前編「マインド・マップの基本と応用」の最後で、マインド・マップとUMLを融合させるというアイデアに触れました。その中で、発散と収束という思考活動の分類を紹介しました。
思考の発散・概念の収集過程(要求ギャザリング)では、マインド・マップを用い、思考の収束・概念のモデル化過程(要求モデリング)では、UMLを用いる。
しかし、実際にマインド・マップとUMLをどう使い分けて、どう連携させていけばいいのでしょうか。役割分担としては、マインド・マップを使って情報を書き留め、UMLを使ってそれを整理するということになります。しかし実際の手順を見てみないことには、イメージがわきにくいでしょう。また、UMLはツールを使って描くことが多いですが、ツールの使い勝手も考える必要があります。
そこで後編では、マインド・マップでお客さんとの打ち合わせの議事録を取り、その結果をUMLダイヤグラムにまとめていく流れを具体例で紹介したいと思います。本記事では、マインド・マップとUMLを作成できるツール(永和システムマネジメントのJUDE)を活用し、2つの図をどうつないでいくのかもお見せします。
例題として、オブジェクト倶楽部が開催した「第2回モデリングコンテスト」 のお題を取り上げました(今回の内容に合わせて一部改変してあります)。では、その例題に沿って、クリーニング店へ出向いてヒアリングを行う場面から始めましょう。
純白堂は家族経営の、商店街の中にあるクリーニング店です。純白堂店主の純白四郎さん(56)は、個人プログラマをやっているおいの開発太さん(35)と意気投合して、新たにシステムを開発して導入しようということになりました。普通にパッケージを使ってもよさそうなものですが、理想は高いようです。
開発太 おじさん、こんにちは。
純白四郎 おお、発太くんか。わざわざすまないね。
開発太 今日はよろしくお願いします。まず、今日の打ち合わせでは、システム化する範囲と、その部分の業務の内容を聞きたいと思うんです。最後に、今後どういうふうに進めていくか、相談しましょう。
開さんは、事前に用意してきたマインド・マップ(図1)を開きました。今日の打ち合わせのクライアントとアジェンダ、それから以前に聞いていた内容を簡単に整理したものです。今日これから聞く内容を書き留めるための、空っぽのBOI(最初の分岐)も用意してあります。
開発太 この間のお話では、受け付けと料金計算の部分をシステム化したいと、そういうことでしたよね。
純白四郎 そうなんだよ。家内はほら、そろばん得意だろ。だから金勘定は自分の仕事ってわきまえてるからな。受け付けだったら俺がやってるところだし、ちょうどいいと思うんだよ。
開発太 受け付けっていうのは、どういうことをやるんですか?
純白四郎 お客さんからクリーニング品をお預かりして、お名前と電話番号を伺ってから、整理番号を付けてチケットを渡すんだ。後でそのチケットを持ってきてくれたら、奇麗にしたものをお渡しする。
開発太 似たようなシャツとかはどうやって区別するんですか?
純白四郎 お預かりしたものに1枚ずつタグを付けておくんだよ。そこにも整理番号を書いておくから、分からなくなったりはしないな。
開発太 ああ、クリーニングに出すと、小さな札が付いて返ってきますね。洗ってるうちに外れたりしないんですか。
純白四郎 紙みたいに見えるだろ? あれ、ただの紙じゃないんだ。まず外れないな。書いたものが消えたりもしない。
開発太 へえー。すごいんですね。
話をしながらマインド・マップにメモしていきます。マインド・マップには取りあえず聞いた順に書き込んでいきます。
開発太 料金はどうやって決まるんですか。
純白四郎 料金表があるよ。品名によってみんな料金は決まっているな。それから、防虫や防水の加工を承ることもある。このコートを防水加工してくださいとか、背広を防虫加工してくれとか、ワイシャツはそのままでいいとか、注文してもらうんだよ。防虫は品物に関係なく1点500円、防水は品名によってそれぞれ料金を決めているな。背広なら800円、コートなら660円とまあ、こんな具合だ。
開発太 じゃあ、受け付けするときにもう分かるんですね。お金は受け付けのときにもらうんですか?
純白四郎 お渡しのときの方が多いな。たまにだけどな、何かの都合で加工できなかったりすると、後からその分の料金をお返ししないといけないんだよ。普通は先に分かるんだがねえ。
開発太 そうすると、受け付けするときには、品名を確認して、加工も聞いて、料金が決まるんですね。そこでチケットも出すんですか。
純白四郎 そうそう。いまはチケットの束に、前もって番号をスタンプで押しておいて、1枚ずつ使ってるんだよ。こういうのはパソコンが印刷してくれるんだろ?
開発太 できますね。レシートプリンタか何かが必要ですけど。そうすると、お渡しのときは……。
純白四郎 チケットをいただいて、品物を出してきて、料金がまだならそのときにいただくんだ。
開発太 どの品物かっていうのは、整理番号で分かるんですよね。
純白四郎 まあだいたい覚えてるけどな。お渡しするときに、チケットの品名を見て確認するよ。
開発太 おじさん、失礼ですけど老眼ですよね? チケットの字って読みにくくないですか?
純白四郎 んん、まあな。でも自分で書いた字だから読めるよ。
開発太 チケットを印字すると、たぶん字が小さくなっちゃうんです。パソコンの画面に、品名とかが出てくる方がよくないですか?
純白四郎 ああ、それはいいねえ。実はね、料金表は字が結構細かいんだよ。これからはいろいろとサービスも増やしていきたいと思ってるんだが、いちいち料金表を見ながら計算するのが大変でねえ。
新しい話の内容を書いて、前の内容につないでいっています。話が進んでくると、前に聞いた内容が違う文脈で再登場したりすることがよくあります。ですが、いまはまだ整理しようとはせず、前のトピックにつなぐか、同じトピックを別に作ってしまいましょう。話を聞き取りながら整理するのは難しいですし、無理に整理しようとすると頭が「収束モード」になってしまいがちです。お客さんと直接話ができる貴重な時間を無駄にしないよう、ここでは話を引き出すこととそれを記録することに集中した方がよいでしょう。
ここまで書いたマインド・マップを見渡すと、システム化範囲と業務内容はある程度話が聞けていそうです。一方アジェンダの3番目に用意した今後の進め方は、まだ手付かずだと分かります。そろそろまとめに入ってもいいかもしれません。
開発太 ひとまずここまでにして、いままでのところを整理してみます。どうもありがとうございました。
純白四郎 はいはい。よろしく頼むよ。
開発太 今日の内容を整理すると、また聞きたいことが出てくると思うんです。ぼくの方で設計を進めるんですけど、今日みたいなインタビューをまたさせてください。1週間後にまた来てもいいですか?
純白四郎 来週だね。大丈夫だから、また来なさい。
最終的に出来上がったマインド・マップは、以下のようになりました(図4)。
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