基本設計での要件定義変更数357件、東証の次世代売買システム開発上流工程で品質作りこみ

» 2008年01月23日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 システム開発における上流工程の問題をテーマとした「要求シンポジウム」(主催:独立行政法人 情報処理推進機構、NTTデータ)の第2回が1月23日、都内で開催された。特別講演を行ったのは、東京証券取引所 常務取締役(最高情報責任者) 鈴木義伯氏。「東証次世代システム開発の上流工程と課題」と題し、現在構築中の次世代売買システムにおける開発プロセスの改善について講演を行った。

 東証が構築中の売買システムは2010年の稼働を予定しており、現在は詳細設計の段階にある。開発の上流工程で品質の作りこみを行うことにプロセス改善の力点を置いていると鈴木氏は言い、要件定義から基本設計段階の作業について、具体的な数値を挙げながら話を進めた。

東証写真 東京証券取引所 常務取締役(最高情報責任者) 鈴木義伯氏

 プロセス改善の取り組みとして、鈴木氏はいくつかのポイントを指摘する。1つは、発注者責任の明確化。今回のプロジェクトでは、ベンダを選定する際に、詳細入札仕様書(RFP約1500ページ)を作成、公開入札を行った。要件定義、外部仕様書、外部接続仕様書も内製した。要件定義書+外部設計書の分量は4000ページに達した。発注者として、RFPの作成に責任を持ち、曖昧(あいまい)な要求をベンダに丸投げするという姿勢を徹底排除した。

 上流工程で品質を作りこむために、基本設計の段階で、要件定義の充足度をチェックする体制を作った。要件定義の変更管理を厳密に行い、「どんな小さな(要件の)変更もわたしの判断を入れるようにした」と鈴木氏は言う。要件定義から基本設計に至るステップで発生した要件変更の要請は965件。このうち、変更の必要可能性があるものを約600件まで絞り、実際に見直したのは357件。方式の変更も41件出た。受入テスト段階で要件定義の変更を行う場合、1件の変更につき、通常「50〜100万円かかる」(鈴木氏)という。

 基本設計での変更を前提としながらも、要件定義書の作成には力を入れた。第1版を2006年9月末に作成し、新派生システム(類似システム)による網羅性チェックおよびユーザー部門、他チームによるレビューを経た後、第2版を2006年12月末に完成。これを開発ベンダの検査部門および、外部機関による網羅性チェックにかけ、第3版を2007年5月末にリリースした。東証側では50人のスタッフが作業を担当した。初期段階では、ドキュメント間における処理や用語定義の不整合の見直しを実施。画面要件は、遷移図や入力パターン一覧などで要件不備の洗い出しを行った。このように作成された要件定義書は、前述のように、基本設計、詳細設計を通じて、変更されていく。ゆえに、変更管理を厳密に行う。

 開発ベンダとの間にはSLA(サービス・レベル・アグリーメント)契約を締結し、システムの品質に対し、お互いの責任を明確にする取り決めを行った。例えば、ベンダが作成した機能設計書について、東証側がレビューを行うとする。その際、発生するバグの数1件につき、ベンダ側は10万円を支払う。東証側のチェックミス(業務要件漏れなど)ということであれば、東証側が10万円を出す。鈴木氏によると、同システムは「3桁規模」(数百億円)の巨大なもので、1件につき10万円のペナルティは小さなものに感じられるが、積もれば莫大(ばくだい)な金額に膨れ上がる可能性がある。

 次の工程の準備を前の工程にあらかじめ組み込んでおき、評価の対象とするという取り組みも実施している。工程と工程の間に生じる“作業の切れ目”を減らし、作業の効率化を図りながら、構築するシステムの品質を維持する試みである。

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