さて、引き続き洋菓子屋さんについてドメインモデルを参考にしながら、ビジネスユースケースの実現を定義していきます。ビジネスユースケースの実現とは、ビジネスユースケースごとにその実現のために必要なビジネスオブジェクト(ビジネスエンティティやビジネスワーカ、ビジネスアクタ)の静的な構造と動的な振る舞いを定義します。
ビジネスユースケースの実現には、ビジネスを分析する段階のモデルとビジネスを設計する段階のモデルがありますが、今回はビジネスの中で使われるシステムまでは言及しませんので、ビジネスの分析段階のモデルを検討します。
まず、関係しそうなビジネスオブジェクトを識別します。ビジネスエンティティに関してはドメインモデルを参考にします。ビジネスワーカはビジネスワークフローを参考にします。
次に、これらビジネスオブジェクトの振る舞いをビジネス分析シーケンス図を使って検討します。ここでは、UMLのシーケンス図を使います。
識別したビジネスオブジェクトやビジネス分析シーケンス図を基にビジネス分析クラス図を検討します。
ビジネスアクタとビジネスエンティティ、ビジネスワーカとビジネスエンティティの間にも関係が引かれます。これらはビジネス分析シーケンス図から導くことができます。
ビジネスエンティティ間の関係は、ドメインモデルと同じになっていなければなりません。もしドメインモデルと一致しない場合は、ドメインモデルが間違っていないか検証する必要があります。
さらには、ビジネスユースケースの実現という作業を通して、ドメインモデルを洗練していくこともあります。一度にすべてを導き出さなければならないということはありません。徐々にモデルを洗練していって、最終的に質の高いものを導き出すことができればいいかと思います。
そういった意味では、ドメインモデルは早い段階で明らかになる、さまざまなビジネスユースケースの実現で使われる共通のビジネスオブジェクトであるといえます。
モデリングはある程度は慣れることが必要ですが、特にドメインモデルのような核となるモデルは、モデリングに慣れていないとなかなか容易に導くことはできないかもしれません。乗り越えなければならない壁がいくつかあるにしても、経験者やコンサルタントを中心にいくつかのビジネスモデルを作成することで、より良いモデルを導くことができるようになります。
ビジネスモデリングのメリットを考えれば、困難を乗り越えることによって得られる価値の方がはるかに大きいといえるでしょう。
なお、この連載は「戦略マップによるビジネスモデリング」(内田 功志、羽生田 栄一=著/翔泳社/2007年6月19日発売)を補完しています。ぜひこちらの書籍も参考にしてください。
内田 功志(うちだ いさし)
システムビューロ 代表。日立系のシステムハウスで筑波博に出展した空気圧ロボットのメインプログラマを務め、富士ゼロックス情報システムにてオブジェクト指向の風に触れ、C++を駆使して印刷業界向けのシステムを中心に多数のシステムを開発。現在、ITコンサルタントとして、システムの最適化や開発の効率化などの技術面、特にオブジェクト指向開発に関するコンサルティングやセミナーを実施してきた。最近ではビジネスに即したシステム化のコンサルティングを中心に活動している。
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