2004年11月19日(金)、@ITセミナールームで行われた第2回 ユーザビリティ研究会は、ペルソナ/シナリオ法の実践編。本レポートは前回「前編」のレクチャーに引き続き、第2回研究会の質疑応答からペルソナ/シナリオ法の導入とその効果についてレポートする。
株式会社アプレッソ代表取締役副社長 CTO 小野和俊氏
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部卒業後、サン・マイクロシステムズ株式会社にてJava、XML関連の技術を担当。2000年にはSun Microsystems,Inc(米国本社)にてサイジング自動化ツール「Tahoe」を開発。現在、株式会社アプレッソ代表取締役副社長兼CTOとしてデータ連携プラットフォーム「DataSpider」を開発。
Q:ペルソナ/シナリオ法導入を説得する際のキラーワードがありますか。「もうかるのか」「コスト効果は」という話になると説得しづらいように思います。
ペルソナ/シナリオ法はソフトウェアをよりユーザーにとって使いやすいものにするための手法ですから、やはり「ソフトウェアのユーザビリティをもう一段高いものにしたい」というようにストレートに説得していく形になるのではないでしょうか。コストや利益については、新しい手法を導入するわけですからそれなりのコストは見ておかなければなりませんが、ユーザーが操作に不便を感じることなくスムーズにツールを習得していけるようになれば、中長期的にはそれが利益にもつながってくるかと思います。
Q:ペルソナを作るには時間と手間が掛かるというお話でしたが、時間的なコストを掛けられない場合の秘策はありますか。
ペルソナ/シナリオ法の導入にもいくつかのレベルがあるので、どうしても時間や手間を掛けられないような場合には、1番目のレベルの概念レベルに絞って導入することもできます。また、実装が始まってから使いづらいと指摘を受けて作り直していくようなことが発生し得る場合には、あらかじめ詳細に定義されたペルソナやシナリオを用意することで、手戻りが少なくなって逆に納期が短くなることもあります。
Q:プロジェクトメンバーにはどういう方がいますか。
まず、開発部門の中でペルソナ作成チームが、叩き台を作りました。レビューミーティングは、自由参加型とし、営業やSEなども参加しました。
Q:その中に何かしらの専門家を交えてやるものですか。
アメリカでは、ペルソナを作る専門のコンサルタントがいます。『コンピューターは、むずかしすぎて使えない!』を書いたアラン・クーパーさんは会社をつくり、ペルソナやシナリオの専門コンサルティング業務を行っています。もちろん、そういう専門家の方がいた方がスムーズに導入できることも多いかと思います。ですが、専門的に見てもらわないと導入できないような種類のものではないので、専門家がいなくても、ペルソナ/シナリオ法を導入していくことは可能です。
Q:ペルソナが決まると、その後のガイドラインも比較的スムーズに決まりますか。
ペルソナが決まった後も、デザインガイドラインやシナリオを作っていく過程で、ある個所に変更が入ったことでほかの個所も見直さなければならなくなるケースは発生します。この研究会でお見せしたこのガイドラインも、シナリオや画面設計が確定する最後の最後まで変わりました。ペルソナを決め、デザインガイドラインを決め、シナリオを作り、画面設計し──とここまで全部決まったら、ここから先はウォーターフォール的に後戻りしません。でも、ここまではものすごいイテレーションが起こります。
デザインガイドラインの項目にもいくつかの種類があります。ペルソナが決まった時点で出てくるものもありますし、シナリオ作成や画面設計をやっていく中で、デザインガイドラインがリファインされ、チューンアップされていくような感じのときもあります。ですから、ペルソナが出たらすぐにデザインガイドラインが決まるほど簡単ではありません。
Q:そういう意味では、デザインガイドラインをある程度ラフに決めたら、すぐに開発フェイズに入った方がいいですか。
そのとおりです。一番のエッセンスはペルソナとシナリオのところだと思います。この2つがぶれない形にきちんと固まれば、デザインガイドラインも具体的なペルソナやシナリオをはっきりと意識したものになりますし、画面設計を行うにしても、シナリオに即して進めていくことで、想定する必要のないケースについて議論する時間を短縮していくことができます。
Q:デザインガイドラインに落とし込むときに、抽象化しないために心掛けていることはありますか。
DataSpiderの「設定」に関して、当初、デザインガイドラインに「できるだけウィザード形式で提供すること」と書いていました。その根拠は、そのツールについて知らない人でも、1つ1つステップに分けてウィザードでナビゲートするような仕組みにした方が多分分かりやすいし、習得する手間がなくなるだろうということがあったからです。
実際にそれでやっていくと、ウィザードがすごい数になります。また、ウィザードによって動き方が違ったりします。ウィザードの画面設計をして初めて、ペルソナのみかさんが困惑したり抵抗があったりする部分が大きいのではないかと分かったのです。
ウィザードはもっとこういうルールにした方がいいという議論をしていくうちに、ウィザード画面が複雑になることが分かって、コントロールパネル形式などの抽象化アプローチをある程度取り入れていくことがガイドラインに入ってきました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.