なぜ、R/3のシステム開発と運用コストは高いのか?SAP R/3バージョンアップ方法論(1)(3/3 ページ)

» 2005年03月19日 12時00分 公開
[斎藤 滋春,エス・アイ・サービス]
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魅力的な“短期導入”は実は意味がない?

 ERPパッケージ導入の効果としてERPベンダが主張していたのは、「短期導入」や「バージョンアップによる最新テクノロジの享受」である。特に、短期導入については、それまでの「汎用機をベースとした手作りシステム」に比べて短期でカットオーバーできるということを訴えていた。ところが、導入企業が増えてくると、導入期間についてERP導入のメリットが必ずしもないことが分かってきた。実際、ERPパッケージの導入範囲によってばらつきはあるが、財務会計や管理会計、販売管理、在庫・購買管理、生産管理といった会計系やロジ系のモジュールを導入するプロジェクトでは、企業の要件定義が終わっている状況でも、基本設計からカットオーバーまで2〜3年というプロジェクトは普通である。

 さらに、バージョンアップによる最新テクノロジの享受ということが、ERP導入の費用対効果のメリットとしてのインパクトがほとんどないことも明らかになりつつある。確かにバージョンアップすることによって、新機能が追加され、その時点でのトレンドのテクノロジを使用するこができる。しかしながら、日本市場において最新テクノロジに飛び付くケースというのは非常に少ないのが現状である。例えば、パッケージアップグレードでWeb技術の活用ができるとしても、基幹系システムではそれに飛び付くほどのニーズはない。しかし、ハードウェアやOS/DBMSなどプラットフォーム技術の向上はスピードが速く、ERPがその特質故に抱えるDBの急速な膨張とそれに伴うパフォーマンス低下の問題もあり、3〜5年の間にはハードウェアの移行を考えざるを得ない。パッケージをパッケージとして意識して活用していれば、このようなときにメリットが生じるが、現実的にはERP導入時に将来のスムーズなマイグレーションを意識した設計がなされているケースはまずないだろう。基幹系システムとなればなおさらである。1998年、米国で発足したロゼッタネットで策定している、情報機器、半導体・電子部品、半導体製造業界におけるグローバル・サプライチェーン構築の標準として、ロゼッタネット標準というものがあるが、SAPはいち早くパッケージで対応した。日本のSAPユーザーもロゼッタネット・ジャパンという団体に参加してテストパイロットを推進しているが、BtoBサーバ間のテストが中心で、基幹系システムであるR/3まで取り込んでいる企業というのは少ないと考えられる。

 やはり、企業からすると、ERPパッケージを導入することによって、売り上げの拡大か費用の減少という金銭面での効果でないと導入に踏み切れないということが、より明確になってきている。

導入時に“アドオン頼り”したツケがいま回ってきている

 すでに導入している企業においては、先述したアンケート結果にあるように、ERPの運用・保守が深刻な問題になっている。運用・保守における最重要課題の1つはバージョンアップだ。情報システム系の雑誌において、しばしば「A社のR/3のバージョンアップに○○○○万円掛かった」や「B社がR/3のバージョンアップに1年間かけた」などの記事を散見する。いま、導入企業からすると、R/3のバージョンアップにはかなりの費用が掛かるということが通説になっている。

 導入企業では、バージョンアップ費用を捻出するのにも大変だという。利用する機能は追加・変更をせず、R/3のバージョンアップのみを行うことを「テクニカル・アップグレード」というのだが、テクニカル・アップグレードの費用の社内稟議が通らないという。テクニカル・アップグレードには数千万円という費用が掛かるが、上長からすれば、「バージョンアップすることによって何のメリットがあるのか?」ということになり、その費用対効果がないと判断される。バージョンアップをせずに古いバージョンの運用を続けながらSAPの保守契約を締結しようとすると、費用の割高な延長保守を結ぶということになるのだが、その選択をする企業も多いのではないか。さらに、バージョンアップをやめて保守も打ち切った企業もある、という話も聞く。

 バージョンアップに費用が掛かってしまう原因の1つとして、先に記述したアドオンがある。SAPはパッケージベンダとして、当然、アドオンについてはバージョンアップを保証していないことから、バージョンアップ時には、導入企業もしくはシステムインテグレータがバージョンアップすると同時に、アドオンの動作検証や動作しなかった場合の作り直しを行わなければならない。これは、アドオンの量が多ければ多いほど、期間・費用が掛かることになり、場合によっては、アドオンが別のアドオンを生み出す可能性もある。要はいま、バージョンアップで苦しんでいる企業は、導入開発時のツケが回ってきているのである。

「ERPパッケージを使わない」という判断も必要

 ここまでERPパッケージ導入によるマイナス面ばかりを書いてきたが、ERPパッケージは非常に優れたソフトウェアである。導入企業の中には、適切に導入してその効果を享受している企業もある。しかしながら、導入企業の半分以上が運用・保守費用を問題と感じてバージョンアップに不安を抱いているのである。

 その問題および不安を解決し、ERPパッケージを適切に導入開発、運用していくためにはどうしたらいいのか? それには、「ERPパッケージを正しく使用するために、ERPパッケージを使わない」という判断も必要である。すべての業務・機能をERPパッケージ上で実現するのではなく、アドオンを排除・削減するために、適材適所の観点から必要な場合には別のパッケージを導入し、パッケージ間連携を図ることによってシステム全体を構築していく。SCM、CRM、ECなどの比較的、多機能なソフトウェアを活用していくことも重要であるが、帳票、自動FAXなどのより単機能のソフトウェアを活用し、ERPと組み合わせていくことでも十分な効果が得られる。

 システム間連携を図るにも、アドオンで行うのでは元のもくあみである。ERPパッケージが本来持っているデータ連携のための標準機能と連携ツールの適用によって極力、アドオンを排除していく。システム間連携が増えてくると、システム運用が煩雑になるという懸念が生じる可能性がある。しかし、それを補って余りある効用を得ることが可能である。

 次回は、SAP R/3の導入・開発および運用におけるアドオンの削減方法を、具体的に紹介していく。

筆者プロフィール

斎藤 滋春(さいとう しげはる)

株式会社 エス・アイ・サービス コンサルティンググループ シニアコンサルタント

日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン株式会社、株式会社日本総合研究所などにおいて経営コンサルタントとして従事した後、1996年にSAPジャパンに入社。EDI/BtoB、EAIおよび外部システム連携認定のコンサルタントとして従事した。2001年ベンチャー系IT企業においてコンサルティング部門の設立作業に従事した後、2004年より株式会社エス・アイ・サービスに入社し、R/3導入におけるインタフェイス・コンサルティングを行っている。


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