日本のオフショア開発に携わる関係者が一堂に会す年次シンポジウム「オフショア開発フォーラム」では、中国を中心としたアジアのオフショア開発現場の状況、人材育成や技術習得のノウハウなどが紹介された。オフショア開発を成功に導くための鍵とは何か。
わたしが学長を務めるオフショア大學では、主要メンバーが中心となり、年次シンポジウム「オフショア開発フォーラム」を開催しています。2009年度は中国の浙江省・烏鎮、江蘇省・無錫、そして東京の3カ所で行いました。本稿では、11月17日に東京で開催したフォーラムの模様をお伝えします。
日本のオフショア開発に携わる関係者140人が参加した本フォーラムでは、単にオフショア開発の事例を紹介するだけではなく、具体的な推進方法の成功例、人材育成や技術習得の貴重なノウハウや知識を得られる内容にしました。
第1部の基調講演は、電気・電子技術の学会である米IEEEのフェローで、慶應義塾大学教授の中村維男氏が登壇し、「グローバルソーシング時代を担う国際IT人材戦略」をテーマに、今後の見解を語りました。中村氏は、計算機科学の歴史を踏まえ、今後の発展方向が環境に配意したグローバルソーシングに向かうことに加えて、国際IT人材戦略の良し悪しにより、企業や国家の命運が左右されると指摘されました。
続いてのセッションに登場したのは、UMLモデリング推進協議会(UMTP) オフショアソフトウェア開発部会の中原俊政主査です。同部会は、オフショアソフトウェア開発を成功裏に終了させるための現実的なポイントと、その中でモデリング技術をどのように利用すべきかについて研究しています。具体的には、これまで以下の活動を進めてきました。
本講演ではUMTPが実施したアンケート結果が報告されました。例えば、「オフショア開発における課題と深刻度」について、日本企業が感じる深刻度は、オフショア担当者の離職、保守メンテナンスの派生開発におけるリードタイムの大きさ、情報共有の困難さなどが挙げられました。一方で、しばしば耳にする、仕様のあいまいさ、言葉や文化の違いによる誤解、テスト時の品質劣化などは、深刻な課題とは感じていないようです。
オフショア開発でUMLを活用する際のノウハウも紹介されました。その一部を抜粋します。
各工程の作業分担を明確にし、各工程の成果物(UML図、およびUML図以外)を決定するオフショアでの開発担当領域を明確にして、モデリング範囲/テスト範囲を決める。
ハードウェアやソフトウェアの基本的な構造の設計であるアーキテクチャモデルをしっかりと作成し、内容を共有すること。
オフショア側のプロジェクトメンバーによるレビューを確実に実施する。
詳細設計では、クラス図とシーケンス図、オブジェクト図、パッケージ図でレビューを行なう。
午後のセッションでは、オフショア開発における人材育成の重要性が強く訴えられました。まずは、独立系SI企業であるヘッドウォータースの篠田庸介代表が東南アジアの人材リソースの現状について説明しました。同社は、東京を拠点に事業をスタートした後、インド、ベトナム、中国の順に開発拠点を広げていき、最近では、ミャンマーの協力会社とも関係を構築しているそうです。
こうした経験を基に、東南アジア地域のオフショア開発拠点を分析したのが表1です。ビジネスにおいて日本を特に重視しているのは、中国、タイ、ベトナムです。
表1:オフショア受託国としての東南アジア諸国 | ||||||||||||||||||||||||
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※★の数は篠田氏の講演を聞いたうえで筆者が独断と偏見により採点 |
篠田氏が設立したベトナムの100%子会社への発注量はさほど多くありませんが、独自の営業活動による現地案件の売り上げで経営を維持できている状態です。50人のベトナム人技術者の離職率は極めて低く、終身雇用を前提に今後も経営を続けていく方針です。
オフショア開発については、経営者ならびに現場の強いコミットメントが不可欠です。オフショア開発を始めるにあたり、日本側が疑心を持っていては成功するはずがないし、「失敗してもいい」と軽い気持ちのお試しプロジェクトでも、人間は頑張れるはずがありません。必ず背水の陣で臨むべきであり、オフショアをやると決めたら、必ず成功させると強く心に刻むのです。オフショアの現地法人を設立したら、責任者を片道切符で送り出します。ヘッドウォータースの場合は、海外未経験者をいきなり現地責任者として赴任させました。1年半経ちましたが、まだ1度も日本に帰国していないといいます。
また、勘違いしてはいけないのは、オフショア開発の失敗は必ずしも海外側の原因ではないということです。日本国内のシステム開発プロジェクトであっても、成功率はわずか30%だと言われています。そのことを肝に銘じておくべきです。
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