なぜ、R/3のシステム開発と運用コストは高いのか?SAP R/3バージョンアップ方法論(1)(2/3 ページ)

» 2005年03月19日 12時00分 公開
[斎藤 滋春,エス・アイ・サービス]

システムインテグレータが“うまみ”を見いだす

 インテリグループジャパンというERP導入コンサルティングを行っている会社が、SAP導入企業に対して、彼らのツールを使用してアドオン内容の実態を調査した結果がある。R/3導入におけるアドオンの約80%はレポート系(出力)やバッチインプットといったデータ連携系のものであり、残りの約20%はSAP標準にない機能追加ということである。さらに別の視点から見ると、帳票出力用のアドオンが全体の約40%であり、日本固有の帳票文化への対応をR/3上で行っているという実態も明らかになっている。

  ERPパッケージというのは、昔もいまも、非常によくできた財務会計および管理会計システムである。販売管理や在庫・購買管理、生産管理などのモジュールは、財務会計および管理会計のための入出力モジュールといっても過言ではない。つまり、企業全体の資源(カネ、モノ、ヒト)の情報を伝票という形によって管理し、計画するための経営者層向けシステムなのである。それを誤って、経営者層からエンドユーザーまで満足するようなイメージを与えたものだから、導入に困難を極めることになった。既存システムのどの部分は残し、どの部分をERPパッケージでリプレイスしていくのか? つまり“ERPパッケージの位置付け”を明確にしないことが、アドオンが増加していくことにつながっていく。

 ERP導入が流行のようになってくると、その導入を担当するシステムインテグレータもそこに“うまみ”を見いだす。ERP導入コンサルタントの単価は、ほかのシステム導入コンサルタントに比べると非常に高い単価であった。その原因の1つとして、ERP導入コンサルタントに必要な素養として「顧客の業務を理解する能力」が必要だといわれていたことがあると考えられる。先に述べたERPパッケージがBPR実現のための方法とされていたことから、外資系会計事務所系のコンサルティング会社や経営コンサルティング会社が多く参入してくることになった。それらのコンサルタントの単価が、システムインテグレータに比べて高かったことから、システムインテグレータにおいてもERP導入コンサルタントの単価は引き上げられていった。

ここ2〜3年で事情が変わってきた

 また、ERP導入コンサルタントの単価引き上げは、アドオンを開発するプログラマの単価をも引き上げた。そうなると、ERP導入においてアドオンが増えていくことは、システムインテグレータにとって売り上げ増加につながっていく。人間の心理として、「アドオンの増加が良くない」と分かっていても、アドオンの増加によってもたらされる売り上げの増加や、急増した社内開発者の仕事の確保を考えると、アドオンが増えていくという構図にもなる。

 さらに、ERPパッケージ導入企業が増えていくと、アドオン開発のためにプログラマの数量的ニーズの増大を促し、システムインテグレータはプログラマを急激に育成していった。当然、そのスキルにばらつきが出てくることで、同じ仕様でも、担当するプログラマによって開発されるプラグラムや開発期間に差が出てくる。ところが、企業側から見ると、その詳細が明らかにならずに、アドオン開発ボリュームの増大、ついては開発費用の増大という形でしか映らないために、当初想定していたERP導入予算よりも実績が超過していくことになる。導入企業からすると、実績が超過したからといって、途中で開発をやめるわけにもいかず、カットオーバーに向かって、追加費用が極端でない限り、受け入れていたと考えられる。

 ところが、ここ2、3年を見ると、ERPパッケージに対して企業側に明らかにこれまでと異なる認識が生まれてきている。導入済み企業は、その運用・保守に対して問題や不安を抱え、未導入企業は、ERP導入の効果に対して疑問を抱いている。そして、大企業へのERPパッケージ導入が一巡した現在、その導入実態が明らかになってくると同時に、企業のIT投資予算が減少してきたことから、ERPパッケージの導入および保守・運用の費用を抑えなくてはいけないという背景がある。

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