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» 2006年07月04日 12時00分 公開

何かがおかしいIT化の進め方(26):リーダーシップを発揮するにはどうすれば?(後編) (2/3)

[公江義隆,@IT]

リーダーシップの要素(その3)――統率力

 これは部下の心や行動をまとめて、目的に向かわせ、目標に到達させる能力である。これがどういう内容から構成される特性・能力なのかは、なかなか説明の難しい問題である。優れたリーダーといわれる人にも実にさまざまなタイプがいる。大きく分ければ、1. 引っ張っていくタイプ2. 押していく(支援)タイプさらにすごいのは、3. 一見何もしていないように見えるのに、うまくいく人がいる。

 1は積極性が外に出てくるタイプである。リーダーシップという言葉から、一般にイメージするのはこのタイプである。頼まれなくても集団の中でまとめ役になる、指図したがり屋、決めたがり屋など、いわゆる声の大きい、本性的に「人を動かすことが好き」な人がいる。これは人間の持つ基本的動機にかかわる特性(性格に近い)のため、大人になってから大きく変えることは難しいといわれている。このような特性を持った人は、これを大切にしてうまく使ってほしいと思う。

 しかし、このタイプの人にはさまざまな問題点もある。いつも集団の中で中心になっていたいため、自分が頭(かしら)でないと、ほかへの協力姿勢に欠ける――つまり、チームワークが得意でない人が割合多いように思う。また、リーダーとしてうまく機能するのは、自分がよく分かっている問題の場合や、メンバーに対しほかの能力の面でも優れているか、メンバーにやる気があまりない場合である。メンバーのやる気や能力が高い場合には、メンバーとの間で衝突が起きやすく、リーダーかメンバーのどちらがやる気をなくすといったことになりがちだ。研さんに努めて「問題そのものに対する能力」の向上を続けていないと、得意であったことが弱点になっていく。

 かつては優秀だったリーダーが、地位が上がるに従って、高度化する問題に要求される能力と自己の能力の差が縮まり、ついにどこかで逆転したり、あるいは新しい問題への理解が追い付かず時代の変化に取り残されたりすれば、負のリーダーシップの発揮といったことも容易に起こり得る。加齢とともに能力が衰えているのに気が付かず、過去の成功から自己の能力を過信して、周囲から「老害」などといわれるケースもこれに当たる。

 上記の2は、意識して努力し訓練すれば、多くの人がかなり身に付くタイプのリーダーシップだ。そのためには、リーダーシップの構成要素(その1)と(その2)で述べたことを、適時(部下が問題に気付き出す時点)に的確に行うことを自分の習慣化とすることである。最初は意識しないとなかなかできないことでも、何回か続けてやっているうちに、あまり抵抗なくできるようになるものである。事有るたびに、関係者全員にビジョンや方針を適時に示し、これを徹底させることだ。

 そのためには、これらが本当に自分のものになっていなければ説得力が出てこない。自分に迷いがあると、それはすぐ部下に伝わる。場合によっては何度も頭の中で反すうし、納得/覚悟して、自分がまず本気にならなければならない。良い意味での割り切りが必要な場合もある。人は理屈で内容を理解しても、行動を促すのは感情だ。文書やメールでは感情は伝わりにくい。従って、できる限り関係者全員が顔を合わした場で、肉声でのコミュニケーションが必要だ。

 「君子は豹変す」ということわざがあるが、われわれ凡人のリーダーは実行途中で豹変(ひょうへん)してはいけない。「やる」といったら、よほどのことがない限り、後には引かない、ブレないことが必要だ。そうでなければ部下は本気にはなれない。困難や苦しい事態に直面して“逃げない”ことが大切である。逆に逃げる部下は容赦しない“怖さ”もリーダーには必要だ。これが一番難しいかもしれないが、頑として認めない毅然(きぜん)たる態度で臨むことだろう。ここで物分かりのよい、いい子になってはならない。

 もう1つ大切なことは、実行途中でどうしてもうまくいかなくなった場合の対処の方法がある。こんな場合、リーダーは上部組織の追及から部下を守らなければならない。

 一生懸命やった部下の失敗をほじくり出すのはほどほどにしておこう。「失敗の原因や事実を徹底的に究明して対策を考える」というのは、理屈はそうでも、この場合(注)にはあまり適切ではない。

 結果的にはうまくいかなかった場合でも、そこまでに得られた収穫がいろいろあるはずだ(「こんな場合に、こんなやり方ではうまくいかないということが分かった」ということだけでも1つの収穫だ)。まずここから入って再挑戦に結び付け、そのうえで失敗の背景を振り返る方法もある。この辺りのボタンを掛け違うと、挑戦の雰囲気からは程遠い、失敗することのない安易な目標しか掲げない組織になっていく。


注:
普通にやれば正しくできることを、何かの間違いで問題を起こした場合と、このように普通ではなかなかうまくいかない問題で、やはりうまくいかなかったという場合では、異なった対応が必要である。


 上記の3は、その人がいるだけで人がまとまり、物事がうまく進むといった、まれにいる世にいうカリスマ的リーダーのケースである。こんな人は、鋭い直感や本質を見抜く力など、人並み外れたものを備えているのだろう。これは普通の人にまねのできることではない。

 しかし、われわれ普通の人間にも、長年にわたり実績を積み上げ、人の信頼や尊敬を得ていくことによって、多少はこんなレベルに近づくことができるかもしれない。

 一番大切なのは、やろうとしていることに対する「リーダーの動機と献身的な態度」だ。私心を捨て、懸命に努力する人の姿は美しい。これが人を動かす。

「長所を伸ばせ」だけでよいのか?

 最近の人財育成では「その人の得意とする能力分野を伸ばせ」という考え方が強いが、本当にそれだけでよいのだろうか?

 仕事のうえで同じ水準の成果を出していても、詳細な知識を修得して理論的なアプローチが得意な人もいれば、最小限の知識でコミュニケーション能力と勘を働かして問題を解決する人、人使いがうまくて他人にすべてやらせてしまう人など、人により活用する能力には大きな違いがある。この意味では、能力は代替可能であり、得意な能力を伸ばす意味は大きい。

 しかし、マネジメントという仕事を考えた場合にはどうだろうか。例えば、マネージャにとって“物事を決める”というのは、その中心的な役割であり、他人に任すことはできないし、ほかの能力では代替できない問題だ。問題を分析整理する、構想や計画をまとめるといった仕事なら、中の作業は他人に任せることも可能だが、この方法を取るなら、分析力や構想力に代わり、任せる力(器量、コミュニケーション能力、本質の把握力など)がないとうまくはいかない。

 このように考えていくと、ある仕事や役割に対して、何組かの能力の組み合わせがあり、この組み合わせの中で各能力のバランスこそが非常に重要であることに気が付く。

 以前、筆者の部下の1人に、技術面をはじめ実務的な面では極めて優れていたが、人とのかかわりに対しては極度に消極的な特性の人がいた。記念写真を写すとき、最前列に無理やり引っ張り出しておいても、できた写真を見ると「最後列の人の間から、辛うじて顔を出しているだけ」といったような人だった。人柄は良く、おとなしく真面目で周りの人からの信望もあったから、内向きの仕事ではチームのまとまりも良く、良い成果を出してくれていた。

 一方で、外部との交渉などでは一方的に相手に押し切られ、本来ならやらなくてもよいような仕事まで押し付けられたり、意見の対立があると一方的に自分が引いてしまうなど、持っている能力を生かし切れない場合が多かった。何とか持てる力を発揮してもらおうといろいろ考え、手を打ってみたが、ある程度の効果はあっても、望むほどうまくはいかなかった。結果的に無用のストレスを与えることになっていた場合も多かっただろう。気の毒なことをした。

 さて、ここで本稿の冒頭に掲げた「組織にとって望ましい人のタイプは?」に戻ってみる。

 すぐ上の例で取り上げた「能力はあるが、外向きに消極的な人」は、この図ではBに当たる。これは「損をするのが本人」というケースだ。

 Aは良くも悪くも周囲への影響がない人である。一番問題のあるのは、上述の「リーダーシップの要素(その3)――統率力」で述べたように、Cなのである。やる気に応じた知恵・能力があれば、極めて高い成果を得られるはずの「やる気」が、能力とのバランスを崩すと、周囲の人のやる気をなくさせるマイナスのリーダーシップにつながったり、周囲とのチームワークを乱したり、やる気だけが先走ってとんでもないことを始めたりする。

 得意な分野の能力向上は結構なことだ。しかし、それと同等に不得意でも必要な分野の必要最小限の能力開発を図って、能力バランスを取ることが極めて重要なのである。

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