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» 2007年12月21日 12時00分 公開

目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(15):仕事人間がもらったすてきなクリスマスプレゼント (2/4)

[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

ひと回り大きくなった伊東の切ない思い

 軌道修正が全体に大きな影響を及ぼすことがないかどうか、各部署を回って調整を重ねるのが、最近の坂口の主な役割になりつつある。今日の天海との打ち合わせも、そのためだった。

 坂口にパーティーに誘われた天海は、突然の話に面食らっていたようだった。しかし、

天海 「松嶋さんって、あのコンサルティング会社の女性よね? どこかで見たことがあると思ったら、サンドラフトサポート出身だったのかぁ。この年になってくると、同期も減ってくるし、ましてや同じ年代の女性ってなかなかいないから、話ができるのは悪くないわね」

 と、誘いに乗ることにしたようだ。

 コートを脱いでふぅ、と息をついた坂口に飲み物が手渡された。

隆史 「どうぞ」

坂口 「あ、ありがとうございます。えーっと……」

隆史 「坂口くんだろ? おれは松嶋隆史。七海やまりんから、よく話を聞いてるから、すぐに分かったよ」

坂口 「あ! す、すみません、ごあいさつが遅くなりました。坂口です。いつも松嶋さんにはお世話になってます!」

 慌てる坂口に、松嶋の夫・隆史はにっこりと笑って見せた。よく日に焼けた隆史は、いかにもスポーツマンらしいさわやかさを持っている。

隆史 「七海に聞いたんだけど、君はいまICタグだったっけ? あれ、やってるんだってね。ほら、生徒の登下校時刻や、現在位置を知らせたりするヤツ」

坂口 「よくご存じですね! そういえば、隆史さんは、小学校の先生なんでしたっけ? 少年サッカーチームのコーチもやってらっしゃると、前に松嶋さんから伺った覚えがあります。僕たちは生徒さんの居所ではなく、製品の居所や属性を知るためにその技術を使うんですが、学校向けの事例も幾つか調べたことがありますよ。興味がおありですか?」

隆史 「そりゃあね。もちろん、自分の生徒たちのこともできる限り守ってやりたいし、何よりまりんに何かあったらと思うと心配なんだよ! うちのまりん、かわいいからさぁ。あんなにかわいい子、君見たことある? ないだろ〜?」

坂口 「は、はぁ……まぁ……」

 確かにまりんは母親によく似た整った顔立ちをしている。しかし、それを照れもせずに力説できる隆史は、相当の親バカなのではないか。

 苦笑しつつも、坂口は、隆史のサバサバとした明るい話し方に好感を持った。

 そのころ谷田は、松嶋家へ向かう途上にあった。

谷田 「それにしても、伊東さんが迎えに来てくれるなんて、思ってもいなかったわ」

伊東 「えへへ。今日は副センター長のお供で、新宿に来てたんです。あ、ぼ、ぼきゅいま、配送センターで作業させてもらってるんですよ。分からないことだらけで、最初のうちはもう、どなられてばっかりだったんですけどね。今日は、『おい、お前も一緒に来い』、なーんて言ってもらえて、打ち合わせに参加しちゃいました。副センター長っていうのが、岸谷さんっていって、これまたすごく怖い人なんですけど、その人が言うには……」

 伊東の話は、先ほどからずっと続いている。谷田はその熱の入った話しぶりに感心しながら聞いていた。

 会社のロビーで伊東に声を掛けられたときも、予想外のことにびっくりしたが、それ以上に、いままでのどこかオドオドとした様子がすっかり鳴りをひそめ、明るい笑顔で話し掛けてくる伊東の様子が意外だった。生き生きとした話しぶりは、いままでの伊東にはなかったものだ。

 谷田は数日前から風邪を引いていたため、いまも少し体がだるい。先日、伊東からの電話があった日も、会社の健康管理室へ行っていたのだ。まだせきも出るので、ほかの出席者にうつしてはいけないし、今日のクリスマスパーティーは欠席しようかと考えながら会社を出てきたのだが、「谷田さ?ん! お迎えにあがりましたぁ?!!」という伊東の明るい声に乗せられ、顔だけでも出そうかと一緒に松嶋家へ行くことにした。

谷田 「(坂口さん、来るのかな……。会いたいけど、なんだか気まずいな……)」

 伊東の話に相づちを打ちながら、ふと坂口のことを思い出した。坂口から連絡がないのは自分の態度に坂口が腹を立てているせいだろうと、谷田は考えている。でも、あのときいった言葉に後悔はしていない。

谷田 「(このまま、坂口さんとは会えなくなっちゃうのかも……でも、こんなに頑張ってる伊東さんを馬鹿にするようなことを、やっぱり坂口さんにはしてほしくなかったな……)」

伊東 「それでね……。谷田さん、聞いてますか?」

谷田 「え!? ええ、ごめんなさい。何だったかしら」

伊東 「ぼきゅ……ぼきゅね、すごく坂口さんに感謝してるんですよ」

谷田 「え? さ、坂口さん?」

 伊東は谷田の顔を見た。伊東にしてみれば、坂口は恋のライバルだ。谷田の笑顔を見れば、やはり「ずっと自分の側にいて、この笑顔を見せてほしい」と思う。しかし、谷田が何か考えごとをしているのを見て、ピンとくるものがあった。

伊東 「(ああ、やっぱり谷田さんは、坂口さんのことを考えてるんだなぁ……)」

 松下から話を聞いたときには驚いたが、思い返してみると、谷田はいつも坂口のことを目で追っていたし、一番話がはずんだのは、坂口の話題だったような気がする。伊東は1つの決意を持って、目を丸くしている谷田に言った。

伊東 「ぼ、ぼきゅ、すごくうれしかったんです。坂口さんが、仕事を任せてくれたとき。IT企画推進室に異動して坂口さんと出会ってから、いろいろなことを教えてもらったけど、イマイチ実際の作業と結び付いていなくって。だから、いままで勉強したことを仕事に生かすチャンスをくれた坂口さんに、すごく感謝してたんです。なのに、ぼきゅ、坂口さんにアドバイスをもらっておきながら、大失敗しちゃって……。でも、坂口さんはそれを責めずに、配送センターで仕事を覚えたいっていうぼきゅのワガママを、真剣に聞いてくれました!」

谷田 「(そうだったんだ……。坂口さん……)」

伊東 「ぼきゅ、いま、仕事が楽しくてしょうがないんです。なんか、初めて自分がサンドラフトの社員だってことに誇りっていうのかなぁ。大げさだけど、そんなものを感じてるんです。配送センターからは、僕たちの会社が作ったビールがトラックに乗せられて、日本中に届けられるんですよ! うちのビールを手にしてくれてるお客さまを見かけると、あぁ、これはこの前僕が見送ったビールかも。なーんて思って、『うちのビールを買ってくれて、ありがとうございました! おいしく飲んでやってくださいね!』って言いたくなるんです。それが、うれしくってうれしくって……。坂口さんにメール書いたら『分かるよ、その気持ち! よかったな!』って、一緒になって喜んでくれました。今日も、ぼきゅの書いた業務フローに、丁寧にコメント付けて返事くれたんです」

谷田 「そうなんだ……」

伊東 「そ、それで、ぼきゅ思ったんです。坂口さんは、こちらの一生懸命な気持ちをちゃんと分かってくれる人なんだって。自分も一緒になって、頑張ってくれる人なんだなって」

 谷田は、思い出していた。

谷田 「(そうよね……私は、坂口さんのそんなところに引かれたのよね……)」

伊東 「谷田さん。だから、谷田さんの気持ちも、きっと坂口さんに伝わりますよ!」

谷田 「えっ!? い、伊東さん、どうして……」

伊東 「えへへ。カンです。恋する男のカン、な〜んて。ぼきゅも、谷田さんのこと大好きだから、分かります!」

谷田 「い、伊東さん!?」

 伊東は、視線をそらすことなく、言葉を続けた。

伊東 「前に聞かれたときは、恥ずかしくってごまかしちゃいましたけど、ぼ、ぼきゅ、ずっと谷田さんのこと、好きでした。いまも、すごく好きです。大好きです。でも、谷田さんが一番すてきな笑顔を見せられるのは、きっと坂口さんだけなんですよね……。谷田さん、坂口さんは格好いいですよ。仕事に打ち込み始めると、ほかのことが目に入らなくなっちゃうところもあるけど、あんなにまっすぐで一生懸命な人いないですよ。ぼきゅ……ぼきゅ、応援しますから! だから……だから……」

 最後の方は涙声になってしまったが、伊東は自分の気持ちをはっきり伝えることができて満足だった。松下から話を聞いたことは、黙っていようと思っている。話のはずみだったとはいえ、そんな話を陰で聞いていたことを知ったら、谷田が傷つくのではないかと思ったからだ。

谷田 「伊東さん、ごめんなさい……。ありがとね……」

伊東 「い、いいんですよ、ぼきゅなんて! そ、それより、谷田さん、誰かすてきな人を知っていたら今度紹介してくださいね! ぼきゅ、ぼきゅ、こう見えても理想が高いから、谷田さんと同じぐらいすてきな人じゃなかったら、嫌ですからね!」

谷田 「そうね……。伊東さんのいいところに、ちゃんと気付いてくれる、すてきな人を探してみるわ」

 坂口のどこを好きになったのか、思い出させてくれた伊東に感謝しつつ、谷田はこちらも目に涙を浮かべながらも、伊東と笑顔を交わした。

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