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» 2006年05月25日 12時00分 公開

「中国人技術者を日本で教育」はなぜ失敗するのか?現地からお届け!中国オフショア最新事情(2)(1/3 ページ)

中国オフショア開発への新規参入は絶えないが、最近はオフショア発注する前の助走期間として、自社に中国人技術者を常駐させるオンサイト型開発も増えている。 その課題を実際のケースを基に考えてみる。

[幸地司,アイコーチ有限会社]

おぜん立てされた中国オフショア開発のラボ契約

身勝手なラボ契約への処方箋

ALT 大連に進出した日系ベンダのオフィス風景

  相変わらず中国オフショア開発への新規参入は絶えません。最近の傾向としては、「中国リベンジ」組の台頭が目立つようになってきました。すなわち、数年前にいち早く中国オフショア開発に挑戦したものの、現場の苦労むなしく敗退し、しかも、会社の支援体制が整っていないため、中国シフトからの全面撤退を余儀なくされてしまったパターンです。

 そのほかにも、中国オフショアに発注する前の助走期間として、自社に中国人技術者を常駐させるオンサイト型開発も確実に増えています。日本流のOJT(On the Job Training)で中国人技術者を育成して、いずれは本国で活躍してもらう腹積もりです。今回筆者に相談を寄せてきた企業は、まさに後者のタイプでした。詳しい相談内容を見てみましょう。

 当社は中国オフショア開発の後発組です。そのため、北京・上海・大連など中国沿岸部の都市ではなく、内陸部の地方都市にある企業と業務提携しました。その後、大きな混乱もなく流れるように中国側とラボ契約を結んでしまいましたが、いまではこの契約がさまざまな問題を引き起こしています。

 このラボ契約は、両国のトップ同士が長期的な戦略に基づき締結したものです。そして、採用されたラボ要員は、実践教育のために日本に招聘(しょうへい)されました。ところが蓋(ふた)を開けてみると、中国から派遣されたのは実務経験ゼロの者ばかり。しかも、いきなり人月単価の値上げを示唆されました。始まった途端、現場の私たちは困惑しています。

(日本人開発リーダー)



 現在、日本向けオフショア開発を志向するすべての中国ベンダは、海外経験のある人材の確保に躍起になっています。ところが現実は、人材が豊富だといわれる北京・上海・大連ですら、優秀なブリッジSEは容易に確保できません。ましてや、中国の内陸部から人材を招聘したところで、日本企業が満足するような即戦力人材は確保できるはずもありません。当初、この日本企業は、2〜3名なら“実務経験が豊富なブリッジSE級の人材”を確保できると思ったのでしょう。しかし、その読みは外れてしまいました。

信頼できないならラボ契約を解消すべき

 知人の中国ビジネス専門家に相談を持ち掛けると、案の定、相談者にとって厳しいコメントが返ってきました。すなわち、トップが雲の上で話をつけたラボ契約では、現場の意思が反映されず両国の信頼関係が構築されにくいとのことです。今回のパターンはまさにこれに当てはまります。

 ラボ契約は、競争意識の欠如や緊張感のない取引、品質低下など、発注者にとって不利な契約になってしまう傾向があります。オフショア開発のラボ契約は厚い信頼関係を前提とするビジネス形態ですが、その半面、仕事量や生産性にかかわらず一定の報酬が保証された状態では、中国側から十分なパフォーマンスを引き出せないことが多いのです。

 特別な事情がない限り、信頼関係ができるまではラボ契約から請負契約形式に変更することをお勧めします。ほかのパートナーとの競争原理により、最適パートナーを選定すべきです。慌てず騒がず、いまの中国パートナーと少し距離を置いて、互いに緊張感のある取引に転換すべきだと思います。

失敗原因を中国人気質に求め過ぎてはいけない

 オフショア開発に悩む会社に限って、開発現場では中国批判の雰囲気がまん延し、「日本人がいかにして中国人をコントロールすべきか?」という議論が支配的になりがちです。特にラボ契約では、リソース管理やスコープ範囲の「責任の所在」があいまいになりやすいため、特に注意しなくてはいけません。

 中国ベンダで働いた経験を持ち、良くも悪くも中国IT業界を知り尽くした筆者ですら、読者から「中国への偏見に満ちている」とおしかりを受けることがあります。ですので、中国ビジネスの勘所がつかめない初心者は、オフショア開発の失敗原因を安易に中国側に求めるべきではないでしょう。

 先述の中国ビジネス専門家は、さらにこんなコメントを寄せてくれました。

 日本にもいろいろな人がいるのと同様に、中国にもいろいろな考え方、気質の人がいます。

 この問題は、“中国人気質”のコントロールとはとらえず、あくまでビジネス的な視点に立った公平な契約、パートナーシップを形成する必要があると思います。



 これもあくまで一般論ですが、仮に同社の経営者が大学教授など、大学関係者の場合は、いわゆる通常のビジネス感覚が欠如している可能性があります。

 これは特に本人に悪気があるわけではなく、厳しい企業間競争の経験が乏しいためです。今後も同社との取引を継続するのであれば、このあたりのビジネス感覚の指導も徹底的に行っていかなくてはいけないと思います。

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