トラブル発生、やはり原因は人だった……(第10話)目指せ!シスアドの達人(10)(2/4 ページ)

» 2006年03月23日 12時00分 公開
[大空ひろし,@IT]

トラブルの意外な原因は?

 幸いにも、今回は検証作業が念入りに実施されており、リリース前の検収作業もきちんと実施してあったので、その後の作業は各自が担当した個所を中心にチェックし直すことにした。本来の業務との兼務であったため、スケジュールもタイトにならざるを得なかったが、メンバーは愚痴一ついわずに検証作業を行った。そして、報告が予定されていた水曜の午後。

坂口 「みなさん、本来業務を持ちながらの確認作業、ご苦労さまでした。では始めましょう。まずインフラ面から。福山さん何か気付いた点はありましたか?」

福山 「通信関係のロスが生じることによるデータ破損などを想定して確認しましたが、問題はありませんでした。その想定に従って、リソースの使用率と、スループットも確認しましたが、こちらも大丈夫でした。セキュリティチェックも正常に動作しています。つまりセキュリティやそのほか、リスクとなるような面はありませんでした。インフラ的には、われわれが構築したシステムは信用できるものと、再確認した次第です」

坂口 「福山さん、ありがとうございました。では、次、氷室さんお願いします」

氷室 「岸谷さんから借りてきた資料を確認しました。また製造部の数字とも合わせた結果、製造と出荷量に間違いはありませんでした。しかし、岸谷さんが連絡してくれたとおり、システムで集計した以上の数が出荷されていることを確認しました」

坂口 「やはりそうですか。となると、次は松下さん谷田さんチーム」

松下 「結論から報告します。何か変なんです。新システムをリリースしてから2週間は前にも検証したとおり、まったく問題はありませんでした。そして2週間目以降も数字的には問題なかったんです。しかし、システムで計算した結果をサンドラフトに送りますよね。その要求した数字と、出荷量が確かに違うんです」

坂口 「数字が違う? 岸谷さんは、『出荷量が多い』といっていましたが」

谷田 「はい、そこで、どこから出てきた数字が違うのかを調べました。その結果、当然ですがうちの営業から出された数字が違っているのではないかってところまでは分かりました。コンピュータの集計と営業から出た数字が違うんです」

坂口 「了解しました。余分な数量が出荷されているし、コンピュータの集計と違うのですね。では次は、深田さん」

深田 「私は取扱説明書を重点的に見直しました。説明書に3文字略語や、専門用語がないかどうか、そしてまったくの初心者にとって分かりにくくないかどうか、などです。画面表示や言葉なんかも、それなりに分かりやすくなっていると思いますが、おじさんたちには少し難しいかなってところも若干ありました」

坂口 「例えば、どんなところですか?」

深田 「入力途中で、もし画面が止まってしまったら、その後、どうしたら良いかってことが、私にも分かりませんでした」

椎名 「あぁ、そうか。計算途中でもよく電話がかかってくるしな。そうなると、それが全部終わった後でないと処理に回れない、しかもパソコンの中にデータが入っていたりしたら、もうパニックになりそうだ」

松下 「私たちが再計算しながら確かめていたら、営業二課の人がね、同じようなことをいってました。電話が来るとパニくるって。その後は収拾がつかなくなるから、前なら紙に書いてあるから大方見直せるけど、忙しいときに問い合わせの電話なんかがあると、大変だって。普段は別にどうってことないけど、確かにいまはシステムに入力するから、どこまで入力したのか分からなくなってしまうことがありますね」

椎名 「なるほど、そうか。原因はその辺りかもしれないですね……」

坂口 「もし重複入力だとしたら、販売店から苦情が来ていないとおかしいですね」

椎名 「そうですね」

坂口 「氷室さんは部長への連絡をしていただけましたか?」

氷室 「はい、部長からも、大したことないかもしれないけど、最初が肝心だからきちんと調べるようにってことです」

坂口 「おおよそ予想はついてきましたが、福山さん、ログを、いまから取れますか。システムへのアクセスログです」

福山 「多少時間をいただければ取れます。すぐ取りましょう」

坂口 「じゃあ、福山さん、悪いけどログの取得をお願いします。皆さんはその間休憩してください」

 そして、2時間後。ログの取得が始まって数十分後には原因が判明した。

坂口 「皆さん、ご苦労さまです。トラブルの原因は、思わぬところ……でした」

谷田 「想像もしませんでした……。まさか途中から従来の方法に戻って仕事をしてたなんて」

深田 「一生懸命覚えようとしてくれたのに覚え切れなくて、何回も質問するのも申し訳ないなんて……」

氷室 「みんな、それなりに気を使っていてくれたんだな」

坂口 「見つけたきっかけは、岸谷さんの話と、福山さんに取ってもらったログ、そして、みんなに集約してもらった集計表、そして椎名さんと僕のにらめっこです」

椎名 「見つけたときには、思わず2人でここだ! って叫んでたな」

谷田 「驚きましたよ、いきなり大きな声で叫ぶから」

椎名 「ごめん、ごめん」

谷田 「つまりこういうことだったんですね……。新しいシステムを導入したときには、みんな一生懸命それを使ってくれようとした。でもパソコンを使っているときに、電話やら何やらに対応するためにデータを探そうとすると、もうパニックになってしまって……」

深田 「そうそう、私だってあるもん、そういうこと」

谷田 「そして、問い合わせ対応が終わると、パソコンの画面がもう違うものになっていた。そして、電話の前に私、何してたっけ? となった……」

深田 「スクリーンセーバーになってたりして」

谷田 「パソコン、相当使いこなしてないと、大変よね」

水元 「そうそう」

坂口 「今回のことは、私自身も大変勉強になりました。部長への報告は再度、氷室さんお願いします。それから岸谷さんにも」

氷室 「OK」

坂口 「今回、うまく使えなかった人には、松下さんと谷田さん、優しく教えてあげてね」

両者 「分かりました。優しく伝えます」

 会議後、坂口はシステム開発における「ユーザーの視点に立った考え方」の重要性をあらためて感じていた。特に、新しいシステムにおけるユーザー教育の重要性を実感した。そして、会社にとってではなく、関係する人すべての人に気持ちよく使ってもらえるシステムの重要性に気付き、「そうか! こういうことが、豊若さんがいっていた、ステークホルダーを想定して進めるってことなんだな。それを忘れてはいけないんだ……論文のテーマが決まってきたな」と実感するのだった。

 一方、谷田は坂口のことを考えながら、帰り道を歩いていた。そして、自宅近くのコンビニロートンに立ち寄ると、サンドラフトの新商品「サンチューハイ!ピンクグレープフルーツ」の350ml缶を買った。そして、自宅に着いてパンプスを無造作に脱ぎ捨てると、2階の自分の部屋へ入り、ぐいぐいと飲み干した。

 しばらく考え込んでいた谷田は携帯電話を取り出すと、坂口の番号を選んで通話ボタンを押した。携帯電話を耳に当てると発信音が聞こえてきたが、谷田は目を閉じてクビを左右に振ると、3回目のコールで電話を切った。

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