ユーザー主導型プロジェクトマネジメントのススメ実践 ユーザー主導型プロジェクトマネジメント(1)(1/2 ページ)

「ITはよく分からないから」といって、プロジェクトをベンダに丸投げして失敗に陥っている例は枚挙にいとまがない。プロジェクトの主導権をユーザー側に取り戻すために方策を考えていこう。

» 2008年05月21日 12時00分 公開
[岩本康弘,@IT]

プロジェクトに必須な業務プロセスの可視化

 わたしは一昨年、総工数 数千人月の大規模プロジェクトに、ユーザーPMとして参画する機会に恵まれました。

 このプロジェクトは幸いにして成功を収め、わたし自身、非常に大きな糧と自信を得るとともに、ユーザーがプロジェクトを牽引(けんいん)することの大切さや面白さを肌で感じる良い機会となりました。本連載では、これまでわたしが得た経験を基に、“ユーザー主導”でプロジェクトを推進することの意義、そして実践に即した考え方や行動指針などを、ユーザーPMの視点でご紹介していきたいと思います。

 下の図1は、この連載で題材として扱うプロジェクト体制の概要です。

図1 モデルプロジェクトの概要

 まず、ユーザー側の体制ですが、中央には本連載の主役であるユーザーPMと十数名の開発メンバーで構成された“ユーザー開発チーム”が存在します。そして、経営者や業務部門などの要求のステークホルダーは定常業務の傍らで参画しています。一方、開発側ですが、大小十数社、総勢200人ほどのスタッフが参画する典型的なマルチベンダ体制です。

 なお、あえて特定のプライムベンダを設定せずにユーザー開発チームが各ベンダの管理を直接行います。わたしはユーザー主導型プロジェクトマネジメントの遂行には、このようなユーザー開発チームを中心としたフラットな体制が適していると考えています。さて、1回目の今回は、ITプロジェクトの現状と、ユーザー主導型プロジェクトマネジメントの可能性について考察していきます。

ユーザー企業を取り巻く複雑なIT情勢

 近年、破綻(はたん)するITプロジェクトはどの程度あるのでしょう。一説によると国内のシステム構築案件における、不採算や赤字プロジェクトの損失額は年間約1000億円にも達するそうです。

 この要因はテクノロジの進歩に伴うシステム化領域の拡大などが考えられますが、IT系の雑誌や記事、調査機関のアンケートなどから総合的に判断しても、やはりユーザー企業の多くはITプロジェクトにおいて負のスパイラルに陥っているように見えます。

 事実、ROI向上TCO削減、セキュリティ確保など、ユーザー企業を取り巻くIT情勢は年々複雑化しています。それに合わせて、SIerやベンダが提案してくるトレンド技術も高度化しており、その有効性やフィージビリティの評価には相応の知識と経験が必要です。

ALT 図2 ユーザー企業を取り巻く複雑なIT情勢

 しかし、ユーザーの多くはこうした知識・経験が不足しており、そのためにベンダに主導権を委ねることになります。その結果として要求と乖離(かいり)したシステム、プロジェクトの破綻といった道を歩んでしまうことが少なくないようです。さらに、このような失敗が積み重なって一種のトラウマとなり、ユーザー企業の多くはシステム開発プロジェクト、あるいはITそのものに対して、ある種の負のイメージを抱いてしまっているのではないでしょうか。

 一方、SIerやベンダの見方はどうでしょう? わたしは、キャリアの大半をユーザー企業の立ち位置で過ごしてきましたが、幸いにも、過去に仕事をご一緒させていただいたSIerやベンダの皆さまとは、懇意にお付き合いしていただいております。

 彼らとの交流でよく耳にするのは、「ユーザー企業の多くはリテラシーが低く、ユーザーPMにも主体性がない以上、ユーザー主導を期待できない。プロジェクトを推進するには必然的にベンダ主導にならざるを得ない」といった趣旨の声です。これは(ある程度、事実であるだけに)極めて残念なことだと感じています。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ