くの社員を欧米の大学のMBA/MOT留学として派遣してきた。しかし、どうもMBA/MOTのたぐいは、SCM、ERP、ABCシックスシグマPMBOKなど、謎の最新キーワードの概要だけしか学んでこないような気がする。MBA組はこういった謎のキーワードを頻用して会話をし、それ以外の人間には会話の意味が理解できないから特別に見えてしまう。しかし最近は、そんなことに意味がないと思うようになった。3文字英略語を代表とした最新キーワードを知識として持ちつつ、日本型に翻訳、具現化できる力が必要だ。さらに、欧米のMBA/MOT卒業者にも、日本の経営大学にも、高いお金を払って来てもらうコンサル会社にも、その回答は見つからないことが多い」――日本の技術経営の未来に不安を感じる意見だ。

 このように最近のユーザーは、謎の3文字ワードのたぐいが本当に効果が出せるのか、疑ってかかるようになっている。ITやソリューションを導入して、どれだけ効果が出るのか、目利きできるかどうかが、IT改革の勝敗を分かつ。「ROI(投資対効果)はどの程度なのか?」という議論が盛んだが、その一方で「何をもってROIなのか?」「そもそもROIを図ることなど可能なのか?」など、IT改革や3文字ワードの改革については大きな疑問ばかり残る。

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