トレーサビリティ(とれーさびりてぃ)情報システム用語事典

traceability / トレサビリティ / 追跡可能性 / 履歴追跡

» 2005年11月26日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 幅広い分野で使われる語で、原義は“トレース(追跡)ができること”——すなわち、あるものの来歴や行方、所在、構成や内容、変化や変更の履歴などを後から確認できることをいう。

 一般には工業製品や食品、医薬品などの商品・製品や部品、素材などを個別(個体)ないしはロットごとに識別して、調達・加工・生産・流通・販売・廃棄などにまたがって履歴情報を参照できるようにすること、またはそれを実現する制度やシステムをいう。

 この言葉を有名にしたのが、2003年に農林水産省が導入した「牛肉のトレーサビリティ」。国内で生まれたすべての牛を個体識別し、牛肉についても業者に仕入れや販売の記録を義務付ける制度である。農林水産省では食の安全を確保するため、牛以外の食品についても取り組みを行っている(食品トレーサビリティ)。医療の分野でも、厚生労働省が2003年から、血液製剤やワクチンなどの生物由来製品を取り扱う事業者、医療関係者などにトレーサビリティ管理を義務付けるようになっている。

生産・処理・加工・流通・販売のフードチェーンの各段階で、食品とその情報を追跡し、遡及できること
食品トレーサビリティガイドライン(農林水産省策定)の定義

 工業製品のトレーサビリティ(製品トレーサビリティ)の歴史は古く、例えば戦前の日本で生まれた製番/号機管理などはトレーサビリティの概念を持つものといえる。製造業では不良品・故障の原因追究などの品質管理、リコール対応などの安全管理といった目的で、製品や部品の個別管理への努力が行われてきた。近年ではSCMの広がりやグリーン調達、リサイクル、環境規制による製品回収などに迅速に対応するために必須な仕組みになりつつある。また製造工程だけではなく、PLMPDMなどによって設計情報の変更履歴などを確認できる設計トレーサビリティの概念も登場している。

考慮の対象となっているものの履歴、適用又は所在を追跡できること
ISO 9000(JIS Q 9000)の用語の定義

 物流業界においても、荷貨物を確実に受荷主に届けるために欠かせない概念で、大手運輸会社などが整備・公開している貨物追跡システムなどはこれを具現化したものだといえよう(ただし、どちらかといえばトラッキング=荷物がいまどこにあるかが重視されている)。

 またモノではないが、IT業界のシステム開発などでも要求定義書や仕様書、変更履歴、テストや障害の記録、ソースコード(バージョン)、実装などを相互にひも付け、ある変更や欠陥がどの成果物にどう影響しているかを追跡できることをいう。CMMIでも、要件と成果物、実装、検証などとの間での双方向のトレーサビリティを求めている。

 トレーサビリティの基本的な要件は、1.商品・製品などの管理単位を明確にし、それを個別識別して“トラッキング(追跡)”できること、2.その記録をさかのぼって“トレースバック(遡及)”できることである。

 物理的な実体があるモノの個別識別にはバーコードなどが使われてきたが、最近ではICタグ(RFID)が期待されている。社会基盤としてのトレーサビリティを実現するには、サプライチェーンやフードチェーン全体が一貫した仕組みでつながっていなければならない。そのためには技術と制度両面での統一化、標準化が求められる。こうしたトレーサビリティの構築は、複雑な流通経路を通って商品を手にする最終消費者に対して情報開示を積極的に行うことであり、顧客に自社の商品を選んでもらうための重要な施策である。

 なお計測の分野では、「計量器が一連の比較校正を介して、標準に関連付けられていること」という意味で使われる(計測のトレーサビリティ)。日本では計量法に基づいて制度化されている。

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