業務の目的を果たす手順を可視化するプロセス上流モデリング研修(3)

» 2005年08月31日 12時00分 公開
[竹内正治,株式会社豆蔵 BS事業部]

 この連載では、架空の会社である株式会社エム・ゼットが、事業拡大を目指して、新たに新車販売事業を推進することになったというビジネスシナリオに沿ってモデリングを解説しています。前回(「利害関係者の目的を可視化するプロセス」)は、利害関係者を洗い出してその目的を可視化するプロセスについて解説しました。プロジェクトコンテキスト図と業務コンテキスト図、目的構造図の具体例を示しましたので、適宜、参照してください。

 今回は、業務の目的を果たす手順を可視化するプロセスについて解説します。皆さんは、このシナリオの主人公である、アーキテクトの秋田さんになったつもりで、実際に手を動かしてモデルを作成しながら、モデリングのプロセスを仮想体験してください。

業務の概要を可視化

 今回の会議には、プロジェクトメンバー全員が集まっています。プロジェクトメンバーは、プロジェクト管理者の田上さん、アーキテクトの秋田さん、業務分析者の神戸さん、コンサルの豆山さんです。

田上 今回は、業務の概要を全員で理解することが目的です。

 田上さんは、ホワイトボードに今回の目的とアジェンダを書く。そして、全員に一言ずつ発言を促して、アジェンダを確認する(*注)。


*注:会議の導入部は重要です。しかし、今回は割愛して、別の機会に取り上げます。


田上 それでは、まずは前回作成した業務コンテキスト図を共有しましょう。秋田さん、お願いします。

 秋田さんは、全員が見える位置にある壁に前回作成した業務コンテキスト図を張り出す。

ALT 図1 (前回作成した)業務コンテキスト図

田上 業務の目的は「新車を仕入れる」ことで、直接の関係者は「販売担当」「発注担当」「ディーラー」「入荷担当」でした。

  秋田さんは、プロジェクターで投影しているモデリングツールを操作しながら「販売担当」「発注担当」「ディーラー」「入荷担当」のレーンを持つアクティビティ図を作成する。

田上 それでは神戸さん、新車を仕入れるために必要な作業の手順を説明してください。

神戸 はい。最初の作業は、販売担当が新車を受注することです。

 秋田さん、販売担当のレーンに開始状態と「新車を受注する」アクティビティを作成して矢印で結ぶ。

神戸 そうすると、発注担当に連絡が来て、発注担当はディーラーに新車を注文します。

 秋田さん、発注担当のレーンに「新車を注文する」アクティビティ、ディーラーのレーンに「新車を受注する」アクティビティを作成し、販売担当の「新車を受注する」アクティビティから発注担当のアクティビティ、ディーラーのアクティビティまで順番に矢印で結ぶ。

神戸 ディーラーは、新車を受注すると、発注担当に出荷予定を報告します。出荷予定の報告を受けた発注担当は、販売担当に入荷予定を報告します。

 秋田さん、発注担当のレーンに「入荷予定を報告する」アクティビティを作成して、ディーラーのアクティビティと矢印で結ぶ。

神戸 販売担当は、発注担当から入荷予定の報告を受けると、お客さまに納車予定を報告します。

 秋田さん、販売担当のレーンに「納車予定を報告する」アクティビティを作成して、発注担当のアクティビティと矢印で結ぶ。

神戸 お客さまは、販売担当から納車予定の連絡を受けると、必要な書類を準備します。

田上 ちょっと待ってください。それは、販売業務の話になりますね。(張り出した業務コンテキスト図を指差しながら)今回は、販売業務については踏み込みませんし、お客さまは関係者として取り上げていません。よろしいですか。

神戸 はい、分かりました。では、発注作業は終わりで、次は入荷作業です。ディーラーが新車を出荷すると、入荷担当が新車を受領します。

 秋田さん、ディーラーのレーンに「新車を出荷する」アクティビティ、入荷担当のレーンに「新車を受領する」アクティビティを作成し、販売担当の「納車予定を報告する」アクティビティから順番に矢印で結ぶ。

神戸 受領時に検査を行って特に問題がなければ販売担当に入荷を報告します。そして、入荷報告を受けた販売担当がお客さまに新車を納車して、一連の業務が終了です。

 秋田さん、入荷担当のレーンに「入荷を報告する」アクティビティ、販売担当のレーンに「新車を納車する」アクティビティと終了状態を作成し、入荷担当の「新車を受領する」アクティビティから順番に矢印で結ぶ。

業務フロー図

 秋田さんが作成した業務フロー図を図2に示します。

ALT 図2 業務フロー図の具体例

 皆さんも、秋田さんになったつもりで、自分の身近な仕事について、業務フロー図を作成してください。ここでは、業務フロー図の要点をまとめておきます。

  • 業務の最も基本的な作業の一連の流れとして概要を表現する
  • 業務の最も基本的な作業を「○○を××する」という形式を含む一言で表現する
  • 業務コンテキスト図の範囲内で考える

業務の状態を可視化

田上 次は、視点を変えて、業務における重要な状態について考えましょう。

 秋田さん、モデリングツールを操作しながら真っ白な状態遷移図を作成する。

神戸 業務上の重要な状態としては「受注済」から「注文済」「出荷予定済」「出荷済」「受領済」があります。

 秋田さん、それぞれの状態と開始状態、終了状態を作成する。

田上 それらの状態は、先ほどの業務フローに沿って遷移する状態ですね。

神戸 はい。基本的に「受注済」から「注文済」「出荷予定済」「出荷済」「受領済」へ至ります。

 秋田さん、開始状態から順番にそれらを終了状態まで矢印で結ぶ。

田上 それぞれの遷移を起こす出来事は、名詞で表現すると何でしょうか。

神戸 それぞれ「注文」「出荷予定」「出荷」「受領」「入荷報告」です。

 秋田さん、矢印のそばに、それぞれの出来事を書く。

田上 例えば注文の取消のように、状態に依存するような業務規則はありますか。

神戸 注文取消は、ディーラーが受注した時点で行えなくなります。つまり「出荷予定済」状態以降は注文を取り消せません。注文を取り消せるのは、出荷未定状態である「受注済」と「注文済」の状態までです。

 秋田さん、新しく「出荷未定」状態を作成して、その中に「受注済」と「注文済」を移動し、出荷未定状態から終了状態まで矢印で結んで、矢印のそばに「注文取消」と書く。

神戸 そうですね。それと、出荷してから受領するまでに事故があれば、また最初の状態に戻ります。

 秋田さん、「出荷済」から「受注済」まで矢印で結んで、矢印のそばに「事故」と書く。

状態遷移図

 秋田さんが作成した状態遷移図を図3に示します。

ALT 図3 状態遷移図の具体例

 皆さんも、実際に手を動かして、状態遷移図を作成してください。例によって、状態遷移図の要点をまとめておきます。

  • 業務における重要な状態を表現する
  • 業務の状態を遷移させる出来事を表現する
  • 業務上の規則(状態の遷移可能性)を明確にする

業務における情報の流れを可視化

田上 それでは、先ほど作成した業務フロー図を基に、今度は、情報の流れについて考えましょう。

 秋田さん、モデリングツールで業務情報フロー図を作成して、業務フロー図からアクティビティをコピーして張り付ける。

神戸 販売担当が新車を受注すると、受注情報が販売担当から発注担当に流れます。

 秋田さん、業務情報フロー図上で「受注」オブジェクトを作成する。そして、販売担当の「新車を受注する」アクティビティから「受注」オブジェクトまで破線の矢印で結ぶ。同様に「受注」オブジェクトから発注担当の「新車を注文する」アクティビティまでを破線の矢印で結ぶ。

神戸 その後は、同様に注文情報、出荷予定情報、入荷予定情報が流れ、納車予定が報告されます。

 秋田さん、同様に「注文」と「出荷予定」「入荷予定」「納車予定」のオブジェクトフローを書く。

神戸 「新車を出荷する」アクティビティでは「新車を受注する」アクティビティで出力された「出荷予定」が入力になります。

 秋田さん、先ほどの「出荷予定」から「新車を受注する」アクティビティまで破線の矢印で結ぶ。

神戸 その後は、出荷された新車の情報が納車まで流れていきます。

 秋田さん、新しく「新車」オブジェクトを作成して「新車を出荷する」アクティビティから破線の矢印で結び、「新車」オブジェクトから「新車を受領する」アクティビティと「入荷を報告する」アクティビティ、「新車を納車する」アクティビティそれぞれに向けて破線の矢印で結ぶ。

豆山 それらの新車オブジェクトは状態が変化していると考えられますので、状態名を記述して別々の新車オブジェクトにした方が分かりやすくなります。

 秋田さん、新しく「新車」オブジェクトを2つ作成し、それぞれの新車オブジェクトの状態に「出荷済」「受領済」「納車済」と書いて、オブジェクトフローを書き直した。

一同 そうですね。こちらの方が分かりやすいですね。

業務情報フロー図

 秋田さんが作成した業務情報フロー図を図4に示します。

ALT 図4 業務情報フロー図の具体例

 皆さんも、先ほど作成した業務フロー図に情報フローを追加してください。業務情報フロー図の要点をまとめておきます。

  • 作業の入出力情報を明確にする
  • 業務における情報の流れを明確にする
  • 「××された○○」と「××される前の○○」を考慮する

 いかがでしたか。今回は、業務の目的を果たす手順を可視化するプロセスについて、解説してきました。 次回は、業務を説明するために必要な概念、すなわち、業務の情報構造を可視化するプロセスについて取り上げます。

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