大企業の敵は縦割り部署、中堅の敵は無知なベンダ特集:ERPトレンドウォッチ(4)(1/2 ページ)

今回は、主に中堅企業のERP導入プランニングを手掛けているアーク・シンク・タンクのシニアマネージャー 井上 実氏にERP導入現場の実情を聞いた

» 2005年01月15日 12時00分 公開
[大津心,@IT]

 前3回では、ERPベンダなどがどのように考えているのかを伺ってきた。では実際にERPユーザーの導入現場ではどのような事態が起きており、その問題を解決してERPパッケージ導入を成功させるためにはどのような施策が必要なのか? 今回はERP導入現場の実情などを、主に中堅企業のERP導入プランニングを手掛けるアーク・シンク・タンクのシニアマネージャー 井上 実氏に伺った。(本文中敬称略)

横の連携不足のために、アドオンの7割がインターフェイス改良

 井上氏は、「ERP本来の“全体最適”という概念は、基本的に経営層は理解している場合が多いが、それを現場レベルまで落とすと、途端に縦割り業務の弊害にぶち当たるケースがほとんどだ」と指摘する。

 そもそも、SAPを含めたERPパッケージソフトが最初にターゲットにしたのは、売上高1000億円以上の大企業だった。大企業に存在する既存の基幹系システムを、パッケージソフトに入れ替えることを目標にしていた。大企業は部門ごとに業務が設計され、業務プロセスもアプリケーションも、担当者も縦割りになっている場合が多い。そのような環境下で、「全体最適の視点でシステムを開発しましょう」といったスローガンを掲げても、全体を見渡せる社員が存在しないために作ることができないのが実情だったという。

 経営者のための道具としてのERPは、最初に“会計”から導入が進んだ。会計は一定のルールの下で行われており、会社ごとの差異も少ない。このため、最も導入されやすかったという。そこで、会計を対象としたシステムをまず導入してみる企業は多かったが、それを横に広げることが非常に難しかった。なぜなら、「会計担当者は、会計しか知らない」という問題がネックになったからだ。

 さらに、会計しか入れていない状況でも開発上の問題は生じた。会計のシステムは、販売や生産などの他部門からデータをもらわないと動かない。リアルタイム経営を実現するためには、会計のERPパッケージと、既存の販売や生産部門などが利用しているレガシーシステムを連結させるインターフェイスを、あらためて作らなくてはならなくなった。一説には、ERPパッケージにおけるアドオンの70%がインターフェイスだともいわれている。このような背景から、EAI(Enterprise Application Integration)が登場したと井上氏は分析する。そして、その潮流は根強く、ERPの王者SAP自身が「SAP NetWeaver」をリリースすることになるのだ。

縦割り業務を横串にできなくて苦しむ大企業の旧体質

 そのような状況で、横串による全社的な取り組みを推進しようとすると、担当者は非常に苦しい思いをしなければならなくなる。例えば、BPM推進部長などは、毎日胃が痛くなりながら、各部署の担当者を説得しなければならないという。

 ある製造業大手では、外資の親会社から「本社に合わせて、ERPを導入するように」との指示を受け、コンサルタントを招いたプロジェクトを発足した。しかし、3カ月後に訪れた本社の監査は「このプロジェクトを中止するように」と伝えてきたという。その理由を、「通常ERPを導入する際には、全体を見て『どの部分にERPを利用するのか?』を決めてから、自分たちがメインとなって導入を始める。しかし、日本の子会社は既存システムのリプレースしか考えていない。さらにコンサルティングに導入作業の大部分を任せている。これではERPを導入する意味がない」と説明した。つまり、「すべての部署やシステムにERPパッケージを導入することはあり得ない。自社全体の業務やシステムを見直し、必要な部分だけリプレースすることで全体最適や業務改善を目指すことこそがERPパッケージ導入の狙いだ」と親会社は主張したのだ。

 このように、日本の大企業の多くは部署単位でのシステム導入がメインとなって「既存システムをERPパッケージに置き換える」ことが先行し、全体を見渡して“必要な部分だけ”ERPを導入するといったことができていないのだという。

 また、「どうしたら在庫が減るのか」という問題にぶち当たった際に、その解決方法が分からないユーザーが多いのも問題だ。そのために、在庫を減らす方法を教えるビジネスコンサルティングが必要になってくる。ビジネスコンサルティングが、「現在の在庫を分析」したり、「どの情報を共有すれば生産計画がうまくいくか」などをレクチャーし、「それを実現するためにAというシステムが必要だ」と説明してからでないと、「システムが有効に稼働していないのが実情だ」と井上氏は語る。逆にシステムを前面に押し出し、「このシステムを導入すれば、在庫が半分になる」といったうたい文句はうそだと断言した。

SCMなど、ERP以外の販売に生き残りを目指すベンダ

 今日、大企業のERP導入は一巡したとされる。こうした中、ERPベンダは今後売り上げを拡大していくために、1つには中堅や中小企業も視野に入れて営業を拡大する方法と、大企業に対してERPを足掛かりとしてほかのパッケージを販売し、売り上げ拡大を目指す方法を狙っているという。

 その際の大企業へのアプローチでは、従来のERPという基幹系パッケージだけではなく、CRMSCMEIPなどを出荷するという販売手法が2?3年前から取られている。しかし、この販売方法もなかなかうまくいっていないという。その原因を、「これらのCRMやSCMを単体で販売しようとして、それぞれの担当者のところへ販売しに行くからだ」と井上氏は解説している。通常CRMやSCMは、企業にとってフロント側の製品であるため、「経営をどうするか?」や「顧客戦略をどうするか?」といった経営戦略と、製品導入が密接になっているべきものである。一方で、販売現場では「そのような経営戦略の話ではなく、技術的な話題に寄ってアプローチしているため、失敗に終わるケースが多いのだ」と同氏は指摘した。

 その点、旭化成は初期のころから部署を限定してERPを導入していた。しかし、再度「ERPをどう使うか考え直そう、全体のデザインをし直そう」という発想の下、再構築作業を2003年くらいから行っている。このような、ERP本来の使い方を目指している企業も存在しているという。

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