今後、この提言をベースに、さまざまなアクションが取られ、また国家戦略レベルのものも展開されるのではないかと考えています。ただし、本稿で指摘したような懸念事項が置き去りのままで議論が進んでしまうことを大いに憂慮しています。
そのためには、何より、この提言が「ソフトウェア開発に携わる情報サービス産業」に限定したものであり、情報システム全体を見据えたものになっていないことを、多くの人に気付いてほしいと思います。
そのうえで、では「企業や社会においての情報システム」はどうなのかという点について、あらためて同じようなアプローチでまとめていく必要があるのです。これをまとめるのは、おそらくITベンダでは不可能で、ユーザー企業がそれぞれ自社のビジネスを意識しつつ、取りまとめていかなければならないでしょう。
企業などの組織において、情報システムをいかに有効に活用していくか、そのためにどんな人材が必要で、それは学校レベルでどのような教育を行っていかなければならないか、また企業と学校がどう連携を取るかといった点を議論する必要があると思うのです。
私たちがこれから行っていかなければならないことは、机上論ではなく、一方で目先の損得勘定でない、数年〜10年先を見据えたうえで、「いま何をするのが良いのか?」という本質的な部分を考え、行動していくことだと思います。
そして、それこそが、真の国家戦略につながっていくものだと思います。本記事をご覧になっている皆さまも、1度この経団連の提言に目を通され、将来の日本の情報システムについて思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。
最初は、あまりに現実感のない、自分とは無関係の世界のことと感じられる向きもあるかもしれませんが、読み進めていくうちに、意外に身近な問題としてとらえることができるようになるのではないかと思います。そして、その後、多くの人が、この提言をベースに議論できるような環境が醸成されればと思います。
島本 栄光(しまもと さかみつ)
KDDI株式会社 システム企画部勤務。情報化人材育成および研修企画を担当。
広島市生まれ。広島大学工学部第II類(電気系)卒業。
東京都立大学大学院(経営学専攻)修了。
ITスキル標準に関する活動としては、ITスキル標準センターアプリケーションスペシャリスト委員会主査、ITプロフェッショナル育成協議会委員、JUAS人材育成研究部会副部会長などに携わる。
そのほか、情報処理学会情報システムと社会環境研究会運営委員、上級システムアドミニストレータ連絡会副会長など、特にユーザーとしての情報システムの在り方について関心が高い。
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