AIエージェントが多数動き回る企業の業務システムに向けて、Salesforceが新たなソリューションを打ち出した。そのソリューションの狙いを考察すると、そこには同社の深謀遠慮があるようだ。
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人に代わって業務を自律的にこなすAIエージェントが多数動き回る企業の業務システムは、これからどのような姿になるのか。これまでCRM(顧客情報管理)を中心とした業務分野のアプリケーション、およびAIエージェントを提供してきたSalesforceがこのほど、その方向性を示した新たなソリューションを打ち出した。「Headless 360」と呼ぶそのソリューションは、「AIエージェント時代のオープンシステムを実現する“道具立て”」というのが、筆者の見立てだ。
Salesforceの狙いはどこにあるのか。普及拡大へのカギは何か。新ソリューションの概要を紹介した上で考察したい。
「Headless 360はSalesforceにとって非常に大きな発表だ」
米Salesforceの日本法人セールスフォース・ジャパンの三戸篤氏(専務執行役員 製品事業統括本部 事業統括本部長)は、同社が2026年5月27日に開いた新ソリューションのHeadless 360の記者説明会で、こう切り出した。
「Salesforceは創業から27年間の歴史において、常に『新しいカタチで顧客とつながる』というミッションを具現化するために、その時代に合った技術を活用しながらイノベーションを提供してきた。2024年には『Agentforce 360』というAIエージェントのプラットフォームを業界に先駆けて発表した。これまで39カ国の2万5000社を超えるお客さまに採用されている」
同氏は図1を示しながらこう述べ、次のように続けた。
「そのAgentforce 360が実現する『エージェンティックエンタープライズ』において、あらゆる業種業態のお客さま、さらにはそれぞれの組織に入り込んでさまざまな業務をこなすための新たなソリューションとして投入したのが、Headless 360だ」
エージェンティックエンタープライズとは「人とAIエージェントが協働し、人の可能性を拡大する新しい働き方」のことだ。同社はこれを実現すべきビジョンとして掲げている。
Salesforceの経営トップであるマーク・ベニオフ氏(会長 兼 CEO)は、米国本社が2026年4月にHeadless 360を発表した際に、自身のSNSでメッセージを発信した(図2)。
このベニオフ氏のメッセージを踏まえた上で、三戸氏がHeadless 360について次のように説明した。
「Headless 360はSalesforceが提供する全てのアセットに対し、外部のアプリケーションにおけるユーザーインターフェイス(以下、UI)やAIエージェントが直接アクセスできるように、そのためのAPIやMCP(Model Context Protocol)、CLI(Command Line Interface)といった接続環境を公開するものだ。これまではWebブラウザ経由でやりとりされていたものを、Headless 360によってあらゆる外部のUIやAIエージェントに解放して、外部から直接Salesforceのアセットを自由に活用できるようになる」
ちなみにSalesforceのアセットとは、CRMアプリケーションによって蓄積されたデータだけではない。アプリケーションに存在している業務のロジックやフロー、セキュリティやガバナンス、AIエージェント、「Slack」といった製品、サービス、そしてそれらのナレッジも指す。
では、Headless 360はこれまでSalesforceが推進してきたエージェンティックエンタープライズ・アーキテクチャにおいて、どのような位置付けになるのか。
エージェンティックエンタープライズ・アーキテクチャは、コンテキスト供給のためのシステム、業務のためのシステム、AIエージェントのためのシステム、エンゲージメントのためのシステムといった4つのレイヤーから構成されている(図3)。
三戸氏が図1で示したように「Agentforce 360の次に位置付けられるソリューション」となれば、図3において新しいレイヤーができたり、どこかのレイヤーが新しく入れ替わったりするのか。そうではなく、これまでのアーキテクチャの構図は何も変わらない。
それでは、Headless 360とは具体的にどういうものか。「Salesforceが提供する全てのアセットに対し、外部のアプリケーションにおけるUIやAIエージェントが直接アクセスできるように、そのためのAPIやMCP、CLIといった接続環境を公開するもの」との三戸氏の先述の説明を図示したのが、図4だ。
同氏によると「現時点でMCPに関するツールは60以上、APIは4000以上、CLIは220以上を用意している。エージェンティックエンタープライズ・アーキテクチャにおける全てのレイヤーにおいて、これまでWebブラウザでやり取りされていたSalesforceのアセットを外部のUIやAIエージェントから直接アクセスできるようになる」とのことだ。
Headless 360のキャッチフレーズは、「One platform. Anywhere humans & agents work.」だ(図5)。
三戸氏は、「従来のWebブラウザによるUIから、外部のさまざまなAIエージェントがSalesforceのアセットに直接アクセスして利用するようになる。これにより、人とAIエージェントの協働レベルがますます深くなり、エージェンティックエンタープライズが進化していくと確信している」と力を込めた。
以上が、Headless 360の概要だ。三戸氏による説明では、Headless 360のポイントについて重ねて述べるところもあった。そこがまさしく「勘所」なので強調するつもりで本稿にも重ねて記した。
Headless 360という名称は、Headlessに「特定の入り口でなく」、360に「Salesforceの全てのアセットにアクセス可能」という意味を込めたとみられる。特に、今後は有力な生成AIから進化した「パーソナルエージェント」が「入り口」を制する可能性もある。それさえも「数あるUIの一つ」にしてしまおうという意図がありそうだ。
さて、同社の狙いはどこにあるのか。大義は、三戸氏が述べたように「エージェンティックエンタープライズの進化」だろう。
それとともに、筆者はHeadless 360にSalesforceの深謀遠慮を強く感じる。これはどういうことかをここから説明したい。冒頭で、Headless 360を「AIエージェント時代のオープンシステムを実現する道具立て」と記した。今後、企業の業務システムにおいてAIエージェントの利用が進むと、さまざまな技術や製品、サービスが混在するようになってオープンなシステムにならざるを得なくなる。従って、そんなオープンシステムに柔軟に対応できる道具立てをそろえているソリューションが、ユーザーに重宝されるようになるはずだ。
一方で、オープンシステムとはいえ、マルチAIエージェントの管理プラットフォームとしての勢力争いがこれから本格化するだろう。Headless 360もキャッチフレーズで「One platform」を掲げているように、この勢力争いを優位に進めたいという意図があるのは明白だ。競合他社がこれからツールや機能といった“道具立て”を整備し、ソリューションとしてどのように仕立てるか――。その点では今のところ、Salesforceが先頭を走っているといえるだろう。
では、普及拡大のカギは何か。Headless 360のようなソリューションは、特に日本においてはITサービスベンダーをはじめとしたパートナー企業がどれだけ担ぐかにかかっている。逆に、ITサービスベンダーからすると、“道具立て”が整備されていれば優先的に扱おうという形になるのは自然な流れだ。ただ、道具の内容に特別なものがあるわけではない。競合他社が“道具立て”をソリューションとして整備すれば、パートナーエコシステムとしても激しい勢力争いになるだろう。
以上が筆者の見立てだ。Salesforceにはこうした勢力争いが激しくなる近い将来が見えているのだろう。今の同社のビジネススピードには、攻めへの強烈な勢いと、スピードを緩めてはならないという危機意識の両方を感じる次第である。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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