第3回 避けて通れないIT部門の意識改革プロジェクト・ポートフォリオ管理の基礎(2/2 ページ)

» 2008年03月25日 12時00分 公開
[小林秀雄,@IT]
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最適な「評価項目」をいかに選択するか

 プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、いくつもの評価項目によってプロジェクトに点数を付け、しかも「一覧」でプロジェクトごとに点数を見せてくれる機能をテンプレートとして持っている。その機能は要求管理のフェイズにおけるプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの最大のウリであり、それがCIOやIT部門の助けとなると期待されるのだが、すぐさまその機能を使いこなせるというわけにはいかないようだ。

 例えば、業種によって採用する評価項目は異なってくる。「製造業と製薬業では選ぶ評価項目が変わってくる」(日本HPソフトウェア統括本部ソフトウェア・マーケティング部BTOソリューションスペシャリストの松木仁氏)。しかも、業種の違いだけでなく、企業の戦略によっても評価項目の重み付けは異なるはず。CIOは、どのような評価項目を選択すべきかという課題に直面する。

 それを初めからきちんと行うことは難しいことに違いない。何しろ、プロジェクトの数は膨大だし、「評価項目が6項目以上になると評価作業は大きなものとなる」(日本HPの松木氏)からである。CIOが期待するのは、数値に基づいて公平にプロジェクトを採点することだが、それを実行することはかなり高いハードルだといえそうだ。

 そこで、各ベンダは、そのハードルをスムーズに超えていけるよう、コンサルタントが参画して導いていくという手法を取っている。導入の初期段階でユーザー企業が自力で使いこなすことは、少なくとも現時点では難しいといえる。企業のIT部門はまず、ベンダのコンサルティングを受けつつ、ツールに習熟していくことになるだろう。

進捗(しんちょく)データを入力していく作業も大変に

 要求管理フェイズにおけるハードルを超えたとしても、ツールの効果を十二分に引き出すためにさらに高いハードルが待ち受けている。それは、プロジェクトの進捗に応じて絶え間なくデータ入力を行っていくことである。

 プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、要求管理のフェイズにおいて、どのプロジェクトを採用し、どのプロジェクトを見送るかというプロセスを効率化してくれるのだが、その機能はポートフォリオ管理の側面である。それに加えて、このツールには、プロジェクト管理の機能がある。プロジェクト管理機能を使うと、プロジェクトの進捗を把握することができる。それによって、破綻しそうなプロジェクトを素早く見つけ出し、対策を打つことができる。また、当初見積もった開発期間や開発コストの妥当性も数値で検証できる。つまり、プロジェクトの「採否」「開発」「評価」をライフサイクルで回していける基盤として機能するのがプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールなのだ。そのサイクルを回していくことによって、IT部門の成熟度が高まっていくと考えられる。

 しかし、そうした効果を手に入れるためには、IT部門の社員が1週間に一度というサイクルでどこまでプロジェクトが進捗したかをデータとして入力する必要がある。プロジェクトの数が少なければ困難ではないだろうが、そもそも、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを必要とする企業の中では数十を超えるプロジェクトを抱えているはずだ。100のプロジェクトが走っていれば、100のプロジェクトの進捗データを毎週入力するということを定着させること。それは、大変な作業に違いない。

 これらの作業は、(プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの)プロジェクトの妥当性を計る機能を使いこなすためには避けて通れない道のようだ。数値でプロジェクトの採否を判断し、また、その判断そのものをあとで検証するためには、要求管理フェイズだけでなく、プロジェクトの進捗管理フェイズにおいても数値を入力していかなければならないからである。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを使いこなすためには、数値入力することが前提となる。それを漏れがないように組織として実行し続けていく文化を定着させなければならない。CIOにはそうした面でリーダーシップを発揮することが求められるだろう。

IT部門全体の成熟度を向上させるステップボード

 プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを使いこなしているという実感をCIOやIT部門が持てるようになるには、3〜4年かかるとベンダ各社は異口同音に語る。また、同様に「成熟度」という言葉も各社の取材で聞かれた。例えば「ポートフォリオマネジメントの成熟度とプロジェクトの投資効果を調査した結果によると、ポートフォリオマネジメントの成熟度が高い企業ほど、プロジェクトの投資効果が高い」(日本IBMソフトウエア事業ラショナル事業部の春原秀仁氏)という指摘が典型である。

 成熟の意味は、性急に効果を求めるのではなく、時間をかけてツールの効果を引き出すべく、IT部門自体が自分たちの文化を変えていくことである。従来は、ともすればプロジェクトの達成(開発の終了)にパワーを奪われ、プロジェクトが生み出した効果を計ることはおろそかになりがちだった。しかし、ITシステムは「作って終わり」ではなく、作ってから稼働してどのような効果が得られたかをモニタリングすることが大切なはずだ。

 上述したように、ポートフォリオマネジメントは、1年に1回、要求管理のフェイズに利用すればいいというものではない。それでは、プロジェクトの効果を検証できないからである。プロジェクトの効果を検証するためには、リアルタイム的にプロジェクト担当者が進捗データを入力することが求められるし、「それを実行していくことによって、プロジェクトが健全に回るという意識を持つことが必要」(日本IBMの春原氏)だ。日本CAの国和徳之氏(マーケティング部ビジネスユニット・マーケティングのマーケティングマネージャー)も、「ツールはあくまでも土台であり、人の認識や仕事の仕方が一緒に回らないとツールの持っている価値が生きない」と語る。

 プロジェクトの進捗データを入力し続けることは決して面白い作業ではないだろう。しかし、冒頭で述べたようにそのことが企業として、そしてIT部門としての成熟度を向上させることにつながるのである。そう考えると、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、IT部門に属する個人と、IT部門という組織全体の両者に対して成熟度を高めるステップボードとなるし、また、IT部門に対して意識改革を迫るトリガーなのかもしれない。

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