さて、仮説を立案した後は、その仮説の正しさの検証である。しかし、そもそもなぜ仮説検証が必要なのだろうか。
もし仮説(2)の「価格ではなく、品質や品質表示に原因がある」という仮説が違っていたらどうだろう? もし大半の顧客がX社の商品の価格が高いという理由でほかの惣菜店から購入しているのであれば、「値下げする」といった打ち手を打たなければならなくなる。
仮説の正否により、打ち手は変わる。間違った仮説を基に不適切な打ち手を取ってしまえば、結果として無駄に資金を投入したり、必要以上に人員を削減してしまうなど大きな損失を被る可能性がある。そのため、仮説を十分に検証し、正しさを確認する必要がある。
仮説の検証においても、定量的データのさらなる分析や、顧客の生の声による定性データを利用する。特に顧客の生の声はクライアントに訴求しやすく、現場の説得材料にできることも多い。
最初に、顧客に直接インタビューを行うことにより仮説の検証を行った。まずA顧客層の中から、十数名を抽出し、直接インタビューを行った。
その結果以下のようなコメントが得られた。
インタビューを行った顧客のほとんどから同様のコメントが得られ、これによりX社の現場が持っていた「上得意客のX社離れ」という考えは、外れている可能性が高いことが分かった。
A顧客層へのインタビューと並行して、BC顧客の声も聞いた。具体的には、30名程度の顧客を年齢、地域等が分散するように抽出し、「以前と比べX社の利用が変わったか」「また変わったのならどのように変わったか」について質問し、仮説(2)の「品質や品質表示の原因による売り上げ低下」について検証した。その結果以下のようなコメントが得られた。
このインタビュー全体の傾向として、顧客は何らかのこだわりを持って購入店を使い分けており、価格が安いという理由だけで店を選んでいるわけではないというコメントが数多く得られた。
これにより、仮説(2)の「揚げ物、加工肉の品質や品質表示による売り上げ低下」がある程度正しいことが分かった。ここで、特にインタビューで得られたX社の商品に対する課題をまとめると、次のようになる。
ちなみに上記3つに加えて販売チャネル(Place)を加えたものがマーケティングの4Pと呼ばれ、先ほどの3Cと同様に商品やサービスの上の問題点を洗い出すときに使われるフレームワークである。サービスや商品の販売上の問題点を上記の4Pで考えれば、ヌケモレなく重複なく検討できる、定番のフレームワークである。
ここまでで、ある程度仮説(1)、(2)について正しいことが分かってきた。しかし定性データだけでは不十分であり、定量データを使ってさらに検証する必要がある。
定性データに加えさらに定量データの分析により、仮説(1)、(2)の検証を試みた。まず、先ほどの売り上げデータ(前ページ図3)をさらに経年で分析してみると、過去5年でA顧客はほとんど購買額が変化しないのに、B、C顧客は売り上げが定常的に低下してきたことが分かった。
さらに、このA顧客と、B、C顧客との購買状況をカテゴリ別の売り上げで比較してみる。
A顧客とB、C顧客では、特に揚げ物、加工肉のカテゴリの差が大きく出ていることが分かる(図4)。ちなみにこれを経年で見ても、2年ほど前からこのB、C層の顧客は加工肉、カテゴリの売り上げが減少していることが分かった。
これらのデータと先ほどのコメントから仮説(1)、(2)ともにほぼ正しいことが検証できた。次は具体的な打ち手の検討である。
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