PMノウハウのえぐり出し、体系化、拡充会議を体験有能プロジェクトマネージャ勉強会より(2)(2/2 ページ)

» 2005年12月01日 12時00分 公開
[生井俊,@IT]
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ノウハウを共有する「コンセプト教育」と「ノウハウ拡充会議」

 ノウハウの共有方法には「コンセプト教育」と「ノウハウ拡充会議」とがあります。

 まずコンセプト教育とは、PMノウハウを持つ指導者がはしの上げ下ろしではなく、「コンセプト」を教えます。そのことで、育成対象者はコンセプトの存在とパワーを認識し、自分でこれを実践しようとします。この教育を行うことで、類似の異なる状況でも応用できるようになります。

Speaker

株式会社アクト・コンサルティング

取締役 経営コンサルタント

野間 彰(のま あきら)氏

製造業、情報サービス業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新にかかわるコンサルティングを行っている。最近はプロジェクトマネジメント、コンサルティング、研究開発、営業などの分野で、有能者のノウハウを組織的に共有・拡充する仕組み構築に携わっている。



 もう1つのノウハウ拡充会議は、PMノウハウの交換方法です。有能PM同士がお互いのPMノウハウを交換し合うことで、相互に持っているPMノウハウを何倍にも増やすことができます。この会議では、参加者がPMノウハウの実践事例を紹介し、ほかの参加者がコンセプトのフレームワークを使って意味解釈することで、PMノウハウの共有を行います。参加者のPMノウハウ創造力が十分でない、ノウハウ交換の経験が乏しい間は、ファシリテーターを置き、VLを行うことでPMノウハウの交換ができます。

 では、早速VLの手順を参考にしながら、ノウハウ拡充会議を実践してみましょう。野間さんがファシリテーターを担当します。

実践、ノウハウ拡充会議

野間氏(ファシリテーター) 少し過去を振り返ってください。皆さんには、PMをうまくするための「気付き」があると思います。これを4象限へ落としていきます。では、参加者の気付きを聞いてみたいと思います。

会場 協力会社との付き合い方ですが、プロジェクトを成功させるためにも「経営状況までコミットするような関係」を心掛けています。

野間氏 もう少し、具体的に。

会場 100人規模の開発案件に、30人規模の小さな協力会社の社員の大半を投入している場合ですね。プロジェクト上の問題やクリティカルパスはその小さい協力会社にあり、その会社がコケると全体に影響してしまうようなケースです。

 30人規模の会社であれば、1対1で社長の悩みが聞ける関係になれます。多いのは、資金繰りの問題についてです。スケジュールはたいてい遅れますから、その会社への影響はありますよね。

野間氏 それは一般PMは勘案しないものなのですか。

会場 2000〜3000万円程度の小さな案件では、一般的ではありませんね。

野間氏 なぜ一般的でないことをやるのですか。

会場 プロジェクトの中でその会社が占める役割、ウェイトが大きいからですね。

野間氏 何がきっかけだったのですか。過去にそういった原体験があったのですか。

会場 実際に倒れた、ということはないですね。プロジェクト全体を見渡し、何が問題になるかを考えたときに、外注先のスケジュールが影響すると考えたことはあります。

野間氏 一般のPMが気にしないような、ほかに気にしていることは。

会場 協力会社の品質関係のノウハウは気にします。

野間氏 いま、なぜそうお聞きしたかですが、ATACのT(Thought)の仮説で、一般PMが気にしない範囲をリスクコントロールの範疇(はんちゅう)にしている可能性があるなと考えたわけです。まだ、仮説ができていないのは、一般PMと有能PMとの差異が何によって生じているかです。例えば、それを突き詰めると、資金繰りの話であって、たまたま偶発的に資金繰りを気にするようになったのであれば、それ以上掘りようがない。そうではなく、一般のPMがするリスクコントロールの範囲と、あなたがおっしゃっている範囲が違っていて、そこにノウハウの本質があるのではないかと仮説しました。

会場 同規模の協力会社の経営者から、異口同音にそういうことを聞くのが原体験にあります。協力会社を冷たく切るだけでは、解決しないわけでして。

野間氏 少しお知恵拝借して、4象限に展開したいと思います。有能PMは、重要な仕事をしてらっしゃる20〜30人規模の協力会社でも、コケたりしたら大変だから、資金繰りの支援まで含めてきちんとやる。だからコケないし、プロジェクトがうまくいく、ということは分かりました。これは、4象限の「第3象限」と「第4象限」です。それに対して、一般的なPMは、どんなことをしていて、それによってどんなロスがあるのか、つまり「第1象限」「第2象限」がまだ分かりません。一般PMはどう考えていているのでしょうか。

会場 小さな案件なら、会社がひっくり返ることがないと考えているのではないでしょうか。

野間氏 PMが小さな会社の存亡の影響を握っている。そのことを知っている人と知らない人とがいるのですか。

会場 大規模プロジェクトのPMなら、認識していると理解しています。しかし一般的には資材部門が見てますから、あまり理解していないPMもいるでしょう。

野間氏 では、4象限を完成させてみます。「第1象限」──一般のPMは、まさか1プロジェクトの資金繰りや支払いなどの判断で、協力会社がひっくり返ることにならないだろうと思っている。あるいはそんなことすら考えていない。「第2象限」──その結果、小さな協力会社の社員の多くが、プロジェクトの重要なポジションを担っている場合、支払いなどの変更時に協力会社の資金繰りなどの経営面まで考えず、結果そのような小さな会社が危機に陥る、それによってプロジェクトも問題を抱えるリスクがある。「第3象限」──有能なPMは、一PMの支払いなどの判断が小さな協力会社の経営を左右することを知っている。もしそのような会社が経営上の危機に陥ると、プロジェクトも大きな問題を抱えることを知っている。そこで、協力会社の経営が安定する配慮を欠かさない。「第4象限」──その結果、上記「第2象限」のリスクをコントロールできる。

 つまりこのノウハウのポイントは、プロジェクトという企業経営から見た場合の一部分が、規模の小さい協力会社では経営そのものである、という実態を知っているかどうかということですか。

会場 はい。

野間氏 なるほど、分かりました。ありがとうございました。本日はここまでで止めますが、これをさらに詳しく行っていくことで、ノウハウをえぐり出し体系化していくわけです。

編集部より

 勉強会の感想として「ATACサイクルについて実践があり、感覚的にも理解できた」「ヒアリングが実際に見られたので参考になった」「ノウハウ拡充会議がどういったもので、どう使っていけるのかを学んだ」といった意見が寄せられた。

 次回、12月6日(火)の第3回 有能プロジェクトマネージャ勉強会は、「PMノウハウの組織的共有の進め方検討」をテーマに、推進方法の講義およびワークショップを行う予定だ。

profile

生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。



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