前回は、ITSS導入の意義と職種定義の必要性、そして現実の導入には企業間格差があり、それは人的組織の成熟度の差にあることを説明した。今回は、人的組織の成熟度のモデルとして「People CMM」の概要を説明したうえで、人的組織の成熟度に合わせたITSS導入の詳細を説明する。
People CMMは、カーネギーメロン大学がソフトウェア開発プロセスの成熟度モデルとして開発したCMMを人的組織力の管理に適用したものであり、Ver1.0が1995年に、Ver2.0が2001年にリリースされている。ソフトウェアCMMが開発されてから、CMMを多方面に活用しようという動きから、さまざまなCMMが開発された。
しかし、多くのCMMの中には、重複部分も多く統合化すべきであるという流れになり、CMMI(Capability Maturity Model Integration)に統合化されたが、多くのCMMがプロセスを対象としているのに対して、People CMMは組織を対象としているため、統合化の対象にはなっていない。
People CMMは、組織の人的能力を「永続する人的組織の実力」に改善することを目的としている。この中では、人的組織の実力は、組織の事業活動を実行するための知識・スキル・プロセス能力によって示されるとし、これらを人的組織のコンピテンシと呼んでいる。個人に帰属する知識・スキルだけではなく、組織に帰属するプロセス能力を合わせて、人的組織の力として定義しているところが特徴的である。
構造はほかのCMMと同様に、5段階の成熟度レベルに対して、プロセスエリア、ゴールとゴールを達成するためのプラクティスを定義している(図4参照)。
すでに、IBMやボーイング、シティバンクなどの米国大手企業やソフトウェアCMMの導入に積極的なインドのIT企業などで導入されており、インド最大のIT企業であるタタ・コンサルタンシー・サービシズは、ソフトウェアCMMでレベル5、People CMMでレベル3の認定を得ている。
People CMMの概要を知るために、成熟度レベルとプロセスエリアを見てみることにする(図5参照)。
People CMMは米国の大学で策定されたものであり、米国の人事制度である職務制度を基盤として開発されているため、日本企業に適用する場合には注意が必要である。
レベル2の段階においても、すでに職務定義されていることが前提になっており、職務定義に合わせた要員配置がなされ、報酬が支払われていることはあえて記述されていない。しかし、多くの日本企業では、職能制度の下で職務を決めずに募集・採用が行われ、職務ではなく職務遂行能力に基づく等級分けがなされ、報酬が支払われている。そのため、日本企業でレベル2をクリアするためには、まず、職種・レベルの定義を行う必要がある。
また、レベル3のプロセスエリアに挙げられているキャリア開発は、職種・レベルを定義し、職種間の関連を示した日本企業のいうキャリアパス構築ではなく、企業の事業戦略や事業目標に合わせたコンピテンシ開発をしたうえでのコンピテンシベースのキャリアを開発するための方法を策定することである。筆者のいう人財開発戦略立案に近いものである。
日本企業への適用する場合の考慮点を加味したうえで、人財開発という側面からPeople CMMを見ると次のようになる(図6参照)。
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