ユーザー主導型プロジェクトマネジメントのススメ実践 ユーザー主導型プロジェクトマネジメント(1)(2/2 ページ)

» 2008年05月21日 12時00分 公開
[岩本康弘,@IT]
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ベンダ主導型プロジェクトの問題

 このようにIT情勢が複雑化し、破綻プロジェクトが増えているにもかかわらず、ベンダ主導型のプロジェクト・アウトソーシングが隆盛なのは極めて深刻なことです。事実、ベンダ主導型プロジェクトでは、以下のような事柄について問題が発生することが少なくありません。

1 − 要求と仕様の乖離

 往々にしてユーザー(経営者、業務部門など)の要求には複雑性やあいまい性があり、ときには矛盾していることもあります。このようなあいまい性はユーザーが積極的にプロジェクトへ参画し、関係者間で議論を重ねていく中で解消されていくものです。

 しかし、一般にユーザーは定常業務との掛け持ちが多く、プロジェクトに十分時間を割けないのが通例です。このような場合、ユーザー開発チーム(ユーザーPM、開発メンバー)は、積極的にユーザーに働き掛けをしながら距離を縮め、最終的にはRFPなどに展開し、要求と仕様の乖離を極小化する必要があります。

2 − 要求の統制

 ユーザー側のステークホルダー間で相反する要求が出てくることがよくあります。この場合、問題を先送りせず関連するステークホルダーを招集し、速やかな要求の調停と関係者間のコンセンサスを得る必要があります。

 そのためには各ステークホルダーの性質や力関係、制約などを勘案し、ほかの要求との整合性やバランスを保ちながら検討を進めることになりますが、これらは社内ネゴが中心です。つまり、企業文化やステークホルダーとの信頼関係が大きなウエートを占めるため、ユーザー開発チームは日ごろから彼らとの関係強化を心掛ける必要があります。

3 − システムポリシーと標準化

 企業情報システムの統制には、全社一貫したシステムポリシーと標準の策定、及びプロジェクトにおける正しい運用が必要です。ユーザーの規定に沿ったシステムは保守性や品質、セキュリティレベルなどが均一になり、サービスレベルが安定するとともに、リリース後のエンハンスや保守効率の向上などが期待できます。これらを怠ると、システム設計はベンダの裁量に依存してしまい、結果的にサービスレベルや品質に偏りが生じます。また、全社に標準と乖離したシステムが散在してしまうことで、深刻な保守効率の低下を招く恐れがあります。

4 − 見積もりの妥当性検証

 プロジェクトは限られた予算枠で、要求と品質を満たすことが求められるため、適切なコストバランスやコストコントロールの施策が必要です。一般的にはシステム開発費の大半は人件費であり、大規模プロジェクトの場合、その大半がベンダの人件費ということになります。従って、ユーザー開発チームがベンダ見積もりの妥当性を測ることができなければ、コストコントロール自体が極めて困難になります。

5 − ベンダロックイン

 ベンダ主導型はすなわち特定のベンダにロックインしてしまっている状態ともいえます。特定のベンダにロックインしてしまうと、ベンダ間に競争原理が働かないために緊張感が欠落する、あるいはコスト面で不利になるといった影響をこうむることが考えられます。

ユーザー主導型プロジェクトにおけるユーザーPMの責務

 では、ユーザー主導型におけるユーザーPMの責務について考えてみましょう。一定規模以上のプロジェクトであれば、一般的に二者のPMが存在します。一者はベンダの管理者であるベンダPM。もう一者はプロジェクトの全体の管理者であるユーザーPMです。どちらも納期とコスト、そして品質を確保しながらプロジェクトを推進する役割を担いますが、そのスコープには大きな違いがあります。

 下の図3のように、ユーザーPMはエンドユーザーと開発ベンダのはざまにあって、さまざまな要求や思考、経験、スキルを持ったステークホルダーと密にかかわっていくことになります。見方を変えると、このような複雑な環境だからこそ、ユーザーPMがリーダーと調停役の二役をこなさなければ、プロジェクトを円滑に遂行することができないともいえます。

ALT 図3 ユーザーPMとステークホルダーの関係

 特に、この連載で取り上げるモデルケースのような大規模プロジェクトでは、多様な要素が複雑に絡み合うことによって大小さまざまなトラブルが日常的に発生するため、明文化された手順だけで統制を取るのは極めて困難です。つまり、ユーザーPMにはプロジェクトマネジメント論やPMBOKといった普遍的な知識体系だけでは不十分であり、状況に応じた“プラスアルファ”の施策や考え方が必要になります。例えば、チームに価値観を浸透させることやメンバーの鼓舞、啓蒙といった心理に働き掛ける活動、局面に応じたKKD(勘、経験、度胸)の発揮などがこれに当たります。

 このように、ユーザー主導型プロジェクトマネジメントの遂行には、知識体系プラスアルファを持ち合わせた、実践に強い真のユーザーPMとしてレベルアップすることが求められています。

ALT 図4 ユーザーPMに必要な素養

ユーザー主導型プロジェクトマネジメントのススメ

 さて皆さまの現場では、ユーザー主導のプロジェクト遂行ができているでしょうか? 実際にはステークホルダーの調整に忙殺され、現場はメンバーやベンダに任せっ放しということはないでしょうか? プロジェクトの所有者はユーザーであり、プロジェクトを成功に導くのもユーザーです。失敗を繰り返さないためにもユーザーPMが主導者としての自覚を持ち、“ユーザー主導型プロジェクトマネジメント”の実践に取り組んでいただければと切に願います。


 次回は、ユーザー主導型への取り組み第1弾として、ユーザー側の開発体制について考えてみたいと思います。

筆者プロフィール

岩本 康弘(いわもと やすひろ)

大学卒業後、プログラマからアーキテクトの道を歩み、エンジニアリング系や医療系、銀行系など多岐の分野にわたる分野のシステム構築に携わる。昨年まで某金融機関のシステム部門に在籍し、プロジェクトマネージャ兼アーキテクトとしてインターネットバンキングシステムの構築に従事。直近では基幹系システムの全面刷新プロジェクト(数千人月規模)を担当。EJBベースからPOJOベースへのマイグレーションに取り組み成功を収めている。


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