戦略実現の鍵を握る情報システム部事例で学ぶビジネスモデリング(7)(2/4 ページ)

» 2006年05月26日 12時00分 公開
[印藤尚寛,ウルシステムズ株式会社]

情報システム部長の苦悩

 総合物流事業部長の計らいにより、週末に情報システム部長との会談の時間を調整していただけることになった。会談の名目は、システム再構築に当たり、今後の進め方を相談するためだ。しかし、中間報告後の状況から察すると、情報システム部長はプロジェクトに対して、依然大きな不安を感じているに違いない。情報システム部長に協力を得られず失敗に終わるか、あるいは信頼を得られるか。今後のプロジェクト推進に当たって、1つの大きな勝負どころである。

 会議には、情報システム部長のほか、戦略コンサルタントと私が出席した。

 「先日はプロジェクトの中間報告にご出席くださり、ありがとうございました。戦略案については、いかがでしたか?」と、戦略コンサルタントが切り出した。

 「良かったと思いますよ。当社の課題をよく理解してくださっている。しかし、実際には現場が良くならない限り、何をやっても無駄だと思う」と、情報システム部長は中間報告の資料を指しながら続けた。「でも、何も現場ばかりが悪いわけじゃない。現場を支える情報システムが適切に機能していないのも大きな問題だ」と、情報システム部長は率直に自分の部署の問題点を語り始めた。「情報システム部のメンバーは、現場業務の経験がほとんどない。だから、現場の業務担当者と業務の文脈で話ができない。現場からシステム担当者へ来る話は、トラブル対応とか修正依頼がほとんどだ。そのような仕事しかしていないから、社内からはコストセンター扱いされ、慢性的な人手不足の状態が続いている」

 「そうすると、システムを用いた業務改善の話は、普段はどこから上がってくるのですか?」と私は質問した。

 「SIベンダが提案してくることが多い。当社の問題点を理解して話を持ってきてくれることもあるが、基本的にはハードウェアの増強やソフトウェア製品のバージョンアップ時に提案してくる場合が多い」

 しかし、このプロジェクトでは、自社で業務改善の方法を検討してきた。また、社長も現場だけでなく、従業員全員を育てたいと強く思っている。これは、情報システム部にとって、人を育てるチャンスではないだろうか。

 「なるほど、SIベンダ主導でシステムを開発することが多いのですね。しかし、このプロジェクトの主導権はSIベンダではなく情報システム部が取るべきです。プロジェクトには業務担当者も含まれています。システム担当者も一緒になって、プロジェクトを進めていきませんか。私たちも、システム担当者が業務担当者とコミュニケーションを取れるよう、支援させていただきます」

 情報システム部長は、少し時間を置いてから答えた。

 「話は分かりました。情報システム部のメンバーも忙しいので、企画段階においてわれわれが主導的に動けるのか正直いって不安があります。しかしせっかくの機会ですから、取りあえずやってみましょうか。ただ、うまくいかなければ従来のSIベンダ主導のスタイルに切り替えますよ」

 こうして、何とか情報システム部長の協力を取り付け、プロジェクトは物流・ITインフラの検討フェーズに進んでいくことになった。社長の理解と後押しも得て、各部門から中堅・若手を中心とするメンバーがプロジェクトに加わることになった。総合物流事業部の業務担当者3人と、情報システム部のシステム担当者2人、そして私の計6名で、システム再構築に向けての業務分析作業を開始した。

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