EAや日本版SOX法に関連して、業務や情報システムの“可視化”が重要だといわれている。しかし、経営者は一般的な表記法による図表を理解してくれない。どうすればよいのだろうか。
どうやって可視化すればよいのでしょうか?
最近はEAや日本版SOX法などに関連して、業務や情報システムの「可視化」が重要だといわれています。可視化には標準的な表記法による図表にするのが適切だと思います。しかし、当社の経営者は、DFD(Data Flow Diagram)すら理解してくれません。そのような状態で、どう可視化すればよいのか困っています。
可視化とは、関係者間での理解を容易にすることです。それには、
・相手の可視能力(読解する能力)
・相手の可視能力に合わせた可視化手段
がマッチしなければなりません。
可視化の手段に関しては、すでに多くのことがいわれている割には、関係者の可視能力向上についての議論はあまりなされていないようです。ここではそれを話題にしましょう。
一般的に、複雑なことを直感的に伝えるには図表形式が優れています。そこで可視化とは一般に図表化することだといえます。特に情報システムは無形のものですから、それを可視化するには図表にするのが効果的です。
多くの関係者に誤解のないようにするには、設計図における三角図法のように表記法を標準化する必要があります。ここでは、UMLやEAが採用している標準的な図表のことを標準図表ということにします。
昔は、DFDやERD(Entity-Relationship Diagram)などの図表が利用される範囲は、システム開発・保守に関係する当事者に限られていたので、全員が標準図表の可視能力を持っていました。また、可視能力を持つように訓練されてきました。
ところが、現在ではITに関する関係者が広くなってきました。特に経営者や利用部門など、可視能力の低い関係者が増加してきました。このような人にも理解してもらわなければ、可視化の意味がありません。
標準図表は、ある程度の可視能力を持つ人を前提としていますので、可視能力のない人にとっては、いかに優れた表記法であっても分かりくいものです。専門家ならば三角図法による設計図から現物を理解できますが、素人にとっては、透視図のスケッチの方が厳密性は劣るものの分かりやすいのと同じです。つまり、可視化における三角図法ではなく、透視図を見せることも必要になってきたのです。
すなわち、可視化文書には、
・読む人間が一定の可視能力を持つことを前提に、厳密性を重視した標準図表による可視化文書
・厳密性は欠くものの、可視能力の低い人にも理解しやすくした個別可視化文書
の2つが必要になります。
透視図のような可視化文書が必要なのですが、可視化文書の作成はできる限り避けることが大切です。
・文書が多様になってしまう
「理解できない」のは、一般的な意味での可視能力というよりも、経験の違いによる違和感に起因することが多いのです。
これまで個条書きに慣れていた人は、記号の多い図表には違和感を持ちますし、図表に慣れている人も経験していない図表形式には戸惑います。そして、各人の経験は多様ですので、各人に理解させようとしたら、多様な可視化文書を作成する必要があります。その作業が大変です。
・厳密性を要求されることもある
個々の事柄に関しては、厳密性を要求されることがよく起こります。それに対処しようとすると、標準図表の数倍の記述量になり、読んでもらえなくなります。そこで、サマリー文書を提出し、質問に応じて詳細を説明することになりますが、それでは文書化する目的が失われます。
・文書間での整合性が失われる
1つのことを多様な文書にした場合、その文書間での整合性が失われることもあります。例えば、利用部門への説明文書とベンダへの説明文書に整合性がないと、誤解したままシステム構築が行われ、後になってから大きなトラブルに発展してしまう危険性があります。
・保守ができない
「仕様書はあるのだが、開発当初のもので実際のシステムとは異なる」ことが多いのは、西暦2000年問題で痛感したことです。現実とは異なる文書が存在すると、役立たないばかりか誤った理解を生じかねません。
このような放置状況が発生する原因は、改訂作業が面倒だからです。まして、多様な形式の文書を(おそらく手作業で)作成していたのでは、それらの文書は改訂されずに放置されることが多いでしょう。
標準図法による各種の図表の作成、相互関連のチェック、関連する文書類の管理などを統合化したツールが発展してきました。
日本版SOX法対処ではそのようなツールの活用が効果的だといわれています。UMLではプログラムを自動生成するツールも出てきました。EAでは、いまだに中央官庁向けだけですが、次第に標準モデルが整備されつつあります。このように、標準図法を採用することには大きなメリットがあります。
これらの中で最も重要なのは、関連文書の一元管理です。システム構築でデータ中心アプローチやオブジェクト指向アプローチが重視されているのと同様です。
個々の文書の表記法を問題にするのではなく、全体最適の観点から考えることが重要なのですが、このようなことに関心を持っている経営者は少ないのが現状でしょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.