データ、UI、業務手順の「3要素」をとらえる分析設計技法「三要素分析法」集中講座(2)(3/3 ページ)

» 2006年05月09日 12時00分 公開
[渡辺 幸三,@IT]
前のページへ 1|2|3       

軽視されがちな業務マニュアル

 3要素の3つ目が「業務モデル」です。これもまた分かりにくい表現ですが、要するに「業務マニュアル」のことです。業務マニュアルが基本設計の成果物と見なされないケースが多過ぎると筆者は常々感じています。業務マニュアルの含まれない基本設計書など「使い方の分からない道具の設計図」にほかなりません。「使い方に関してはユーザーで考えてください」という調子で業務マニュアルの作成を怠っていたり、ユーザー任せになっているプロジェクトがたくさんあります。

 業務システムがある種の「社会システム」であるという事実をSEはもっと理解すべきです。コンピュータ上のモジュールを設計するだけで済むなら、システム設計など難しい仕事ではありません。難しいのは、コンピュータ外のさまざまな主体の動きも含めて「社会的に稼働可能な在り方」を導き出すことです。そのためには、基本設計において業務の在り方を問題にしないわけにはゆきません。

 業務モデルの例を「CONCEPTWARE/財務管理」から見ましょう。図10は「決算管理者」の職務が担当する業務の1つ「利益処分案の登録」を示したものです。アクションツリーという、ユーザーにとって抵抗なく読める記法で業務手順(プロトコル)が示されています。さらに、プロトコルを構成する各アクションで、どのパネルをどのように利用するかを記述するようになっています。ここまでくれば立派な業務マニュアルです。

ALT 図10 業務定義(クリック >> 図版拡大)

 企業においてどのような職務が定義されているか。それぞれの職務にどんな業務が割り当てられているか。それぞれの業務がどんな手順で進められるか。それは、企業コンプライアンスにまじめに取り組みたい企業ならば避けて通れない経営管理課題です。企業システムの基本設計情報にそれが含まれているのは当たり前の話です。

業務フローで3要素を俯瞰する

 システム設計の見方を3つに分解して、それぞれでのシステムの見え方を紹介してきましたが、3つの要素を「同時に」眺めるためのビューも存在します。それが「業務フロー」です(図11)。

ALT 図11 業務フロー(クリック >> 図版拡大)

 この見方はちょうど、3方向でまったく異なって見える立体を斜め方向からイラスト風に示した図(図1の中央部分)に似ています。正確さには劣りますが、広い範囲を直観できる便利な図面です。この図面で業務のまとまり(サブジェクトエリア)を俯瞰(ふかん)したうえで、各要素の在り方を調べるようにすれば、複雑膨大な企業システムの在り方を最も効率的に把握できます。

 サブジェクトエリアは、実際のモデリングの作業単位となるという意味でも重要です。モデリングを始める前に、ユーザーと一緒にサブジェクトエリアの一覧を設定して、それぞれの業務フローを一気に描いてしまいましょう。そのうえで、業務フロー単位、つまりサブジェクトエリア単位で、ユーザーとおしゃべりしながら「三要素」を一気に描きます。筆者の経験上、そのやり方が最も効率的です。

 なお、三要素分析法の業務フローは「データフローダイアグラム(DFD)」で描かれますが、独自の拡張が施されています。各業務(プロセス)が「どんな事態において実行されるべきか(イベント)」が爆発マークのフキダシの中に示されています。詳しい説明は省きますが、業務の現場において、それぞれの仕事は業務間の「ロジック」ではなく、「イベントドリブン」な形で配置されているからです。

図法はコンテンツを「鑑賞」するための知識

 さまざまな利点や効果をくどくど説明しましたが、この種の理屈や能書きは設計手法を学ぶ契機として次善のものでしかありません。最善のものはその手法に基づいてまとめられた「実務に耐える設計情報」です。

 前回も説明したように、三要素分析法向けの設計情報ライブラリの整備が急ピッチで進んでいます。現在は「CONCEPTWARE/財務管理」だけですが、高等教育機関での科目履修管理や工場での生産管理など、さまざまな業務分野向けの設計情報ライブラリが公開される予定です。手法の理屈を学ぶ前に、読者はまずはそれらのコンテンツをざっと眺めてみましょう。そして、自分に役に立ちそうだと思われたなら、コンテンツを理解するために図法をあらためて学べばよいのです。

 設計手法を設計手法としていきなり学び始める──そんな奇妙な時代は終わろうとしています。作曲家は膨大な音楽作品を聴いたうえで、作曲法を学んで自分の曲を作り始めます。同じように、SEはまずは多種多様な業務分野の設計コンテンツを「鑑賞」すべきです。鑑賞して楽しむだけで終わっても構いません。もし奇特にもシステム設計の技術を身に付けたいと望むのであれば、そのときにあらためてややこしい理屈や手順論を学べばよいのです。学を成す前にやるべきことはあまりに多く、少年少女は老いやすいからです。

筆者プロフィール

渡辺 幸三(わたなべ こうぞう)

企業システムを専門とするシステムエンジニア、プログラマ。「業務システムのための上流工程入門」「生産管理・原価管理システムのためのデータモデリング」(日本実業出版社刊)ほか。有限会社ディービーコンセプト代表。

ブログ「設計者の発言」


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ