業務アプリケーションのパッケージソフトウェアからSaaSへの流れが本格化しようとしているが、ISVにとって既存アプリケーションのSaaS化は容易ではない。技術、ビジネスモデル双方での転換が必要となるため躊躇するISVは多いだろう。技術面だけで見ても冗長構成を持つサーバの運用やユーザー企業のアカウント管理システムなどのSaaSインフラ整備は中堅のISVにはハードルが高い。
こうしたことから他社のアプリケーションを自社のSaaSインフラ上でホストする“マルチテナント”型のSaaSベンダとして、セールスフォース・ドットコムやネットスイートが、特に米国を中心に利用者数を伸ばしている。
国内ではまだ知名度は高くないがネットスイートの取り組みは、SaaS移行を検討中の日本のISVにとって福音となるかもしれない。同社日本法人は3月に「NS-BOS」(NetSuite Business Operating System)を発表。特に業種特化型のアプリケーションを中堅企業に提供するISVに対して、同社が“ビジネスOS”と呼ぶプラットフォームの利用を呼びかけている。
ネットスイート上席執行役員の高沢冬樹氏(マーケティング・営業推進本部長)は、NS-BOSを4つのスタックに分けて説明する。
最下層はマルチテナント型の常時稼働のサーバインフラ。99.5%のアップタイムをSLAで保証しており、「これまでに99.9%を割る実績は見たことがない」(高沢氏)という。
その上に「Integrated Suite」と呼ぶ業務アプリケーションのコア機能のスイートを用意。オンデマンドのERP、CRM、電子商取引のコンポーネントがあらかじめ統合された形で用意されている。すべての業務アプリケーションで必要となる会計、在庫、注文管理といった機能を利用しつつ、ISVは自社が得意とする特定業界向けの機能を構築できる。高沢氏は、競合となるセールスフォース・ドットコムとの違いの1つは、この業務コアスイートにあるという。セールスフォースはより汎用的な基盤を用意しているため、さまざまな用途のアプリケーションが構築しやすい反面、ダッシュボードからの一元管理や他アプリケーションとの連携・統合といった面ではネットスイートに比べて不利になるのではないかという。
米国で先行するセールスフォースはユーザーやISV、開発者などがソフトウェアモジュールを売買する場「AppExchange」の利用が盛んで水平分業型のエコシステムが成立している。一方、ネットスイートは業務向けコア機能をスイートで提供し、その上でISVが垂直型ソリューションを構築・提供しやすくしているという違いがある。
Integrated Suite上に開発環境の「SuiteFlex」がある。ポイント・アンド・クリック式ツール「SuiteBuilder」、SOAP準拠のWebサービスAPI「SuiteTalk」、JavaScriptベースの開発言語「SuiteScript」を使った開発環境が利用できる。これまでローカルPC上のIDEなどで行ってきたモジュール単位のデバッグ作業が、サーバ環境で行える「SuiteScript D-Bug」を用意。ステップ実行や計算式の評価など一般的なデバッガの機能を備えるなど、SaaSプラットフォームベンダとして先進的な取り組みを進めている。
「SuiteBundler」は顧客に展開済みの垂直型の既存アプリケーションを、別の顧客向けに再パッケージする機能だ。ネットスイートが狙うのは中小規模の企業ユーザーを相手に、業界固有のノウハウを詰め込んだ業務アプリケーションを作成するISV。こうしたISVにとって既存アプリケーションのモジュールを選択、カスタマイズして展開するだけで新規顧客にソリューションを提供、「マージンの高いビジネスができる」(高沢氏)というメリットがある。高沢氏はeラーニングシステムを、クッキングスクール向けに再利用する例を挙げ、細分化された隣接業種への展開の容易さがNS-BOSのメリットだと強調した。
同社のグローバルでの顧客数は約5400社(2007年9月時点)、国内のユーザー企業は「数十社というレベル」。国内のパートナーについても「10社以上に名乗りを上げていただいているが、本格的なパートナーのリクルーティング活動は今後3カ月で行う」としている。
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