ITSSを経営に100%生かすポイントとは?特別企画:ITSSの現状を探る(1/4 ページ)

ITSSが発表されてから、2年半が経過した。その間、大手ITベンダを中心にユーザー企業やシステム子会社でも導入が進んできている。一方で、ITSS本来の目的とは異なり、顧客企業との人月単価交渉に利用しようとする事例も目に付き始めている。現在のITSS導入の現状や経営に生かすポイントはどこか考えてみる。

» 2005年05月19日 12時00分 公開
[井上真,@IT]

 IT人材の効果的な育成を推進し、IT人材不足の解消を図るとともに、IT技術者自身のキャリアパスを確立できるようにすることを目的として、2002年12月に経済産業省から発表されたITSS(ITスキル標準:Skill Standards for IT Professionals)。発表から2年が経過し、大手ITベンダだけではなく、ユーザー企業やシステム子会社への導入も進んできた。2006年3月にはITSS Ver.2のリリースも予定されている。

 しかし、本来の目的と必ずしも結び付いていないと思われる導入事例も目に付き始めている。ここでは、ITSS導入の現在の状況を概観したうえで、ITSSを経営に生かすポイントをまとめてみることにする。

1.本格化するITSS導入

 ITSSの概要と、現在の企業への導入状況を簡単にまとめてみる。

(1)ITSSの概要

 ITSSはIT人材の効果的な育成や、IT技術者のキャリアパスの確立を容易にするために、IT業界におけるスキルの共通言語・物差し・辞書として作成されたものである。

 ITSSでは、「コンサルタント」や「プロジェクトマネジメント」などの11種類の職種が設定され、さらに38種類の専門分野が設けられている。また、専門分野ごとにスキルレベルが7段階に設定されており、レベル1、2は「エントリーレベル」、レベル3、4は「ミドルレベル」、レベル5、6、7は「ハイレベル」と呼ばれ、専門分野単位でのキャリア開発が容易になるように作られている(図1参照)。

ALT (図1)スキル・フレームワーク
出典:経済産業省、「ITスキル標準V1.1」、2003年7月、12ページ

 ITSSのスキルは過去の実績を評価する達成度指標と、知識を評価するスキル項目に大きく分かれている。スキル項目は職種共通のスキル項目と専門分野のスキル項目に分類され、それぞれにスキルの前提となる知識項目とスキルに基づいてできることを定義したスキル熟達度が設けられている。

 また、ITSSに対応した研修科目を職種ごとにまとめた研修ロードマップも提示されており、IT人材の育成やIT技術者自身のキャリアプラン作成を容易にしている。

 一般的に、企業で必要な人材スキルを定義しようとすると、職種ごとに必要なスキルやスキルレベルを定義したうえで、さらに専門分野ごとに必要なスキルおよびスキルレベルをマッピングする必要がある。ITSSを1つのスキルモデルとして活用することで、ゼロからスキル定義やスキルレベル定義をする必要がなくなり、これらの作業の効率化/短縮化を図ることができる。

(2)ITSSの導入状況

 ITSSの導入に最も積極的なのはITベンダである。大手ITベンダを中心にITSS導入が本格化し、中堅規模ベンダへ広がりつつある。アルゴ21やNECなどではITSSと対応付けたプロフェッショナル認定制度を策定し運用に入っている。また、NTTソフトウェアではITSSに沿ったスキル診断を約1280名のIT人材を対象に、また新日鉄ソリューションズでは約2100人のIT人材を対象に実施している。

 ユーザー企業やシステム子会社においてもITSSの導入が進みつつある。例えば、損保ジャパンではIT人材200人を対象にしたITSSをベースとしたスキル診断を実施し、そのシステム子会社である損保ジャパン・システムソリューションにおいても、ITSSをベースとした4職種8専門分野からなる専門職制度を策定した。東京電力グループのテプコシステムズでも、約2100人のIT人材を対象にITSSをベースとしたスキル診断を実施している。

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