円安と人件費高騰で35%の減益に苦しむ中国現地からお届け!中国オフショア最新事情(8)(3/3 ページ)

» 2007年05月14日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ有限会社]
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日本企業はどう対処すればよいの?

 狩猟民族的なオフショアリングビジネスのやり方を継承する限り、日本企業には厳しい現実が待ち構えています。特に、中国に資本投下した開発拠点を持つ日本企業を取り巻く環境は厳しいでしょう。筆者たちは、今後も予想される円安人民元高にどう対処すべきでしょうか。考え得る3つのパターンのシナリオを紹介します。

  1. 現在赤字なら止血を優先する。赤字を垂れ流す会社の発注規模の拡大は自殺行為。中国に子会社がある場合は、思い切って事業規模を縮小すべし。3年たっても事業を黒字化できない中国拠点は、抜本的な見直しが必要。連続的な改善ではらちが明かない
  2. すでに黒字化した会社は、この調子で規模を拡大すればよい
  3. 現在、収支トントンの会社は、組織的なオフショアリング推進の基盤整備に注力する(PMOの強化)。後述のように、海外事業に特化した人材育成に注力する

 短期的には、中国オフショア開発事業の責任者を外部から調達するしかありません。残念ながら、いまの日本企業(特にSIer)には、海外事業をマネジメントする実践教育を受けた人材はほとんどいません。

 長期的に右肩上がりが約束された高度成長期なら、素人が必死になって海外事業を推進しても、後から十分な恩恵を受けることができました。ですが、いまは以前と同じやり方は通用しません。中国オフショア開発を短期的に成功させたいのなら、重要なポジションを日本人だけで占める理由は何もありません。プロジェクトマネージャクラスの人材であっても、優れた中国人・台湾人・マネジメント実績のある外国人を、手っ取り早く外部から調達してもよいのではないでしょうか。これが短期的なソリューションの選択肢の1つです。

 ただし、長期的な人材登用については、筆者は正反対の意見を持ちます。やはり、最前線でオフショア開発を指揮する責任者は、自前で育成すべきだと考えます。規模の大小にかかわらず、社内に海外事業リーダーを育てる専門プログラムを用意して、国籍や出身母体・雇用形態にこだわらずに長期育成すべきです

ALT 大連市内の様子。小さな遊園地もある

 中小企業は予算的な問題があり、本格的な教育投資など非現実的だと思われるかもしれません。それならば、最初から外国人を正社員として雇用して、社内の通常業務を国際化する道を選びましょう。特別な教育投資をしなくても、周りの日本人従業員と接触することで異文化コミュニケーション能力が自然に磨かれます。ただし、これだけでは海外事業マネジメントの能力は身に付かないので、長期的な事業戦略に基づく人材育成プログラムが必要なことはいうまでもありません。

 以上が、ソフト業界の全体動向に関する筆者の見解です。

 最後に、今回の記事をまとめます。中国オフショア開発関係者が危ぐする為替リスクの問題は、本質的には中国側が解決しないといけないと思います。読者の中には異論を持つ方もいるかもしれませんが、一般論としては次のように考えています。

円安のスピード以上に生産性を高め、日本が欲しがる価値ある技術・サービスを作れ。無理なら淘汰されるしかない

円安のスピード以上に生産性を高め、日本が欲しがる価値ある技術・サービスを作れ。無理なら淘汰されるしかない

 これが、筆者から中国ベンダに贈る最高の助言です。つまり、「円安人民元高が20%進むなら、その間に生産性を30%高めよ!」といいたいのです。

 後日、前述の相談者からお礼のメールが届きました。

皆さまの意見を見ると、やはり難しい問題だと再認識させられました。実際にモノが動く貿易ビジネスでは、いろいろな為替リスクの回避手段が講じられていますが、現段階のオフショアはやはりまだ対応策がありません。

個人的な思いですが、オフショアビジネスについては、その国の地理的条件に関係なく、円以外の通貨を持つ国では、時間差こそあるものの、長期的には為替リスクが必ず軽視できなくなるのではないでしょうか。さまざまな方の意見を聞ければ大変うれしく思います。

 頑張れ!オフショア企業!

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)

琉球大学非常勤講師

オフショア開発フォーラム 代表

アイコーチ有限会社 代表取締役

沖縄生まれ。


九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門?失敗しない対中交渉?」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。


オフショア開発フォーラム:http://www.1offshoring.com/

アイコーチ有限会社:http://www.ai-coach.com/



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