オープンシステム移行による弊害を断罪するシステム部門Q&A(36)(2/3 ページ)

» 2006年12月07日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

秩序が崩壊する原因はどこにあるのか?

 ご質問のような現象は、上記のような秩序が崩壊したことに起因します。秩序が崩壊した原因は、企業によって多様でしょうが、一般的には次のような事項が指摘されています。

過去の資産が使えない

 レガシー環境で確立していた標準パターンやサブルーチンなどの資産は、オープン環境では使えなくなりました。

 システム全体がバッチ処理からリアルタイム処理になり、入出力処理のヒューマンインターフェイスがGUI環境になったので、標準パターンの大部分が使えなくなりました。

 サブルーチンも、プログラミング言語がCOBOLからJavaやVBなどに変わりました。それによりサブルーチン群を新言語に置き換える必要がありますが、当時は他言語を想定していなかったので、変換は現実的に不可能でした。しかも、新言語ではそれとはまったく異なる体系でのコンポーネントがあるので、置き換えることがかえって標準化に反することになります。

無節操なダウンサイジング

 しかも、標準パターンやサブルーチンなどを構築したベテランは、オープン系への参加が遅れました。オープン系での体系を構築するには、時間的にも気力的にも余裕がなかったのです。その間に、若いシステム部員がオープン化を進めてしまいました。

 若いシステム部員の多くは、画面のデザインや入力操作などには興味を持ちますが、方法論や標準化の有効性には無頓着でした。オープン系における方法論や標準化の考え方は従来より充実しているにもかかわらず、彼らにはそれらを理解して再構築するだけの知識経験がありませんでした。

 しかも、移行のスケジュールは短く、移行には多様な作業やトラブルが伴い、方法論や標準化などには構っていられない状況だったのも大きな要因です。そしてベンダに丸投げとなり、その結果として無節操でバラバラなシステムが乱立してしまったのです。

開発コスト重視によるマルチベンダ化

 ベンダへ丸投げの状態だとしても、ベンダが1社に限定され、そのベンダがしっかりとした方法論や標準化を実践しているならば、それを自社の標準とすることもできます。

 ところが、IT投資の透明性が重視される現状を考えると、もはや特定ベンダに指名発注することは許されません。従って、複数ベンダからの提案を受けて比較検討することになりますが、そのような場合は一般的に見積もり額が最小のベンダに発注することになります。

 新規参入を狙っているベンダは、当然戦略的に低い見積もりを提示します。こういった背景から、個別システムごとに異なるベンダを選択することになり、結果として、多くのベンダとの付き合いになります。

 それぞれのベンダは、独自の方法論を持っていますし、伝統的な趣向(?)を持っています。また、生産性を向上させて開発コストを下げるためには、独自のコンポーネントを再利用することが効果的です。その結果、発注先のベンダごとに異なる方法論、標準化が並存してしまいました。

IT部員の縦割り担当化とサーバはんらん現象

 システムごとに方法論や標準化が異なる状態では、自分が関係しなかったシステムを保守改訂するのは非常に困難です。そういった理由から、自然とIT部員の担当がベンダ別の縦割りになってしまいます。

 また、これはサーバはんらん現象の原因にもなります。新規システムとはいえ、既存のサーバを有効的に利用するべきなのですが、システム部門はとかく新規のサーバを設置したがります。開発段階では開発用サーバを用いるのは仕方がないとしても、開発が終われば既存サーバに移行するべきなのに、開発サーバをそのまま本番用に使いがちです。

 その理由として、OSが異なるとかサーバの設定条件が異なるなどを挙げますが、その裏には縦割り担当化が影響していることが多いのです。

 見積もりにもハードウェアコストが入っているはずですが、相対的にそのコストが小さいことや、運用段階での都合などはあいまいになっていることなどから、この問題は「開発コスト重視」の割に、ベンダ選定時には重視されないことが多いのです。

コラム:日米の違い−−アホは伝染する

1970年代ころの話です。日本では最新機種への移行が一般的なのに対して、米国では数世代前の旧機種も多く使われていました。その理由として次のことがいわれていました(真偽は保証しません)。

米国では担当者の任務が明確で、成果は短期間で評価される。新業務を短期間でシステム化するのに、既存のシステムまで考慮するのは面倒だし、自分の責任ではない。そこで、新システムだけのために最新機種を導入し、既存システムはそのまま放置する。そうして旧機種が多く残っているのだ(日本ではレンタルが多いが、米国では買い取りが一般的なので、償却済みの旧機種を捨てると損失が生じて評価が下がる。米国はオフィススペースが広いのでコンピュータ台数が増えても困らない。という補足説明もある)。

米国では部分最適化の社会で全体最適化の概念がない、長期戦略に欠けると嘲笑していた(?)のですが、原因は異なるとはいえ、現在では自分たちがそれをしているのですね。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ