トヨタ生産方式(注1)においてJIT(just-in-time)(注2)生産を実現するために、「かんばん」と呼ばれる情報伝達ツールを使って“後工程引き取り”を実施する工程管理手法のこと。
かんばんとは、生産工程の各工程間でやり取りされる伝票で、後工程から前工程に対して引き取りや運搬の時期、量、方法、順序などを指示したり、前工程へ仕掛け(生産着手)を指示するもの。
ポイントは後工程(部品を使用する側)が「何を、いつ、どれだけ、どんな方法で欲しいか(使ったのか)」の情報を出し、それに応じて前工程(部品を供給する側)が生産を行うことである。すなわち、生産量や生産開始時期は、使用量や使用時期に応じて自律的に調整される仕組みになっている。これが前工程、前々工程……と連鎖的に動作することを想定すると、SCMの考え方につながる。
かんばん方式では、生産オーダーは最終工程から前工程へとモノの流れと逆に流れていく。そのため、生産計画に応じて部品などの発注を行うMRP/MRP IIを「押し出し方式」というのに対し、かんばん方式を「引っ張り方式(プル方式)」と呼ぶ。
トヨタの社史によれば、創業当初に粗形材工程と機械加工工程の間に整備室を設けて、数量をコントロールする方法に取り組んでいたという。この試みは現場の実情に合わず修正されたが、こうしたJIT指向の社風が戦後にかんばん方式を生み出すことになる。
かんばん方式は、米国のスーパーマーケットからヒントを得て考案されたもので、スーパーマーケットのように「顧客(後工程)が必要とする品物を、必要なときに、必要な量だけ購入する(引き取る)」「店(前工程)は売れた(引き取られた)分だけ、補充(生産)する」という方式である。1954年にトヨタ自動車工業の本社機械工場の一部に導入され、当初は後工程へ補充運搬する改善で「スーパーマーケット方式」と呼ばれた。その後、指示書に変えて現品票(前工程が現品に付けて送ってくる伝票)を応用した“かんばん”が使われるようになり、「かんばん方式」と呼ばれるようになった。
かんばん方式は、作り過ぎ・運び過ぎの無駄を抑制して部品(中間品)在庫を圧縮するとともに、最新の部品在庫を使用することによる品質向上、工程の遅れなどを検知する“目に見える管理の道具”としても効果があるとされる。
かんばん方式の実施には、どのような生産物、生産現場にも導入できるわけではなく、次のような前提条件がある。
近年、遠隔地の工程との情報交換などを目的に、ITを駆使した「電子かんばん」(e-かんばん)も登場している。
▼『トヨタ自動車30年史』 トヨタ自動車工業/1967年12月
▼『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』 大野耐一=著/ダイヤモンド社/1978月5月
▼『トヨタ「かんばん」方式の秘密――超合理化マニュアルを全面解剖する』 斉藤繁=著/こう書房/1978月7月
▼『トヨタの新かんばん方式』 大槻憲昭=著/中経出版/1985月7月
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