銀の弾(ぎんのたま)情報システム用語事典

silver bullet / 銀の弾丸

» 2007年06月25日 00時00分 公開

 ソフトウェア開発の生産性を劇的に向上する特定の手法やツールのこと。通常は、こうした手法やツールは存在しないという意味で使われる。

 英語で“silver bullet”とは「狼男を倒せる武器」をいい、転じて「困難を解決する決め手」「特効薬」という意味で用いられるが、ソフトウェア工学においては“ソフトウェア開発という困難な課題を解決する決め手”のことで、慣用句としては「銀の弾はない」という形で使われる。

 このいい回しが使われるようになったきっかけは、IBMのメインフレーム「System/360」、そのOSである「OS/360」の開発者として有名なフレデリック・P・ブルックス Jr.(Frederick Phillips Brooks Jr.)が1986年に公表した論文「No silver bullet - essence and accidents of software engineering」である。ブルックスは、この論文でタイトルの通り「銀の弾はない」として主張して議論を巻き起こした。

 ブルックスは、まずソフトウェア開発には本質的な部分と偶有的な部分があるとして、これまで(1986年まで)のソフトウェア開発の生産性向上策は偶有的な部分――すなわち、高級言語とコンパイラの発展などによって行われてきたが、この方法ではこれ以上の改善は難しいとした。これ以上の生産性向上を図るには、本質的な部分における改善が必要だが、これはソフトウェア開発に固有の問題――すなわち複雑でかつ変更が容易(と思われている)概念構造体を作るうえでの固有の難しさであって簡単には解決できないと主張、今後(1986年から)10年の間、“銀の弾”は登場しないと結論付けている。

 なお狼男は銀に弱いという設定は、一般に欧州の民間説話に由来すると思われているが、実際には映画「The Wolf Man」(1941年=邦題「狼男」)によって作り出されたものである。

参考書籍

▼『人月の神話 新装版――狼人間を撃つ銀の弾はない』 フレデリック・P・ブルックス・Jr=著/滝沢徹、牧野祐子、富沢昇=訳/ピアソン・エデュケーション/2002年11月(『The Mythical man-month: essays in software engineering』の邦訳) − 「銀の弾などない――本質と遇有」(「No silver bullet - essence and accidents of software engineering」の邦訳)収録 フレデリック・P・ブルックス・Jr=著/滝沢徹、牧野祐子、富沢昇=訳/ピアソン・エデュケーション/2002年11月(『The Mythical man-month: essays in software engineering』の邦訳) − 「銀の弾などない――本質と遇有」(「No silver bullet - essence and accidents of software engineering」の邦訳)収録


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