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» 2005年07月27日 12時00分 公開

事例で学ぶビジネスモデリング(3):戦略コンサルの基本「仮説検証プロセス」〜IT技術者のための戦略・業務分析入門〜 (1/3)

[井川甲作(戦略コンサルタント),ウルシステムズ]

 第2回「システム開発は『戦略立案』から始まる」は、「戦略とは何か」から始めて、戦略コンサルティングプロジェクトの進め方や戦略コンサルタントの意義などの一般論を述べた。今回は具体的な事例を通じて、戦略コンサルティングの仕事の内容を紹介する。

 ここでは、加工食品販売業の事例を通じて、戦略コンサルティングの基本的手法である「仮説検証プロセス」の進め方を解説する。取り上げるのは架空の事例であり、第2回で紹介した全体戦略と部分戦略でいえば後者の事例に当たる。内容も読みやすさに配慮して実際の戦略プロジェクトよりも大幅に簡略化し、かつ実感を持っていただくことを意図して、現場改善をテーマとする身近な題材を選んだ。しかしながら、戦略立案プロジェクトの大枠はこの手順に沿って進めるものであり、この記事を通じて戦略コンサルティングという仕事の一端を理解していただければ幸いである。

1. プロジェクトの概要

1-1.惣菜屋X社

 今回ご紹介する加工食品販売業X社は、比較的高単価の惣菜を販売する老舗企業であり、昔から利用しているコアなファンを中心とした顧客基盤を持ち成長してきた。しかしながら、近年、定常的な売り上げの減少と利益率の低下に悩んでおり、そういった中、弊社はX社より売り上げ減少の防衛策と高利益体質への転換のための戦略立案を依頼された。

1-2.X社の課題を3Cで整理する

 当初X社では、売り上げ減少や利益低下を引き起こしている原因として、「自社商品開発力の低下」「在庫管理の甘さによる廃棄の増加」「競合の商品力の向上」「既存顧客の購買単価の低下」など、多数の課題を認識していた。

 こういった場合に課題を整理する手法として、3Cと呼ばれる枠組み(フレームワークという)がある。3Cとは自社(Company)、競合(Competitor)、顧客(Customer)の3つの頭文字を取ったもので、これらの切り口から課題を整理する手法である。今回X社自身が洗い出した課題をこのフレームワークに沿ってまとめると図1のようになる。

ALT 図1 3CによるX社の課題整理

 実際にこれらの課題に取り組んでいくのだが、課題全体を網羅的にカバーするのか、特定の課題に的を絞るのか、また絞り込む場合には具体的にどの課題を対象とするかについて、早い段階で合意しておく必要がある。今回の場合、「自社」に関する課題はX社自身ですでに取り組み始めていた。

 また、既存のコアな固定客でビジネスを支えているX社としては、「競合」よりもまずは「顧客」の課題から取り組みたいという意向があった。そのため、本プロジェクトでは、「顧客」の課題を優先し、中でも売り上げ低下の直接の原因となっている「既存顧客の購買単価の低下」を重点的に取り組むことをX社と合意した。

2. 仮説の立案

2-1.「当たり」(仮説)を付けて検証する

 戦略コンサルティングのプロジェクトでは、初めに「当たり」を付ける。「当たり」とは、第2回で紹介したとおり「この辺に問題がありそうだ」という「仮説を立案すること」である。今回の課題である「既存顧客の購買単価の低下」に関しても、「全顧客一様にX社から離れているのか」、それとも「特定の顧客だけが離れているのか」、また「全商品一様に買わなくなっているのか」、それとも「特定の商品だけなのか」などなど、さまざまな状況が考えられる。そのため短期間で効率良く戦略を立案するためには網羅的に検討するのではなく、プロジェクト開始直後の段階で課題の「当たり」を付け、絞り込んで検証していく必要があるのである。

 この「当たり」を付けて絞り込み、それを検証して課題を特定する過程を「仮説検証」と呼ぶ。多くの場合、仮説検証には販売実績や顧客購買実績などの定量データと、インタビューやアンケートなどの定性データの両方を用いる。

2-2.まずは社内の声から「当たり」を付ける

 まず「既存顧客の購買単価の低下」という課題を具体的な打ち手につなげるために、「誰が」買わなくなっているのか、「何を」買わなくなっているのかなど、状況を正確に把握する必要がある。「既存顧客」といっても、X社は1店舗当たり1000人を超える顧客を抱えており、これらの顧客全員を1人1人調べていくのは現実的でない。そこでまずはX社で直接顧客との接点を持つ現場の声を聞くことから始めた。現場トップである営業部門長および、各店舗の店長に対して「どういったお客さまの売り上げが落ち込んでいるのか」「どういった商品の売り上げが落ちているのか」についてインタビューしたところ、以下のようなコメントを得られた。

  • 「ウチは、昔から毎日ご利用していただき、1回に何千円も買ってくれるような上得意のお客さまに支えられている。しかしながら、最近は上得意のお客さまの購買量が下がっているように思える」(営業部長)
  • 「昔からウチで惣菜を買ってくれていた上得意のお客さまが、最近は別の店に流れているようだ。近くの専門店でハムやソーセージなどの加工肉を買ってからウチに来ているように思える。値段的にはあっちの方が高いはずなのに」(新宿店店長)
  • 「商品別に見ると全商品で売り上げが落ちているのではなく、特に加工肉や揚げ物の売り上げが落ちているように思える」(渋谷店店長)

 結果、現場のコメントを集めた限りでは、以下のような考えが大半であった。

  • 「上得意客」と呼ばれている、来店頻度が高く購買単価も高い顧客層がX社から離れていっているのではないか
  • その「上得意客」は、加工肉や揚げ物など、特定のカテゴリの商品について競合の商品に乗り換えているのではないか。ただしそれは価格以外の要素に原因があるのではないか

 そしてこれらの考えが本当に正しいのかを検証するために、上得意層への直接インタビューをセッティングした。

2-3.定量的なデータからも「当たり」をつける

 まずは社内の現場のコメントから「当たり」を付けたが、それだけではただ単に現場の意見を吸い上げたにすぎない。現場の意見は正しい場合も多いが、ある種の思い込みの強さからポイントを外しているケースも少なくない。そこで定性的なコメントと併せて、定量的なデータも分析し「当たり」を付けていった。具体的には、顧客データを基に顧客を年間購入額別に層別し、どの辺に問題がありそうかを検討した。

 X社が持つポイントカード(購入によりポイントがたまり、割引などが受けられる。このカードを作っている顧客の売り上げでX社の90%近い売り上げを占める)のデータを基に、新宿店顧客の年間購入額上位から累積の人数と、累積売り上げをプロットしたグラフを作成した(図2)。このグラフは80対20の法則(売り上げの80%は20%の人が生み出しているなど、たいていのことは重要な20%で決まるというもの)を確認する際に利用される。ちなみに今回はX社では上位20%の顧客の売り上げが55%にとどまっており、さほど上位顧客の寡占度が大きいとはいえない状況であった。

ALT 図2 顧客数と累積売り上げの関係

 新宿店店長インタビューの際に「大体200人(新宿店顧客の20%に当たる)ぐらいのお客さまは顔と名前が一致しており、この人たちが上得意客である」というコメントがあり、それを基に上位20%をA顧客と定義した。以下、顧客を売り上げ上位から人数比率で20%ずつ、5分割し、それぞれB顧客、C顧客、……、E顧客とした。

 ちなみにこのように顧客を購買額順に並べて、分割して分析するのは一般的によく行われる手法であり、3分割して分析するのをABC分析、10分割して分析するのはデシル分析と呼ばれる。さらに層別した各顧客層の購買額を前年の値と比較し、前年からの購買額の減少度合いを調べた。その結果、B、C顧客が一番大きく、ほかのA、D、E層については、こちらはあまり変化が少ないことが分かった(図3)。

ALT 図3 顧客層別の年間購買額比較

 ここから読み取れるのは、売り上げ減少はBC層の顧客離れが主要因であると考えられることである。これは、X社の現場が感じている「上得意客(A顧客層)が離れている」というよりも、むしろBC層が離れているのがデータから得られた事実であった。他店のデータについても調べたところ、このBC層の顧客離れは、新宿店に限らない全社的な傾向であることが分かった。

 同様に、ポイントカード顧客のデータから、商品カテゴリ別の売り上げ数位を調査したところ、揚げ物や加工肉の売り上げが減少していることを確認した。そこで、インタビューのコメントと、これらのデータの分析から、以下のような「当たり」、すなわち初期仮説を策定した。短い期間で効率的に課題を解決するためには、最初の「当たり」を早いタイミングで決定する必要がある。今回もここまでに要した期間は数日間であった。

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