一方で、M&Aが活発化した今日においては、文化やルール、システムの違う企業との経営統合や業務提携は、どの企業にとっても無関係ではない。その際、投資家から要求されることはお互いの事業基盤を活用したシナジー効果をいかに早く実現するかである。
つまり、ITを活用して作り上げた内部統制の仕組みも、相手先システムと親和性・連携性を持って速やかに統合していくことが求められるのである。
これらの変化を収容するために、IT部門が考慮すべき点を2つ挙げたい。
1点目は「共通言語」の採用である。
業務やITプロセスに関しては、企業が違えばそれぞれ使用している単語や意味が違う、つまり「言語が違う」のが通常である。速やかな統合や連携を実現するうえで、言語の違いはコミュニケーションを取るうえでの障害となり、マイナス要因である。
特に前述のITプロセスの標準化をCOBITやITILなど、業界標準のフレームワークを利用して実現することはこの問題の解決策となる。
ITガバナンスにおける標準化の例
米サン・マイクロシステムズでの利用例
これらフレームワーク利用の効果は、世界規模で培われたベストプラクティスによって漏れや重複のないITガバナンスを実現するだけでなく、他企業とITプロセスに関するコミュニケーションを取る際の、共通言語を得ることである。特に経済のグローバル化が進行した今日においては、統合や提携相手が日本企業だとは限らない。そのためグローバル標準のフレームワークを採用することが利点をもたらす。
2点目は「連携性」の確保である。
経営者がガバナンスを確保していると表明するためには、従業員が業務プロセスを正しく実行していることが把握できなければならない。そのため、アクセス権限やビジネスプロセスをシステム上で可視化し、タイムリーに管理統制していくソリューションが重要であることは前述のとおりである。
しかしながら、こういった仕組みを特定パッケージの機能で作り込んだり、プロプライエタリな技術で作り込むことは、統合先や連携先が同じものを使っている保証がない以上得策とはいえない。オープンな技術に準拠し、多くのアプリケーションやシステムとの接続性や連携性に優れたソリューションの採用が成功の鍵となる。
これらはいまだ見ぬシステムと自社の仕組みをつなぐ、いわば「糊」のような役割を果たし速やかな統合とガバナンスの維持を可能にする。
M&Aが日常化したこれからの時代、IT部門にとっては、いままでのように個別の目的ありきで、一からシステムを作り込んでいる時間はないといえる。
いま必要なのは、「部分最適」で作ってきたシステムの集合を、予期しないビジネス要件の変化を収容できる「全体最適」なIT基盤として整備し直すという視点である。
ガバナンスの仕組みも全体最適の視点の中で効果をとらえ、実装される一要件であるといえるだろう。
次回以降は、具体的な個別のソリューションに焦点を当て、導入方法と効果について紹介していく。
野々上 仁(ののがみ ひとし)
ビジネスガバナンス・プロジェクト統括責任者
三菱化成(現:三菱化学)を経て、1996年よりサン・マイクロシステムズ勤務。
インダストリー営業、経営企画室を経験後、現在はパートナー第七営業統括部長兼ビジネスガバナンスプロジェクト統括責任者
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