まず、提言そのものについてですが、この前提を「ソフトウェア開発に携わる情報サービス産業」と置いている点がいただけません。これでは、「ソフトウェア開発というものづくりの世界の人材育成についてのみを語っている」ととらえられ、非常に矮小化された感が否めません。
確かに、情報システムにおいては、ソフトウェア開発というものづくりの部分は、避けて通るわけにはいかず、重視すべき1つの要素には違いありません。しかし、企業における、有効な情報システムというものを考えるならば、ソフトウェア開発工程だけに焦点を絞るのでは、根本的な問題解決にはならないのです。
そもそも、企業における情報システムという観点からすると、極端な話ですが、ソフトウェアがどう作られているかは興味の対象ではなく、むしろそのソフトウェアや周辺の要素を含む情報システム全般が、その企業経営にどのように寄与してくれるかが興味の対象になるはずです。
そう考えると、今回の提言はどうも情報システムを利用する側のことはあまり考えられず、ソフトウェアを作る側やベンダ側だけを意識したものに見えてしまうのです。一般的に経済の原則的には、その利用者がいて初めてその市場は成り立つものです。つまり、ユーザーサイドに視点を置かなければ、本質的なところは語れません。そこが、今回の提言で大きく欠落しているところだと思います。
前段の国策的な話はともかくとして、後段(5章)の大学と企業で対話を持つ仕組みを作っていこうというのは、意味のあることだと思います。ただし、これも、あまり大きな期待を持って見るのは危険だと思います。あくまでも「お見合い」のようなものでしかないのです。つまり、両者が何かをコミットするという縛りではなく、まずは「学生が企業を知る、企業が学生を知る」という機会を作るということに意義があると考えるのです。現在は、そういう機会ですら、非常に限られているわけです。
しかし、こういう機会ができれば学生はみんな自分できちんと考えることができるようになるかというと、それも否だと思います。考えることもできる学生もいますが、考えない学生も大勢いることでしょう。期待が大き過ぎて、がっかりしてしまうかもしれないというのは、こういう意味です。
また、単に単位を取るためにインターンシップに参加するなどといった、変な義務感ややらされている感が学生の中に生まれてくると、企業側は間違いなく引いてしまいます。受け入れるということは、手間もコストも掛かるわけで、別に学生に単位を取らせるために企業が受け入れるわけではありません。
これらの点に注意しつつも、考えようとする学生は、いまよりも間違いなく増えると思いますので、やる意味はあると思っています。
そのほか、いくつか気になる点がありましたので、感想レベルで少し列挙してみます。
<2章>
……と、こういう話をすると、国の競争力や労働市場についての問題をセットで反論されることが多いです。競争力というのであれば、先にもいった上流工程で勝負するとか、もっといえば、IT以外の産業で勝負すればよいと思います。別に下流工程まで含めて議論しなくてもよいのです。
<3章>
<4章>
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