ある事象についてマクロの視点で分析する「PEST分析」。このPEST分析をいまの日本のIT市場に当てはめるとどうなるのだろうか。日本IBMの専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業担当のピーター・カービー(Peter Kirby)氏はPEST分析の結果から、「IT市場は緩やかながらも拡大する」と指摘する。
PEST分析とは、Political(政治・法的環境)、Economic(経済環境)、Sociological(社会環境)、 Technological(技術環境)の4点からマクロ的に事象を分析する手法。カービー氏によれば、いまの日本のIT市場は、政治的には規制緩和が行われる一方で、日本版SOX法や会計基準の変更など規制強化がみられると指摘。経済的にはグローバル化と業界再編、M&Aへの対応が求められ、社会的には労働人口の減少や環境問題への関心の向上があると説明した。そして技術的にはSOAの普及と、オープン化や仮想化技術が進展していると話した。
そのうえで、今後は「IT市場は緩やかながらも拡大する」と指摘。このPEST分析の傾向は日本だけではなく、グローバルでもある程度共通するとして、日本企業は「グローバルの能力を活用するためのIT投資が多くなる」と述べた。労働人口の減少を補うためにアウトソーシングの利用も拡大すると説明。さらに ITを競争力の源泉とするために、SOAなどITをサービス、プロセス単位で活用できる技術の利用が増えると話した。
IBMでビジネスコンサルティングやシステム構築、アウトソーシングなどビジネス寄りのサービスを展開しているグローバル・ビジネス・サービス事業が、この分析を受けて、2008年に注力するのは同社が「グローバル・デリバリー」と呼ぶアウトソーシングサービスだ。日本で受注したプロジェクトの開発を中国やインド、マニラ、南米など複数の開発拠点「グローバル・デリバリー・センター」で実行するアウトソーシングサービスで、カービー氏は「IBMの強みは開発プロジェクトの経験が社内に残ること」と話す。
インドなどの現地のITサービス企業と組んでアウトソーシングサービスを展開する企業では、開発のノウハウが流出し、次の開発に生かすことができないケースがある。しかし、社内にアウトソーシングの開発拠点を持つのであれば、ノウハウを次のプロジェクトに生かすことができる。カービー氏によると、日本企業のプロジェクトでも複数の開発拠点を使うケースが増えているという。
複数の拠点でアウトソーシング開発を行う場合に心配なのは、その品質。IBMは「どのセンターでも同じ手法、同じツール、同じアプローチを使うことで1つのプロジェクトを複数のセンターで開発できるようにしている」とカービー氏は説明する。IBMは開発のツールやノウハウ、メソッドなどを「グローバル・アセット」として登録、管理している。日本発のアセットもあり、開発の生産性を向上させているというが、「日本は顧客のこだわりが強く、独自開発が多い」とも話し、完全アセットベースによる「開発しない開発」はまだ行っていないという。
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