じりじりと円安人民元高が進行する中、中国IT企業はどのように為替リスクを管理すべきでしょうか。かつて日本円は、対米ドルの為替レートで1ドル360円から80円まで一気に円高が進行しました。それでも日本の輸出産業は、血のにじむような改善活動を繰り返し、世界中の最適地に生産拠点を移すなどして、円高を乗り切った歴史があります。
今度は、中国が為替変動の試練に立ち向かう番です。中長期的には、このまま円安人民元高の傾向が続く確率が高いでしょう。ですから、中国ベンダとしては、「為替変動以上に開発生産性を向上させられるかどうか」が大きな課題となります。それと同時に、中国ソフト産業が低価格&人海戦術のほかに付加価値を生み出せるかどうか、さらに、主要先進国並みの知的財産保護への取り組みも欠かせません。
中国ソフト産業の生産性が思ったほど伸びないようですと、中国のソフト輸出(オフショアリング市場)の勢いは止まります。中国のソフト業界全体が衰退することはありませんが、日本向けオフショアリング市場は停滞するでしょう。
ここでは日本の立場に立って、状況を分析してみましょう。中国の生産性の伸び以上に人民元高が進行すると、日本企業は二者択一を迫られます。拡大一辺倒だったオフショア開発にブレーキを掛けるか、中国以外に活路を見いだすかのどちらかです。
ですが、現実はもっと厳しいと思います。なぜかというと、日本企業の競争力を維持するためには、もはや世界的なオフショアリング拡大の波には逆らえないからです。中国をあきらめてさらに人件費の安い他国にシフトするなんて、もっと非現実的だと思います。結局のところ、日本のソフト業界は従来のコスト削減を目的とした狩猟民族的なオフショアリングビジネスから脱皮せざるを得なくなります。
ここから第2世代のオフショアリングが始まりです。インターネット業界の流行用語を借りれば、「オフショアリング 2.0」の時代がすぐそこまでやって来ています。書籍「オフショアリング完全ガイド?ソフトウエア開発」は、ソフトウェア開発の国際分業体制に移行すると予言しています。
議論を中国側の視点に戻しましょう。もし、中国がソフト輸出(オフショア開発)に頼らず、国内需要で十分に食べていけるようになったらどうでしょうか。そうなると、優秀な技術者を抱える中国ベンダは、利益幅の薄い対日オフショア開発を敬遠するようになるでしょう。大多数の小規模零細オフショアベンダは、矛先を変えるに違いありません。この変化に対応できないオフショアベンダは厳しい生存競争に耐えられず淘汰されるしかありません。その結果、一時的に大企業の下請け・孫請けとして自転車操業を続ける元オフショアベンダが増えると予測しています。
向こう2?3年の視点で考えると、中国では規模が小さいオフショアベンダの淘汰が続き、淘汰したベンダを飲み込んだ大規模ベンダの巨大化が続くでしょう。日本では経済格差が政治問題と化していますが、中国でも数千名の従業員を抱える大企業と、体力のない零細企業との二極化が進行すると予測しています。
今後も中国オフショア開発における決済通貨は日本円ですから、為替リスクを負うのは中国側です。しかも、日本からの厳しいコスト削減要求は止まることがありません。従って、円安人民元高の為替変動で減った利益は、中国側の責任で補うほかありません。
このように、中国沿岸部の大都市では、オフショアビジネスで甘い汁を吸える時代はとっくの昔に終わってしまいました。それが嫌なら、利益の出せないオフショアベンダは市場から退場するか、資金力のあるベンダに吸収合併されるしかありません。短期的には、中国オフショア市場では合従連衡が繰り返されます。
一方、日本のオフショア発注企業では、大きな状況変化は起こらないと予測しています。すなわち、このまま円安人民元高が進行しても、いま赤字を垂れ流している会社は今後も赤字を垂れ流し続けます。収支トントンの会社は今後も相変わらず。黒字化に成功した会社はこのまま順調に黒字幅を拡大させるでしょう。
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