“製造業のIT”がうまくいかない理由改革現場発!製造業のためのIT戦略論(1)(2/3 ページ)

» 2004年04月27日 12時00分 公開
[安村亜紀 (ネクステック),@IT]

勝ち組製造業の情報戦略とは

 では、製造業は具体的にどのような取り組みをしていくべきか。まずは経営視点で解説しよう。

 企業戦略には戦略的自由度という問題がある。図1に示すように、そもそも製造業とは、キャッシュをモノに変えて、付加価値を付けて、モノをまたキャッシュに変える過程である。これが「キャッシュフロー経営」と呼ばれている。この事実をしっかりと認識していただきたい。その中でも製造業だけが付加価値創造過程を持っており、このキャッシュtoキャッシュサイクルを短く・太くする必要があるのだ。つまり「安い商品はサイクルを速く、息の長い商品はサイクルを太くする」ことが求められる。

ALT 図1 製造業の一般的なプロセス

 こういう考え方をすると、すべての産業はシステム産業であるということができる。システム装置がもうけを生んでいるのであり、すべてのリソース(人・機会・材料)をシステムに取り入れることで、製造業をシステム産業であると見なすことができる。このような見方をしたうえで、では製造業はどうすれば付加価値を創造できるのだろうか?

戦略の打ち手の自由度を高める

 図2に示すように、製造業の業務は、製品を中心として設計・調達・製造・物流・メンテナンスという一連のプロセスがある。これらのうち「部品」や「ユニット」など、経営者が操作できる軸が増えることによって、経営の戦略的自由度が高まると考える。具体的には「企業戦略」という関数のうち、部品やユニット単位で打つことができる戦略の可変の項目を増やすことが重要だ。

ALT 図2 ミクロ経営管理革命理論を使った戦略的自由度(打ち手)の例

 例えば調達の軸で自由度を高めるためには、「サプライヤを変える」「設計外注先を変更する」といった変数が、戦略的打ち手のバリエーションとなる。このように部品・ユニット単位での戦略的自由度を高めることによって、初めて付加価値創造過程を十分にコントロールすることが可能になる。ひいては、製品ライフサイクル全般にわたる損得勘定をはじめとした効果の高い経営判断が実現するわけだ。これこそ、現在製造業が置かれている状況下での「経営の可視化」であると考える。これが部品やユニット単位での打ち手=ミクロな単位での打ち手「ミクロ経営管理革命」理論の考え方だ。

 戦略的自由度の考え方は大前研一氏の『企業参謀』が初出であるが、氏の著作においては自由度に関する具体的な打ち手についての記述はない。ネクステックは、製造業において戦略的自由度を高めるためには、ブラックボックスである工場・製品をコントロール下に置くことが必要であると考える。

製品単位で戦略を考える

 製品の情報を可視化することで、それぞれの打ち手を製品の単位で可視化できるようになる。物流を例に考えてみよう。いままでは、製品ができた後でどう運ぶかを決めていた。ところが製品情報が可視化されていると、製品の構成を変更することで物流の最適化問題を解くことが可能になる。コンテナの中に1つだけ入るか、2つ入れることができるかを、製品構成を決定する段階で打ち手として考えることができるのだ。

 いままでの経営者の判断は「すでに完成したものをどう効率化するか」という限界があった。製品情報の可視化により、製品の完成以前に効率化に着手できるようになる。

 トヨタやキヤノンなど「勝ち組」といわれている企業の経営者は現場にしょっちゅう顔を出す。いずれも高収益を出している企業だ。その理由は何か。それは、これまでブラックボックスだった製造現場で見た“モノ作り”の単位で戦略的打ち手を見つけることで、経営戦略的自由度が増し、随時効果的な意思決定と手段を講じることができるからだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ